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スコット・スチュワート監督
『ダークスカイズ』

真っ当に機能する

文=

updated 07.03.2013

郊外に住む四人家族。周囲の景色に溶け込み、大きな問題を抱えているようには見えないが、実のところ夫は失職中で、不動産業を営む妻の収入に頼る生活がしばらく続き、支払いの滞った請求書も溜まりつつある。だが、そうした不安を含めて、郊外生活者の典型像とも言える。

そういう一家が、“侵入者”の気配に悩まされ始める。夫は耳の後ろに奇妙なただれを見つけ、妻は耳鳴りに苦しみ、幼い末っ子は夢遊病らしき症状を見せる。それは、“一見平凡な幸福を体現しているかのような郊外生活の欺瞞”というやつが崩壊してゆく様のようにも見えるだろう。それこそが、“侵入者”の暗喩しているものなのだと。

経済的な先行き不安から夫婦の関係には影が差し、そんな両親を冷ややかに見つめる思春期の長男は、弟にとっての緩衝剤になろうと務めているのだから、一家は交差する二つの亀裂を抱えていることになる。怪現象のひとつやふたつ起ころうというものだ。

その“気配”が心霊現象の方へと振れてゆけば、幽霊屋敷ものができあがるだろう。だが、この映画がそちらに向かわないことは、直ちに表明される。早い段階で、“侵入者”がある徴(しるし)を残していくのだ。それは、円や直線の組み合わせによって出来ている。ミステリーサークルなどで見かける、我々にもお馴染みの、それである。要するに、シャマランの『サイン』なのだ。だが、「なんだ。そんなのたくさん見てきたよ」と落胆するのは早い。

そもそも『サイン』からして、というよりシャマラン作品のほとんどが、既存のジャンル的要素を極めて巧みに再構成してゆく点において優れていたのであるし、いわば新奇性の欠如に自覚的であるが故に、ある時期までのシャマラン作品は、制作段階での厳重な秘密主義を貫いていたのではなかったか。スティーヴン・キングの小説がそうであるように、語りの超絶的なうまさとあらすじレベルでの馴染み深さ(=既視感)が組み合わされることによって、圧倒的なポピュラリティを獲得していたと言い換えることも出来るだろう。

 

つまるところ本作は、端からそういう作品だけを目指している。見せるものと見せないもののバランスを徐々に転回してゆく呼吸と、ついに核心が姿を現す瞬間のさじ加減。それが薄すぎては消化不良になるし、濃すぎてもバカバカしさが際立つということになりかねないそのライン上で、手堅い戦いを繰り広げるのだ。なによりも、限られた予算の中で、真っ当に機能するヴィジュアル表現を実現し得ている。

 

たしかに、これがシャマラン作品であったとしたら、作品の強い吸引力を形成する要素のひとつとして、家族の中の不信がもっと鮮明な形で物語を転がす車輪の中に導入されていたことだろう。本作の主人公一家は、機能不全に引き裂かれかけはするものの、緊急事態を前にどうにか団結を果たすというかたちで踏みとどまる。

だがそうした部分のダウンサイズ感もまた、そういう要素だけが際立ちすぎては、(この企画においては)バランスを欠くことになり、結果として面白さを減退させることになるという鬼門を理解した上で敢えて行われた選択であるというような説得力を持ち、全体としては十分隙無く楽しめる仕上がりを実現しているのだ。

このくらいの規模でいいから、同程度のクオリティを持った作品があたりまえのように量産されるといいのに、と感じさせる映画である。

☆ ☆ ☆

『ダークスカイズ』
7月6日シネマサンシャイン池袋ほか全国ロードショー
公式サイト http://ds-movie.jp/#top
(c)2013 ALLIANCE FILMS (UK) DARK SKIES LIMITED All.
配給:ショウゲート

 

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初出

2013.07.03 09:30 | FILMS