「まだ観ぬ作家を追悼することも再評価することもできないはずだ」。
チラシの惹句にもそうある。もちろん、異論のあるはずがない。
1935年生まれの木村栄文とは、1970年代から90年代にかけての約40年間、RKB毎日放送のディレクターとしてドキュメンタリーを作り続けた男である。あらかじめ記しておくと、彼はすでに2011年、この世を去っている。つまり新作を見ることはもはやかなわないわけだが、木村栄文の作品に接したことのない人間にとって、彼の残したまだ見ぬ作品はすべて新作なのだから、ひとまずその幸福をかみしめるのが筋だろう。
とにかく、どれから見るべきなのか判断がつかなければ、何も考えず劇場に飛び込めば良い。9プログラムに分けて上映される12作品のうち、どれに出会ってしまっても、テレビという媒体に「こんな自由」があったのかという素朴だが決定的とも言える驚きにはじまり、その「自由」というのは「不可解なものに接する自由」だったのではないかとか、不可解なものの排除を望み「不自由さ」を望んだのは結局のところ誰だったのか、いや、「不可解さ」などと言ってしまったがどの作品も「わかりにくい」ということではないぞ、それではいったいどういうことなのか、などといった、散り散りに乱れ飛ぶ感想一切合切すべてをひっくるめた上で、ひと言「面白い」と漏らすしかない体験が保証されているは確かなのだから。
『あいラブ優ちゃん』より
『あいラブ優ちゃん』の中で見られる木村栄文(きむら・ひでふみ)その人
『まっくら』より
と、ここまで書いてみてもまだ上映9作品のうち半数にも達していないのだ。こんなうれしいことは、なかなかない。
『木村栄文 レトロスペクティブ』
2/11(土)〜3/2(金)オーディトリウム渋谷にて開催ほか全国順次巡回
□ オフィシャルサイト
www.kimura-eibun.com/
トップ/サムネイル:『むかし男ありけり』より
公開情報
(C)RKB毎日放送
初出
2012.02.10 10:30 | FILMS