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ティモ・ヴオレンソラ監督
『アイアン・スカイ』

意外にも破綻ナシ!

文=

updated 09.28.2012

第二次大戦終結間際に月へと脱出していたナチスの残党が、2018年、満を持して地球征服のために降下をはじめるというお話。そのきっかけとなるのが、46年ぶりに月面に降り立ったアメリカ人宇宙飛行士との遭遇。

どこかで聞いたことがあるような気はするが、具体的には思い出せない。だが秀逸な企画とはそういうものなのだ。決して誰もがはじめて見聞きするものではない。ほんとうに斬新なものは誰にも理解されることなく終わるものなのだから。

そういうわけで、あとはどれくらいの達成度で映像化されているのだろうかという興味でこの作品を見始めるわけだが、なにしろ自主映画出身の監督が、一般のファンからのカンパをも募って作り上げたと聞いているので、あまり期待値は上げないでおくことにする。ところがあにはからんや、ナチスたちの作ったスチームパンク風巨大建造物の数々といい、まったくもってアリのレベルというか、結構良くできている。特に美術造形は、かなり目を楽しませてくれるのだ(とはいえ、プレスによれば総製作費7億5千万円くらいで、その内カンパによって積み上げられたのが約1億円だというので、日本映画の基準からすればそもそも超大作なわけだが)。

 

脚本に関しても、風刺劇として、現状の国際政治情勢をベースとして良く練り上げられてある。純粋培養され、それをニヒリズム抜きで血肉化させた一部ナチス残党=ヒロインの語る言葉があったとすれば、資本主義社会の末期を生きるアメリカ、すなわち我々の心を捉える純粋な力を備えている(かも)というアイディアもまた頷かせられるし、であるが故に、「空から降ってくる極悪非道のナチ軍団に対抗する正義の地球防衛軍」という図式になるはずもなく、その混戦具合がなかなかの聡明さを見せてくれる。

そういう意味で、最後の最後まで破綻することなく出発点にあった論理をとことん展開していった先を見せようとしているところも魅力的。唯一残念なところがあるとすれば、そうした隙のなさから、全体としてはわりと生真面目な印象を与えられる点くらいだろうか。だがそれもまた狙いの範疇内であるようにも見えるし、充分に楽しませてくる力を持った映画なのである。

☆ ☆ ☆

 

『アイアン・スカイ』
9月28日(金)より、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー!!
(C)2012 Blind Spot Pictures,27 Film Productions , NewHolland Pictures.ALL RIGHTS RESERVED.
オフィシャルサイト www.iron-sky.jp
twitter @ironsky_jp
facebook www.facebook.com/ironsky.jp

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ビハインド・ザ・シーンはアートディレクターの箭内道彦さんです!

初出

2012.09.28 17:00 | FILMS