見渡す限りの雪原を犬が駈けている。それを追跡するヘリコプター。搭乗者は狙撃を続けるが、犬は逃げ延び、アメリカの南極観測基地に辿り着く。というのがジョン・カーペンターによる『遊星からの物体X』の導入部分だった。
本作は、「ファースト・コンタクト」とタイトルで示されている通り、くだんの犬が雪原を駈け始めるまでを描く、“前日譚”として展開される。それ故、“後日譚”の方を知っている者は当然“前日譚”の結末を知っており、そこでどのような事態が発生するのかについてもおおかた承知していることになる。
すなわち、まずごくごく初歩的な指摘をしておくとするならば、この映画は“前日譚”ではなく、シンプルに“リメイク”として見られるべきなのだ。つまりは、「ただのリメイクはヤだよね。でも前作を見た人間にしか楽しめない映画もヤだよね」という企画者たちの議論が聞こえてきそうなのであるが、「ならば前日譚にしてしまえば、一挙両得じゃん!」という結論は、ひとまず正しかったと言うべきだろう。カーペンター版を見たことのない人間にとっても“見逃した”物語は存在しないわけだし、カーペンター版のファンにとっても、パズルのピースがピタリとはまる様を楽しむことができる。

プレスによると、カーペンター版におけるCGを用いない特殊効果の味を再現すべく、変身シーンではCGを、その後は立体造形物を駆使したという。かつて小学生だった筆者は、パカリと割れる犬やら虫のような身体に人間の顔といった造形に狂喜したものだったが、その感覚の記憶を遥かに呼び起こされもする。当然現在の基準に則って作られているので、クリーチャーたちはカーペンター版よりもその姿を目の前に晒してくれるし、もっと派手に暴れ回るのだが、上述のような工夫によって、興ざめするほどのやり過ぎ感はない。

とはいえ、初心者からカーペンター版のファンまでを、ある程度安心して楽しませることが出来ているという意味では、リメイクもの、しかもプリクエルものとしては、単なる辻褄合わせに終始しない、志を持った成功作ということはできるだろう。
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『遊星からの物体X ファーストコンタクト』
TOHOシネマズ日劇モンスターナイトカーニバル第二弾として公開中
配給:ポニーキャニオン
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□ オフィシャルサイト
http://buttai-x.jp/
初出
2012.08.06 18:30 | FILMS