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クリスチャン・タフドルップ『胸騒ぎ』
”あともう少しだけ様子を見よう”
本作の英題は『Speak No Evil』、デンマーク語の原題は『Gæsterne』という。前者はいわゆる「見ざる言わざる聞かざる」の「言わざる」にあたる。「悪いことには目を閉ざし、口にしない」くらいのニュアンスだろう。 READ MORE...
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”あともう少しだけ様子を見よう”
本作の英題は『Speak No Evil』、デンマーク語の原題は『Gæsterne』という。前者はいわゆる「見ざる言わざる聞かざる」の「言わざる」にあたる。「悪いことには目を閉ざし、口にしない」くらいのニュアンスだろう。 READ MORE...
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はっきりしないぬかるみの中から
1974年10月3日、ペルーの首都リマは大地震に見舞われている。マンションの7階にあった自宅には3歳の私と母しかいなかったと記憶している。調べてみると朝9時21分だったようなので、父が徒歩圏にあったオフィスに出 READ MORE...
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肉体をもった“故郷”
「あの時にあっちを選んでいたらどうなっていたかな」と思い描いてみたくなる瞬間というのは、だれにでも訪れる。しかしたいていの場合はひとしきり想像を拡げたあとで、「いや、あちらに行かなかったからこそ今が READ MORE...
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死という空虚な一点
死が訪れた瞬間の話を当人から聞くことは金輪際ないがゆえに、死とは謎そのものであり続ける。このあたりまえかつ月並みな事実は、当然ながら頭では理解できているわけだが、実際に死を目の当たりにすると、謎が謎 READ MORE...
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変わるほかない側の
女性囚人を収容する〈軽警備連邦刑務所〉を舞台としたドラマ、『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』(2013〜2019年)の中で、折に触れて思い出すエピソードがある。それはいわゆる〝セクハラ事案〟を扱ったものだ。 READ MORE...
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スケボー=映画
自分自身はスケートボードに乗ったことがない。それでもスケボーというのは、街に投げかけるオルタナティヴな視線だと思っている。スケーターたちは、歩行者がぼんやり通り過ぎる道路の片隅にちょっとした出っ張りを READ MORE...
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発見される風景
映画のタイトルは「mid90s(90年代半ば)」、主人公はスケーター少年たち、そして自伝的な物語と聞けば、当然のことながら〝あの頃のあの街〟を映像に収めるつもりなのだろうとこちらは期待する。時代を凝縮する音楽 READ MORE...
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「そうでなければ」という必然性
このドキュメンタリー作品では、アメリカのポピュラー・ミュージックにおいて、アメリカ先住民、すなわちインディアンの文化が果たした重要な役割が辿りなおされる。ロック史を担ってきたアーティストたちの多くにイ READ MORE...
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書籍の企画を立てる時、プロとしての覚悟が中途半端な私の最初に考えることは、もちろん〝この著者に書いてもらいたい〟なのだが、その次に考えるのは〝この著者はめんどくさい人かな?〟だったりする。この二つは不 READ MORE...
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ある普遍的な時間
スティーヴン・パトリック・モリッシーが〝モリッシー〟になるまでの物語である以上、ザ・スミスの楽曲が鳴り響くことはない。そもそも本人の監修なり承認を受けたわけでもないのであって、その一点のみに依拠して批 READ MORE...
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語られる物語を必要とする者たち
物語は、文化大革命末期の1976年に幕を開ける。毛沢東が死に、四人組が逮捕される年のことだ。舞台は、人民解放軍の歌劇団である文芸工作団(略して文工団)。新入りである17歳のホー・シャオピン(ミャオ・ミャオ) READ MORE...
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恐怖が呼び寄せるもの
ときおり、理由も見当たらないのに攻撃的な人間に出くわすことがあって、そういう相手に限ってこちらが冷静に対応すればするほど激昂したりする。自分でも気づかないうちに怒らせているのだとしたら、こちらの人格が READ MORE...
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匂い強烈だけど姿は見えない
前作『イット・フォローズ』(15)では、デトロイトという町の死せる中心部が郊外の住宅地へと伸ばす触手が、若者たちの怖れる老いと死の姿に重なるという映画だった。今作では、LAという町が、どこをどう進んでも死 READ MORE...
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〝善意〟でも〝無神経〟でもなく
気がつけば、〝わかってる〟はずの人が〝無神経な発言〟をしたり、それを遠巻きに眺めている自分の口をついて出かけた言葉もまたそれと同種のものに聞こえたりするようになっていた。これが、いわゆる〝政治的正しさ READ MORE...
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境界と弱さの暴力
シェリダンの脚本による『ボーダーライン』(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督/15)、『最後の追跡』(デイヴィッド・マッケンジー監督/16)は、本作と合わせて「フロンティア3部作」を成すのだという。1作目はアリゾナ READ MORE...
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〝最後の人〟
大きく起伏しながらどこまでも森林が広がっている。その中に、一人の女性の姿がある。引き連れている犬に導かれて斜面を下りると道路に行き当たり、防護服を着た人間が大きな運搬車のようなものを苦しそうに引きなが READ MORE...
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ゲームの外側
ふとしたことをきっかけに、超富裕層を顧客とするポーカー・ゲーム場のアシスタントとなった20代半ばの女性、モリー(ジェシカ・チャステイン)。それが結果的に、人生二度目の挫折から復帰するための道となる。 READ MORE...
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〝アホな貧乏白人〟として生きること
トーニャ・ハーディングについては、ライヴァル選手を襲撃した〝アホな貧乏白人〟以上のイメージがない。たしかに、その後のめちゃくちゃな人生もうっすらとは記憶に残っている。でも、そんな彼女を主人公に映画を作 READ MORE...
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きわめて巧み
ミズーリ州の田舎町エビング。町外れの道路沿いには三枚の巨大な看板が並んでいる。雨ざらしになった古いポスターの残骸があるからには、かつてはある程度の交通もあったのだろう。だが今や通る者はほとんどいない。 READ MORE...
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地獄に理由はない
映画の第一部は、若い女性の唖者リズ(ダコタ・ファニング)の姿とともに幕を開ける。舞台は西部開拓時代のアメリカで、寒々しい景色からすると中西部でもだいぶ北の方だろう。幼い娘を通訳に、助産婦として立ち働く READ MORE...
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相似形の冒険
周知のとおりソダーバーグは、26才の時に初長篇『セックスと嘘とビデオテープ』(89)でいきなりカンヌ国際映画祭のパルム・ドールを受賞したものの(あるいは受賞したために)、そこから10年近くの間、背反する「商 READ MORE...
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四方八方へのびる補助線
人びとが教会に集まっている。日曜のミサという雰囲気ではない。順番を争って殺気立っていて、「早くから並んでいたのに」とか「遠くから来たのに」とか「今日はここまで」というような言葉すら飛び交っている。彼ら READ MORE...
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なんだかんだあってもというバランス
そういえば小学校中〜高学年になると、工事現場の立ち入り禁止札があれば立ち入り、地面にほじくり返された深い穴の底に溜まった水たまりの中に飛び降りてみたり、作りかけの橋の骨組みの上を歩き始めたはいいものの READ MORE...
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風景を見つめることと、風景の一部となること
マグナムの元副代表、映画を撮ることもあるフォトジャーナリスト、という程度の極端に少ない予備知識を持ってこの作品を見ると、実はそれすらを必要としない、見事に機能するレイモン・ドゥパルドン入門映画だった。 READ MORE...
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野蛮と不穏
ノーベル文学賞を獲得したラテンアメリカの作家でスペイン在住といえば、マリオ・バルガス=ジョサがすぐ思い浮かぶが、彼はペルー人であってアルゼンチン人ではない。アルゼンチン人のノーベル文学賞作家はまだいな READ MORE...
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ぐらんぐらんの手触り
1918(大正7)年生まれ。母は元新橋芸者。父はドイツ系アメリカ人で、映画配給会社の極東支部長。横浜に生まれ、幼年期を富裕階層としてすごすが、9歳(1928年)のときに父が次兄と共にアメリカに帰国してからは、母 READ MORE...
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照準器の内と外
開高健のヴェトナム戦記ものにも、マイケル・ハーの『ディスパッチズ』にも書かれていたが、たわむれにライフルをかまえてみると、ついつい銃口の先に誰か出てきてくれないかなあなんていう気分になるらしい。たぶん READ MORE...
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現実はどこまでも続く
タクシーも侵入を拒む通りの奥に、ローサ(ジャクリン・ホセ)の雑貨屋がある。日用品からドラッグまでなんでも扱っている店だ。同じような小商いの店がびっしりと並んでいる路地には密接な人間関係が張り巡らされて READ MORE...
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森のハッピー・エンディング
映画の舞台となる1630年のニュー・イングランドといえば、マサチューセッツ湾植民地が建設され急速に拡大していた時期にあたる。その流れに逆らう主人公一家の家長ウィリアム(ラルフ・アイネソン)は、共同体の外で READ MORE...
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徹頭徹尾、マコノヒー
生まれ育ちというのも重要な要素だが、それが同じでも30代に入るころまでにどういう環境で生きてきたのかということが、その人間の仕上がりに大きく影響する。大企業ないし大手、つまり少なくとも“クビ”や“倒産”の心 READ MORE...
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やさしさと強さとしなやかさ
時は1979年夏、舞台はサンタバーバラ。主人公のジェイミー(ルーカス・ジェイド・ズマン)は15歳で、55歳のシングル・マザーであるドロシア(アネット・ベニング)と暮らしている。 だが二人暮らしではない。 READ MORE...
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ひろげた風呂敷の上で
今さら指摘するまでもないことだけど、シャマランの真髄は「意外なラスト」にあるのではなく、ベタなネタをベタなまままっすぐ貫き通す腕力にある。ベタなままというのがすこし曖昧ならば、最初に自分で設定し観客に READ MORE...
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無謀さと結末の先
10才の少年トトは、ふたりの姉とともに学生寮を思わせる殺風景な部屋に住んでいる。水道もキッチン・セットもない。日が暮れると男たちがばらばらと集まってきて、思い思いにドラッグを打ち始める。17才のアナが追い READ MORE...
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その先にはいかない
東京の東側に住んでいると、新宿や渋谷を通る山手線の孤よりも西側には、「境界線の向こう側」という感覚がある。彼の地の持つ文化的な豊かさに対するやっかみも多少はあるに違いないが、あえて不毛の地に住む面白さ READ MORE...
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魅力的な大人のありかた
思春期直後の高校時代には、ようやく幼年期の冥暗から頭ひとつ分だけ抜けだしてあたりを広く見渡せるようになったつもりになるけど、その視界はまだまだ狭くて窮屈なものであることにはなかなか気づけないものと相場 READ MORE...
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新たな物語
2000年前後くらいのころ、当時在籍していた雑誌の編集部にいた同僚のアメリカ人女性編集者が、突如、「すごい作家がいて、その作家に電話インタヴューできることになった」というようなことを話して興奮していたのは READ MORE...
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こちら側にとどまる
高速道路と川と味気ない建物。こうした典型的な郊外の風景は、たとえば空港に降りたった旅行者が、目的地である大都市圏に至るまでの車窓から疲れた視線をぼんやり投げかけはするものの、ホテルに着く頃にはもう頭の READ MORE...
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奇抜saでも過激でもなく
森林の奥深く、7才から18才まで6人の兄弟姉妹が父親と共に暮らしている。文明の利器を排除したその毎日は、自然の中で生き延びる術を身につけるための特殊部隊なみに過酷な訓練と、自律的な思考力を強化するための教 READ MORE...
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風景とキャラとエモーション
物語は2020年、東京オリンピック開催の3日前にはじまる。いや、実際には高校生の主人公森川ココネ(声:高畑充希)が生まれる前からはじまっていることが後でわかる。 ココネは瀬戸内海を見渡す岡山県倉敷市に住 READ MORE...
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光によって作られた影の物語
録画してあったVHSがどこかにいってしまってから、あまりにも長い間見直したいと願っていたわりに覚えていたショットは少なくて、しかもそこから立ち上がってくる物語の輪郭も記憶どおりではなく、まったく新しい映 READ MORE...
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気味の悪い
これまでほとんぞ事件らしいもののなかった田舎で、村人が家族を惨殺するという事件が続いている。凄惨な現場と正気を失った犯人。どんよりした目つきで皮膚は爛れている。人々はある噂を口にし始める。事件がはじま READ MORE...
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遠くて近い
これまで一貫して、“神の視点”としか呼びようのない、気の遠くなるような隔たりと息の詰まりそうな近しさが共存する映画を作ってきたテレンス・マリックのことであるから、最新作が広い意味でのドキュメンタリー作品 READ MORE...
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廃墟の癒し
たしかに“廃墟趣味”は、“心霊スポット趣味”とも“工場萌え”ともつながっている。通底しているのは、「人間中心ではない世界の風景」を求めるという点だろう。 いや、「人間中心でない世界」といってしまうとほんの READ MORE...
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倒錯の中心
すみずみまで過剰だけど、たまげる展開があったり想像を絶する変態行為がおこなわれるわけではない。にもかかわらず、スリリングな映画だった。 なによりも、韓国人俳優たちが日本人を演じる韓国人を演じるという READ MORE...
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ベタとそのちょっと先
ベタなアイディアを徹底して展開し、ありきたりに到達できる地点のほんの少し先にまで物語を持っていく。その力が、デイミアン・チャゼルの作品にポピュラリティをもたらしているということなのだろう。 『セッシ READ MORE...
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持続する祝祭の記憶
90年代前半の頃はまだアルハンブラ宮殿ものんびりしていて、何の準備もなくぶらぶら歩いて行っても飽きるまで時間を過ごせたものだった。それでも当然のことながら有名観光地ならではの空気はあって、宮殿に向かう途 READ MORE...
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むしろ面白い
場所のせいなのか時代のせいなのか、どこまでいってもどこかで見たことがあるという感覚がつきまとう、1977年のLAを舞台に展開されるノワール。それはもう、ほとんどポール・トーマス・アンダーソン『インヒアレント READ MORE...
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不用意に、立ち止まる
われわれの生きる現実世界は脆く、ほんのささいなことで壊れる。大災害に見舞われる必要もない。ただ、いつもは気にもとめていなかった風景に視線を留めたり、思いもよらなかった思考の片隅にちょっとだけ長く滞留す READ MORE...
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どうしてもやらかす人
やらかす人はいくらでもいる。いや、みんなやらかす可能性を持っている。肝心なときに、いちばんやらかしてはいけない瞬間を選んだように、やらかしてしまう。それを繰り返す人間はもちろんある種の病に罹っているわ READ MORE...
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素っ気なさと滑稽さ
トウモロコシ畑の真ん中に、おんぼろのバンが停まっている。前夜の騒ぎが匂い立つような車内で、ひとりまたひとりと目を覚ます。消えない耳鳴りと二日酔いと睡眠不足からくるめまいによって、早朝の静寂は耐え難く汚 READ MORE...
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「その後」の戦い
ミシシッピー州ジョーンズ群の小さな農家に生まれた一人の男がいた。1837年のことだとされているが、諸説ある。いずれにせよ、1861年にはじまった南北戦争ではアメリカ連合国軍(南軍)に徴募され、翌62年には仲間た READ MORE...
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正義の軸
黒澤明『七人の侍』(54)と、そのリメイクであるジョン・スタージェス『荒野の七人』(60)。これら二作のことは忘れるというのが、この映画の最も正しい楽しみ方だろう。そもそも、「農民が悪人たちによって苦境に READ MORE...
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「安全」か「自由」か、という罠
来日記者会見での監督は、「主人公がストーン映画らしくないと批判されている」と話していた。だが、スノーデンほどストーン映画的な主人公もいないだろう。 特殊部隊の新兵としての挫折を味わったあと国家安全保 READ MORE...
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少しずつ現実のものとする
ここのところ頻繁に考えるのだが、実現可能なものとして理想を思い描ける日常生活というのはどういうものなのだろう? ぼんやり「ああなったらいい」、「こういう社会が訪れたら」と考えることはあっても、それが決 READ MORE...
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この世界もあの世界も
ギロチンで処刑される「貴族」とその首をカゴにしまい込む見物人の女の姿からはじまり、ユーゴスラヴィア内戦を思わせる戦場でのバカバカしくも凄惨にも見える風景などを横切ってカメラが現代のパリに到達すると、ロ READ MORE...
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「デトロイト廃墟映画」
周知のとおり、デトロイトの中心部には廃墟が広がっている。 近年ではたとえば、ジム・ジャームッシュの『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(13)がその風景によって産み落とされたとしか思えない作品だ READ MORE...
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「愛」と「映画術」
「あの人に会いたい」というのが初期衝動だとしたらインタヴューとはもちろん「愛」の表明であり表現なのだが、そうであるが故に願いかなっていざインタヴューに臨むと「意外とがっかり」したり、しかも「がっかり」 READ MORE...
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ツボと深度
たしか1998年夏のことだったと思うが、取材ではじめて会ったホラー作家のジャック・ケッチャムと話しているときに、「面白そうな映画がある」と話題に上ったのが『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(99)だった。「 READ MORE...
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「母なるもの」の色彩
細かな水泡とゆらめく光の縞。水流にもまれた海藻が右に左にと激しくたゆたう。その決して穏やかではない海に、ひとりの少年飛びこんでくる。海底には生き物の瘤のようにも見える岩が盛り上がっている。そこに接近し READ MORE...
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乾いた合わせ鏡
原作は『ペンタメローネ「五日物語」』と呼ばれる、ジャンバティスタ・バジーレによって書かれた17世紀の民話集なのだそうだ。シャルル・ペローやグリム兄弟といった人々が後にそこから、「長靴をはいた猫」「シンデ READ MORE...
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キッチリくだらない
一般に「フランス産コメディー」といえば、人間ドラマや風刺に重心を置いていたり、完全なスラップスティックでも泥臭さの抜けきらない印象だったような気がするが、本作を見るかぎりどうやらいつのまにか『ハングオ READ MORE...
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小さな物語にもならない時間の積み重なり
一度も見たことがないはずなのに、今まさにスクリーンに広がっている景色が圧倒的な喪失感で震えるように見えたり、もうまもなく失われてしまうという強烈な切迫感で胸をしめつけたりすることがある。特に最良のアニ READ MORE...
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きっと良くなる
大成功を収めたデビュー作の後、二作目が書けない小説家トマス(ジェームズ・フランコ)がいる。生活を共にする恋人サラ(レイチェル・マクアダムス)のありがたさに気づかないわけではないが、頭の中は自分ひとりの READ MORE...
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論理的に明確
深い闇が明けるとひとりの男がいる。ぴたりと閉じた誇り高い顔つきと、必要のみによって鍛え上げられてきたことのわかる鋼じみた身体つきは、樹林のなかに半ば溶けこんでいるように見える。 そこへ、やせ衰えた一 READ MORE...
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三重のレイヤー
第二次世界大戦の生き残りとその因果を巡る映画は過去にたくさん作られてきたが、すでに終戦から70年以上が過ぎた現在を舞台にするのであれば、たしかにこういう工夫が必要になるだろうと深く納得させられる。 主 READ MORE...
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“生”と“死”とその先の“生”
大都市郊外の寒々しい小道の奥に、一軒の謎めいた屋敷が立っている。主人公の青年ジャン(タヒール・ラヒム)が足を踏み入れると、広い玄関ホールはうっすらとした闇の中に沈んでいて、屈強そうな老人が彼を出迎える READ MORE...
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どうすればよかったのか?
マンハッタン島の北東に位置するラガーディア空港を飛び立ったエアバスが、離陸直後ガンの群に遭遇し両エンジンの推力を失う。管制塔からは進行方向の先にある別の空港への着陸を提案されるものの、成功の確率は低い READ MORE...
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ナチと南米とセクト
時は1973年9月、場所はチリの首都サンティアゴ。ヒロインのCAレナ(エマ・ワトソン)は、現地に在住するドイツ人の恋人ダニエル(ダニエル・ブリューゲル)のもとを訪れるが再会もつかの間、ピノチェト将軍によるク READ MORE...
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折れるなら折れろ
ここ数年、よく子どもが高層マンションから転落する。高層階の風景に馴れすぎると高度への恐怖が薄まるのではないかという仮説があるらしい。高さが怖くない子どもたちは、こともなげに落下してゆく。 また、たと READ MORE...
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イタ可笑しいことこの上ない
思い描いた成功なんか手に入れていなくてまだまだジリジリしながら毎日を送っているのに、いつのまにか十も二十も下の連中がそんな自分に対するリスペクトを口にしながら近づいてきたら、この映画の主人公ジョシュ( READ MORE...
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バランスとアンバランス
恥ずかしながらダルトン・トランボといば、「赤狩り」によってハリウッドを追放されたのちしぶとく復帰を遂げて『ジョニーは戦場へ行った』(71)を監督した生真面目な社会派、というくらいの貧しいイメージしか持っ READ MORE...
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“イヤなかんじ”から“トンでもないこと”までの道のり
「あの人、お父さんじゃありません。全然知らない人です」。このセリフ/コピーだけで成功したも同然だろう。想像のパターンは無限に拡大する。「お父さんじゃない」のなら誰なのか、からはじまり、どうやって「お父 READ MORE...
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嬉々としてボコられる
妻子持ちの男がひとり留守番していると、雨に濡れそぼり寒さに震えるギャル二人組が玄関口に現れて道に迷った様子なので、ついつい家に入れてしまいそのせいでエライ目に遭うという、タイトル通りの映画である。普通 READ MORE...
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ガーランドらしい巧みさ
アレックス・ガーランドといえば『ザ・ビーチ』(00)原作や『28日後…』(02)脚本というイメージが強いが、『サンシャイン2057』(07)脚本の後も、『28週後…』の製作総指揮、『わたしを離さないで』(10)と『ジャ READ MORE...
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小気味の良い女性映画
資本主義という名のゲームがあり、無数のプレイヤーが参加している。また、プレイヤーたちに向けて、勝利を勝ち取るためのさまざまなコツや情報を伝授する男がいる。その役割を担っているのが、この映画におけるリー READ MORE...
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敗けたのはだれ?
「森達也が佐村河内守を主題に映画を撮っている」とはじめて耳にしたときには「さすが」と口をついて出たが、同時に、ほとんどセルフパロディーのようだとも感じたものだった。 圧倒的多数が、一定の偏見というか READ MORE...
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ただ眺めているだけで
まず藤山直美のスケジュールが空いたのだという。二週間強の期間で撮り切るためには、ひとつのシチュエーションで完結させる必要がある。そういう条件の中で、団地のモチーフが着想された。数日でプロットが、一週間 READ MORE...
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退屈と不安と恐怖
われわれのささやかな幸せを破壊するものはいくらでもあって、むしろ幸せなんていうものが出現しているとしたらその事実自体が奇跡であるということはいうまでもない。それでもいろんなものに目を瞑って、目の前の一 READ MORE...
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雨に沈む街と過去から蘇るもの
精神分析医ピーター・バウアー(エイドリアン・ブロディ)は、娘を交通事故で亡くした痛手から立ちなおっていない。学生時代を過ごした街に戻り、恩師ダンカン・スチュワート(サム・ニール)によって紹介された患者 READ MORE...
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“映画の都”というファンタジックな妄想
時は1950年代後半、舞台は“ハリウッド”、テレビによって地位を脅かされながらも、まだまだスタジオ・システムが機能していた頃の“映画の都”である。主人公は、「何でも屋」としてスタジオの抱えるトラブルを解決して READ MORE...
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「悪」と「正義」と「陰謀」と
いまから十年ほど前、アリゾナからニュー・メキシコに入ってしばらくしたあたりの路肩に車を停め、国境地帯の寒々しい風景を写真に納めていたときのことだった。前方からやってきた自家用車が突如タイヤを軋らせUタ READ MORE...
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ふたりの“ジジイ”
“ジジイもの”というジャンルには、俳優がすばらしければそれだけで許せてしまうところがある。というか、定義上そうでなければ“ジジイもの”は成立しない。しかも、われわれの同時代を生きているジジイにはすばらしい READ MORE...
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悪辣な心理戦
スタッフやキャスト、資金から撮影にいたるまで「100%パレスチナ映画」なのだという。だがなによりもこの作品は、映画として面白い。悪の所在が常に移り変わってゆく緻密な心理サスペンスでもあるし、甘さが突如苦さ READ MORE...
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大きな悪と小さな悪
果てしもない砂漠を何日も走り続けた後でエル・パソに辿り着くと、ようやく都会に戻ってきたとは感じるのだが、ダウンタウンは寂れて活気がないし、ビジネス・センター風の一角もあっというまに終わってしまう。都市 READ MORE...
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記憶と罪
物語の現在時は1947年におかれる。93歳になるシャーロック・ホームズ(イアン・マッケラン)は、英国南東部サセックスの片田舎でミツバチたちとともにひっそりと暮らしている。戦争未亡人である家政婦のマンロー婦人 READ MORE...
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王道の濃ゆい
自動車メーカーを経営する実業家と、与党を率いる大統領候補がいて、その二人を結び付けたジャーナリストがいる。そしてチンピラのアン・サング(イ・ビョンホン)は、ジャーナリストの“弟分”として汚れ仕事を引きう READ MORE...
FILMS
空っぽの不安
空っぽなものほど人を不安にさせるものはない。われわれのまわりには空っぽなものがあふれかえっているが、それを埋めようとはしないことでどうにかこうにか日常生活を送れている。“謎”と呼び変えることもできるが、 READ MORE...
FILMS
ロックは鳴り続ける
『レイチェルの結婚』(08)でも、結婚式の準備を進める家の中でいつもだれかが音楽を奏でていた。遠くに近くに楽器の音色が聞こえているが、やがてあるとき、花婿、花嫁、ヒロイン、結婚式の招待客といった登場人物 READ MORE...
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突き破るモノ
90年代半ばのことだが、当時住んでいた南仏の小さな町には有色人種の入店を拒むところが一軒だけあった。もちろん日本人以外の有色人種ということであって、“礼儀正しい日本人”は例外だった。だからといって日本人が READ MORE...
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まったくもって、楽しい
たしかに、日がな一日ガキどもを相手にしていると「ぶん殴ってやろうかな」と感じる瞬間が誰しもあるのだろう。ホラー映画の定番のひとつになっているくらいなのだから。最近でいえば、珠玉の小品『ババドック』(ジ READ MORE...
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イイ顔に仕上がるまで
頭ははげ上がり頬はこけ、ガタガタの前歯はうす汚い。両眼はウソのように冷たく死んでいる。外見のタイプとしては、かつて演じたハンター・S・トンプソン(98年の『ラスベガスをやっつけろ』)と同系統ではあるが、 READ MORE...
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めくらましをかきわけて
金を握ればある程度の権力も手に入る。権力を手にしているのなら、それを駆使することでさらに金を増やすためのシステムを創出し強化するのはあたりまえのことだろう。だがいわゆる“残り99%の人々”は、オリンピック READ MORE...
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身体に触れてくるモノ
お化け屋敷は大の苦手で、なにがどこから出てくるとかおおかた予想がついて、しかもそれがほとんど当たっていても、本当にコワイ。映画のスクリーン上でなにが起こっても平常心を保っていられるのだが、それがちょっ READ MORE...
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よく言われることだが、あたりまえに考えて「皇族」には人権がない。この映画を見ると「ヤクザ」にも人権はないようなので、日本という国の「象徴」と日本社会から排除されるべきとされる「反社会的勢力」とが等しく READ MORE...
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死の絶望と倦怠
ひとはあるときに、自分もまた死ぬのだと知る。10代の終わり頃といえばそれからまだ日が浅く、子どもだけが持てる全能感も失っていない。一方で、その全能感が、死によって日々おびやかされていることも知っている。 READ MORE...
FILMS
忙しい人たち
数年前、日曜日の昼下がりにフランクフルト中央駅の周辺を散歩していたら、どういうわけかホームレス風の若者たちであふれている路地に行き当たった。ふつうこれだけの数の人間がなにするでもなくたむろしている場所 READ MORE...
FILMS
凡人のしあわせ
映画でも小説でもとにかくホラーというジャンルが好きなだけで、たとえば指圧を受けようと路地裏に立つ小汚い雑居ビルの三階に上がり、扉を開けてひと気のない部屋に足を踏み入れた瞬間には、いくつもの可能性が頭を READ MORE...
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幻影の力
時は第一次世界大戦さなかの1915年、場所はオスマン帝国(トルコ)のシリア国境近くに位置する町マルディン。ある晩、憲兵たちによってたたき起こされた鍛冶職人のナザレット(タハール・ラヒム)が、強制連行される READ MORE...
FILMS
1976年の『ロッキー』から40年近くが過ぎ、スタローン自身が語るとおり、すでに二代目のファンが映画作りの現場にいる時代となった。本作の監督、ライアン・クーグラーも86年生まれだというから、まさにその世代とい READ MORE...
BOOKS
あさっての方向に
数年前、「大学卒業20周年同窓会」の案内が届き、好奇心のまま参加してみた。正直なところ、“まともな人生”を歩んでいるやつらがどれだけしみったれた顔をしているのか見てやろうといういやらしい下心がなかったとは READ MORE...
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“その後”を生き抜く
高校時代から聴いてきたのは主に“洋楽”なのに、なんとなくヒップホップは避けてきた。その理由については長谷川町蔵×大和田俊之『文化系のためのヒップホップ入門』(アルテスパブリッシング)が教えてくれたのだが READ MORE...
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奇異、ではない
ゆるやかにうねるようにつらなる草原の起伏が、見渡すかぎりどこまでも広がっている。その中で、すこしだけ黒ずんだシミのようになっているところがある。それが主人公たちの住む村で、人々の生活は羊によって支えら READ MORE...
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大人の“ムリ”を解きほどく
毒があって、きれいな女の子が主人公で、人生経験を積んでいるのにまだまだ愚かで、それゆえ憎みきれない大人たちがおおぜい出てきて、ドタバタと修羅場は起こるけど最後にはみんな収まるべきところに収まり、世間か READ MORE...
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物語の圧倒的な束
“ポスト・アポカリプス”的想像には、「アイツら全員死んだらスッキリするだろうなあ」という妄想の具体的な気持ちよさもあるが、もっと単純に「人類滅亡」そのものの持つ爽快さがある。もちろんその小気味良さの根本 READ MORE...
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コーヒーと労働と価格と
コーヒー一杯に何時間も行列をつくったりあれやこれやと御託を並べられるのはうんざりだが、おいしいコーヒーを飲んでしまうと、そうでもないコーヒーに出会ったときの失望はとても深い。では、そのおいしいコーヒー READ MORE...
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だいたいにおいて上機嫌
ニューヨークのロウワー・イースト・サイドに住むひとりの老人がいる。そんな風には見えないが、1940年代後半からカラーで撮り始めた写真家である。1953年には、当時ニューヨーク近代美術館写真部長だったエドワード READ MORE...
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“敗者”と日常
33歳の誕生日を迎えた冴えない青年アルマン(ヴァンサン・マケーニュ)。頭頂部はわかりやすく寂しいし、体型もだいぶだらしなくなっている。美大を出てから10年近くの歳月を、定職に就かずなんとなく過ごしてきた。 READ MORE...
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“食人族映画”のしかけ
昔は密林といえば“人喰い人種”が住んでいて、いたずらに彼らの土地に彷徨い込んだ“文明人”はたちまち捕まって両手足を棒に結び付けられ、生きたまま背中から焼かれて喰われるのだというイメージを誰もが持っていたし READ MORE...
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悪意も憎悪もなく
いつのまにか、『ジム・キャリーはMr.ダマー』(94)から20年が過ぎていた。主人公のロイド(ジム・キャリー)とハリー(ジェフ・ダニエルズ)もまた20年分の時間を生きていた。もちろん彼らの、とくにロイドの20年 READ MORE...
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われわれの生きる悪意
たとえば、足を骨折した男がいる。松葉杖によろめきながら助手席のドアに手をのばすが、開かない。キーを手にした運転手は、そのことに気づかないのかどうか、携帯で話し込んでいる。このとき、運転手は物件を案内す READ MORE...
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映画で語ることへの欲望
映画監督本人のおしゃべりが、その人の作る映画の語り口に似ているということはままあるが、ひとりの人間がどういう映画を好み、どういう作品についてどう話すのかということから、その人が作ってきた(あるいは作る READ MORE...
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“運の悪いヤツ”
ひとりの男が悪いときに悪い場所に居合わせ、悪いヤツによってペットを殺され愛車を奪われる。だが実のところ、運が悪かったのはその男ではなく悪いヤツの方だったというお話。男の名はジョン・ウィック(キアヌ・リ READ MORE...
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言語化され得ない風景
チリ出身のドキュメンタリー作家、パトリシオ・グスマンによる2010年のドキュメンタリー作品『光のノスタルジア』と、2015年の作品『真珠のボタン』を、成立年とは逆の順序で見た。 『真珠のボタン』は、水晶の中 READ MORE...
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“発見”されたものたち
2007年の冬、シカゴの街を題材に歴史書の執筆を進めていたひとりの男が、380ドルの価格でひとつの箱を競り落とした。しばらくの間放置した後、彼はその中あった大量のネガ・フィルムに目を通しはじめる。ヴィヴィア READ MORE...
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娯楽を成立させるバランス感覚
90年代に入ったばかりのころ、ドイツ人の友人にナチズムの話を振ると、ほとんど例外なくその顔から表情が消えたものだった。なんの言葉もなく、ただ沈黙が訪れた。それ以外のあらゆる話題に一家言持ち、いつでも皮肉 READ MORE...
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冷ややかさと“愛”
『M★A★S★H マッシュ』(70)をはじめて見たのは、TV放映版だった。吹き替えられていただけでなく短縮されていたに違いないわけだが、その冷ややかに尖った笑いの毒は、ようやく思春期の終わりにさしかかっていた高 READ MORE...
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隙間の時間
2007年11月、イタリア中部の古都ペルージャに留学していたイギリス人の女子学生が殺される。まもなく、彼女のルームメイトであったアメリカ人学生とその交際相手のイタリア人、そしてルームメイトの知り合いであった READ MORE...
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スリルとかいってる場合じゃない
「戒厳令」や「夜間外出禁止令」、ようするに「クーデター」のような状況が発生して通常の価値階層が完全に転倒し、「人権」だとか「人命」だとかが中身のないお題目と化した街路ほど映画にふさわしい舞台もない。作 READ MORE...
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“孤独の洗礼”
作家ポール・ボウルズによると、サハラ砂漠を訪れる人間はだれもが「孤独の洗礼」と呼ばれるものを経験するのだという。それは“寂しさ”のような感情とは無関係で、砂漠にしかない完全な静寂と静止の中で起こる奇妙な READ MORE...
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ギレンホールの持ち込んだもの
男は、最底辺の生活を送っている。盗んだ資材の転売をはじめ、ありとあらゆる細かな違法行為によって糊口をしのいでいるらしい。だが、その状況を抜け出そうという意志はあり、機会があればまともな職を得ようと自分 READ MORE...
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映り込むものを追う
1993年、高校演劇の舞台上で主演の生徒が死ぬ。舞台装置だった絞首台が、なぜか実際に機能してしまったのだ。それから20年後の同じ舞台では、同じ演目の稽古が進んでいる。 主役を演じるリース(リース・ミシュラ READ MORE...
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怒濤と静止
前作『アウトロー』(12)という、トム・クルーズによる“採用試験”に合格したクリストファー・マッカリーは、監督第三作目にしてこの巨大シリーズ最新作の脚本を書くのみならず、監督を務めることになった。なにはと READ MORE...
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“あの頃”の全能感と
ひとりの少女、イヴ(エミリー・ブラウニング)が精神病院に入院している。いつの時代かはっきりはしないが、彼女は拒食症を患っているようなので、おそらくは現代なのだろう。自らの身体を否定することで世界を拒絶 READ MORE...
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“ヨロコビ”と“カナシミ”のバランス
11才の少女ライリーの頭の中にいる“ヨロコビ”、“カナシミ”、“イカリ”、“ムカムカ”、“ビビリ”といった感情たちが主人公と聞いただけで、いかにもアメリカらしい通俗化された心理学ものであることはただちに理解される READ MORE...
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目の前に広がるもの
正直なところチベットといえば、「“意識の高いハリウッド・セレブ”がダライ・ラマを支持し、チャリティ・コンサートを開催しているアレね」という認識以上のものを持っていなかった。「大国に近接して存在してしまっ READ MORE...
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立てこもりと鬼ごっこ
人間の根源的には暴力への嗜好がある。それを合法的に解放さえしてやれば社会は安定するだろう。ひとびとは地道な労働に専心できるようになり、経済は上向き、失業者は減少する。そんな絵図を近未来のアメリカにおい READ MORE...
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現実なのか夢なのか
その昔、『セレブレーション』(98)のために来日していたトーマス・ヴィンターベアが、「次は地平線いっぱいに拡がる大軍勢が出てくるような映画を作りたいな」という意味のことを冗談めかして漏らしていたのを覚え READ MORE...
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最初の大爆発、最初に四散する車輌、最初の轟音
『マッドマックス』(79)でデビューした監督ジョージ・ミラー自身が、10年以上もの間作り続けていたのがこの四作目、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』である。最初の予告篇を目にした瞬間、はじめてシリーズ READ MORE...
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どれほど陳腐でもかまわない
突然フェイスブックに“しあわせいっぱいな家族写真”を上げまくる人間を見ると、よっぽどツライ毎日を送っているのだろうなと考えるし、いきなり「“しあわせ”ってなんだろう」なんてことを考え始める者がいたら、よっ READ MORE...
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ありとあらゆることが起こる
古い記念写真や絵はがきを想起させる「変形スタンダード・サイズ」のフレームの中、波打ち際の岩場に数人の男たちが散らばっているという風景からこの映画の幕は開ける。風や生き物の気配や男たちの佇まいには、どの READ MORE...
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演技の演技
60年代の精神病院。ひとりの医師の姿が見えない。失踪したのではとの懸念が院内に拡がり、隔離病棟から青年患者マイケル(グザヴィエ・ドラン)が呼び出される。彼その事情を知っていると目されていた。 この段に READ MORE...
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“輝かしい未来”との接続
1955年に作られたディズニーランドの中にある〈トゥモローランド〉には、その当時の未来観が封じ込められている。その後も新しいアトラクションが導入されることで絶えずアップデイトされてきたが、当時から存在する READ MORE...
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失ってはならない妄想
「その人の身になる」というのを英語では「その人の靴を履く」と言うわけだが、この映画にはそれを文字通りに現実化する“魔法のミシン”が登場する。それを使って修理した靴を履くと、外見がその靴の持ち主そのものと READ MORE...
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古典的少年たち
少年たちは、巨大なコンクリート壁に囲まれた“広場(グレード)”の中で何年もの間生活している。毎月ひとりずつ補給物資と共に“新人”が送り込まれ、彼らはみな自分自身の名前以外の記憶を失っている。集団生活を営む READ MORE...
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ほんとうになんでもないことだけど
ひとりの若い母親サンドラ(マリオン・コティヤール)が、“病気”のためしばらく休んでいた工場に復職しようとしている。だがその矢先の金曜日、解雇が伝えられる。はからずも、一名の欠員が業務に支障をきたさないと READ MORE...
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青春映画の骨格
三人の若者が、アメリカ南西部の砂漠を車で移動している。ニック(ブレントン・スウェイツ)とヘイリー(オリヴィア・クック)はつきあっていて、ジョナ(ボー・ナップ)はニックの親友のようだ。一年という期間限定 READ MORE...
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否定しがたい悦び
ひとりの少年がバス停に降り立つ。身振り手振りで道を尋ねているようだが、やがて学校施設のようなところに辿りつく。中庭では卒業式が開催されているようで、教師と思しき中年男女に挨拶をして去ってゆく若者たちが READ MORE...
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こーゆーことでいいんだっけ?
時は1970年、場所はゴルディータ・ビーチ(架空の地名で、LA国際空港のすぐ南に位置するマンハッタン・ビーチをモデルにしているとされる)。ある晩、探偵業を営む主人公ドック(ホアキン・フェニックス)のもとを、 READ MORE...
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はじまりと結末の物語
60年代のアテネ。アメリカ人青年ライデル(オスカー・アイザック)は、ツアーガイドで糊口をしのいでいる。厳格で優秀な父親から逃れるようにして国外脱出したもののその間に父は亡くなり、帰国のタイミングもアテネ READ MORE...
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本物か偽物か
イニャリトゥは、とにかく登場人物全員が大げさに深刻ぶった顔をして悩んでさえいれば“深遠”で“高尚”な映画ができあがると信じているようにしか見えないヤスさが我慢ならないという作り手のひとりだったわけだが、意 READ MORE...
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“懐かしさ”と“陰謀論”
大衆娯楽の世界では、圧倒的なポピュラリティを獲得した“画期的かつ独創的な作品”というのは、ほんとうに誰も見たことのなかったもの、すなわち真に斬新なものではなく、誰もが知る要素を誰もが納得するかたちで、た READ MORE...
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人間の模倣という切実な問題
ADHD的な特徴を持った人が好かれていると思っていたら、ここ数年それがアスペルガー的な特徴を持つ人へと移行した印象はあった。テレビでよく見かけるコメンテーターや芸人にも“そっち系”が目立つようになったし、た READ MORE...
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剥き出しの「外交」
曲がりくねった狭い路地には、水気で膨れ上がった書籍のように湾曲した壁面が迫る。あらゆる町角に歴史の影が刻み込まれていて、そこに立ち上る犬の糞や人間の小便の臭気は自動車の排ガスと混ざり合い、街そのものの READ MORE...
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合致しない家族の時空
「右派」として逮捕された夫(チェン・ダオミン)が、「文化大革命」の終了した1977年、20年ぶりに妻(コン・リー)のもとへ帰る。だが、ひたすら夫を待ちわびていた妻は、夫をその人と認識することができない。「心 READ MORE...
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辻褄のディテイル
この世界では、70年代のニューヨークに「連続爆弾魔」が現れ、人々を恐怖に陥れることがわかっている。未来世界に存在する時空警察所属の主人公は、その名の通り時間と空間を行き来しながら犯人を追跡し、大惨事を未 READ MORE...
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そのとき獲得しうる“勝利”とは?
タイトルにある「トゥーマスト」とは、トゥアレグ族出身のムーサをリーダーとするバンドの名前である。そのファースト・アルバム『ISHUMAR』は、ピーター・ゲイブリエルによるレーベル「Real World」から発売されて READ MORE...
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われわれの身体に触れてくる
ジェイムズ・ワンによる『死霊館』(13)が怖かったことは覚えているし、アナベル人形にもキッチリと見覚えがあるのだが、劇中どのように登場したのかまったく思い出せない。いや、エピローグ部分で主人公ウォーレン READ MORE...
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戦場の抗いがたい磁力
戦場の持つ抗いがたい磁力についてはしばしば語られてきた。すぐに思い浮かぶのは、『地獄の黙示録』(79)のナレーション原稿に手を貸し、『フルメタル・ジャケット』(87)の脚本に参加したマイケル・ハーによるヴェト READ MORE...
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不意打ちするユーモア
「復讐」が甘美な主題であることに異論はない。なにしろ、暴力が完全に正当化されるところから始まるのだから。同時に、復讐の達成が苦いものでしかないという結論もまた容易に腑に落ちる。よくいわれるように、復讐 READ MORE...
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悪魔的な磁力
ナチスによるホロコーストを、生還者たちのほか元ナチス親衛隊員や収容所付近に住んでいた農民などにいたる関係者らの証言のみによって記録した9時間27分のドキュメンタリー映画『SHOAH ショア』(85)。その監督ク READ MORE...
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人生半ばの迷い
ひと組の夫婦関係が破綻する。そこから始まる物語を、『コナーの涙』は夫の側から、『エリナーの愛情』は妻の側から描く。それぞれ自律した二本の映画である。 コナー(ジェームズ・マカヴォイ)にとっては、原題 READ MORE...
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ハリウッド映画の定石換算三本分以上!
物語はこれ以上にないほどの直球。かつてはボクシング・チャンピオンの栄光を極めながらも驕る心に負けて八百長に関わり、今では借金取りに追われる生活をしている中年男ファイ(ニック・チョン)。裕福な家庭に生ま READ MORE...
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等しく薄明の中を生きている
現代中国に生きる若い核家族が登場する。新興富裕層に属するであろう彼らの生活には、いかなる不安の影も見えない。工場の社長である夫ヨンチャオ(チン・ハオ)と、元々はその共同経営者だが今は子育てのため専業主 READ MORE...
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可笑しくもあるし身につまされもするホームドラマ
ここのところの日本では、「母娘問題」、「毒母」のキーワードが前景化しているわけだが、伝統的には親子問題といえば、旧約聖書の昔から「父息子」関係が物語の中心にあったものだった。絶対的に強い父親と、その父 READ MORE...
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あり得たかも知れない風景
アメリカから故郷アイルランドに帰ってきた男が主人公と聞くと、直ちにジョン・フォードの『静かなる男』が頭に浮かんでしまうところだが、あれは1952年の映画、これは1932年ごろのお話である。前者は完全なるフィク READ MORE...
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気持ちの良いファンタジー
舞台は、リオ・デ・ジャネイロのファヴェーラ(スラム)。語られるのは、社会派メロドラマ。つまりこの映画は、『シティ・オブ・ゴッド』(02)がわれわれの中に定着させた“ファヴェーラの現実”の上に、あり得べきフ READ MORE...
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頼もしい相棒、「腹具合」
高校時代、同じ電車で通学する友人がしばしば「腹が痛い」と便所に駆け込んでいたのだが、そのたびに「弱いヤツ」とうっすら軽蔑する気持ちを抑えられなかったのを覚えている。社会人になってからも、たとえば海外出 READ MORE...
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何事かが進行している
「ハリウッド」には途方もない金が流れ込み、それにふさわしい大きさにまで肥大した人間の欲望が剥き出しに蠢いている。想像を絶する快楽が追求されていて、「ハリウッド」という社会に生きる者の倫理は隅々までさか READ MORE...
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おとなのコメディ
ポランスキーとマゾッホという組み合わせにはそれほど意外性がないし、今さら文芸作品の映画化など見たくないという気がしたのだが、『ゴーストライター』(10)や『おとなのけんか』(11)といった近年の小品が持つ READ MORE...
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すっきりウェルメイド
たとえば、テイト・テイラーの『ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜』(11)が、あれほどウェルメイドだとは誰が予想できただろうか。そもそもテイト・テイラーの名前も知らなかったし、あの素晴らしい作品を見た後でも READ MORE...
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宙吊りの時間
ホン・サンスの新作は、主演が加瀬亮、タイトルは『自由が丘で』と耳にすれば、日本で撮影されたのかと思うことだろう。だが、ここでの「自由が丘」というのは、ソウルにあるカフェの名前に過ぎない。いや、過ぎない READ MORE...
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こぼれ落ちてきたリアルなもの
周知のとおり、われわれはみな「夢は叶う」と耳元で囁かれたり、頭ごなしに怒鳴りつけられたりしながら成長してきた。その実現に向けて邁進しなければ「ダメ人間」で、ましてや「夢」を持たない者などは憐れみの目す READ MORE...
FILMS
マシュー・マコノヒーの肉体という核
多くを語る必要はない。とてもわかりやすいSFである。過去の様々な作品の要素が取り込まれているが、それらネタもとを知っておく必要もない。ちょっとした「難解さ」や「思索性」が売りというか作風のノーランだが、 READ MORE...
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イイ顔のオヤジたち
イスラエル映画でしかも娯楽映画と聞くだけで、先ずはこの映画の心意気が伝わってくるというものだが、そのジャンルが「サスペンス/ノワール」だったとしたらどうなのか。「サスペンスなんて、イスラエルの日常その READ MORE...
FILMS
幽霊たちにの見つめる世界
アーカンソー州ウェスト・メンフィス。Wikipediaによると、人口は2010年の時点でも26,000人強の田舎町である。1993年5月5日、そこに住む三人の少年たちが森の中へと入ってゆき、翌日、手首と踵を靴紐で結ばれた全裸 READ MORE...
FILMS
ためらいなく爽やかに
『サプライズ』(13)は、両親の家に集まった家族たちが一人ずつ殺されていくという、ミヒャエル・ハネケ『ファニー・ゲーム』(97)というより、近年よく見るタイプの「郊外ないし別荘地で起こる無意味な取りすがり READ MORE...
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“リアル”感という作風
『エクスペンダブルズ』シリーズというよりも、シルヴェスター・スタローンと共演した『大脱出』(14)を見ていて、「シュワちゃんもいつのまにかアブラが抜けてイイ顔になったなあ」と感じたものだったが、この映画 READ MORE...
FILMS
もはや“ジジイもの”ですらない
スタローン本人が監督した『エクスペンダブルズ』第一作も十分に楽しかったけれど、その楽しさの大きな部分が、「スタローンとシュワルツェネッガーが共演する上に思いつく限りのアクション・スターがぶちこまれる」 READ MORE...
FILMS
際限ない越境の果てに
とてもわかりやすい「越境」の物語なのだが、『マダム・マロリーと魔法のスパイス』という邦題からストレートに連想されるものを予期して見ると、すこし戸惑うことになるかもしれない。いや、映画を見た後で考え直す READ MORE...
FILMS
戦いの地平
「“野獣”のような男に“幽閉”されている若く美しい女性が、次第に“野獣”を愛するようになり、ついにはその愛によって“野獣”を“野獣”たらしめている“魔法”を解き、ふたりは結ばれる」という物語は、もちろん、「少女を READ MORE...
FILMS
グザヴィエ・ドラン『トム・アット・ザ・ファーム』
これは、突然出現したり消えたりする人影の映画である。 まず、主人公トム(グザヴィエ・ドラン)本人が、廃墟のように見える農場に突如姿を現す。人影はどこにもない。鍵を見つけて勝手に屋内に入ると、ついさっ READ MORE...
FILMS
アントン・コービン『誰よりも狙われた男』
パリで乗ったタクシーの若い運転手が、エピソードを豊富に持った面白いヤツだったので、半年後に訪れた時にも電話をかけて呼び寄せてみた。するとその時は別人のように疲れた様子で口も重く、水揚げがキビシイのは今 READ MORE...
THEATRE
『わが父、ジャコメッティ』
この「悪魔のしるし」という団体名は、危口の敬愛する英国のロックバンドBLACK SABBATHの「SYMPTOM OF THE UNIVERSE」の邦題、「悪魔のしるし」に由来している。では、悪魔のしるしとは何をやっている集団なのか。演 READ MORE...
FILMS
ラース・フォン・トリアー『ニンフォマニアック Vol.1/Vol.2』
どうにもここのところのトリアーの映画には、というか『アンチクライスト』(09)で剥き出しになった度し難い生真面目さにはイヤ気がさしていたのだが、「色情狂」を主人公とした映画と聞くとやっぱり興味を惹かれて READ MORE...
FILMS
クリント・イーストウッド『ジャージー・ボーイズ』
2005年から上演されてきた同名ミュージカルの映画化作品ということになるが、この作品自体はミュージカルではない。もちろんヒット曲の数々は俳優たち自身によって劇中山ほど歌われる。だが全体としては、『グッド・ READ MORE...
FILMS
フィリップ・ヴィチェス+ヴァレリー・ベルト『聖者たちの食卓』
シク教の寺院では、礼拝後に男女貴賤宗教その他を問わず無料で食事が供されるのだという。インド北西部の都市アムリトサルにある総本山「黄金寺院」では、毎日10万食が食べられている。 人々はニンニクを刻み、小 READ MORE...
FILMS
スコット・クーパー『ファーナス/訣別の朝』
ドライヴイン・シアターの車中、ささいな言葉に反応した男が、女を殴る。それを見とがめた赤の他人もまた殴られる。地面に倒れてからも、執拗な暴力は止まない。そんなシーンから、この映画は幕を開ける。殴り続ける READ MORE...
FILMS
ジョン・フォード『静かなる男』
いまさらジョン・フォードのこともこの映画のことも、書き加えることなどなにもないわけだが、ひさしぶりに見直してみてやっぱり面白いし、“物語の展開”やら“見せ方”といったような技巧にまつわる言葉遣いをするのも READ MORE...
FILMS
その感覚は続いていく
たとえば「3D」や「フェイクドキュメンタリー」といったものも、体験そのものであることをめざす中で映画が辿り着いたテクノロジー/テクニックなわけだが、それとは真逆の方向性で体験そのものとなる映画もある。 READ MORE...
FILMS
仄暗い微笑み
主人公はズールー族出身の刑事アリ・ソケーラ(フォレスト・ウィテカー)で、強行犯撲滅課の彼が部下のブライアン・エプキン(オーランド・ブルーム)らと共に惨殺された少女の事件を追ううち、新種ドラッグの存在を READ MORE...
FILMS
否応なく生じる偏差
『テイク・ディス・ワルツ』(11)でわれわれを仰天させた監督サラ・ポーリーの新作は、自らの家族についての“ドキュメンタリー”だった。 “ドキュメンタリー”という単語が括弧付なのには、理由がある。それは映画 READ MORE...
FILMS
そういう場所に
かつて、『ローカル・ヒーロー/夢に生きた男』(83)という映画があった。テキサスの石油メジャーに勤務する主人公が、コンビナート建設用地買収のためにスコットランドの片田舎町に派遣されるというお話だった。 READ MORE...
FILMS
いろいろと楽しい
どれだけ科学技術を駆使して身を護ろうと、自然災害はある日突然想像を絶する規模で襲いかかり、人類を蹂躙してゆく。そこには何の意味もない。そしてそれ故に、われわれを魅了する強烈な力を持っている。幼年期、台 READ MORE...
FILMS
一筆書きの距離感
ごたつく男女関係ほどはたで見ていて面白いものはないけれど、うっかりすると感情移入が過ぎてイライラギリギリ余計なお世話に歯ぎしりするハメになったりもする。登場人物たちの愚かな行動を楽しく見守っているつも READ MORE...
THEATRE
『朝日を抱きしめてトゥナイト』
1987年生まれの劇作家・演出家である三浦直之によって、2009年に旗揚げされたロロ。80年代の少女漫画にでも出てきそうな、ポップで胸キュンなシーンの連打と、ハイテンションかつスピード感溢れる演出でハートを射貫 READ MORE...
FILMS
世界はそんな風にして崩壊している
とてつもない事態が、止めようもなく進行している。そのことだけはハッキリとわかる。ひとつひとつの物音が際立った輪郭をもって立ち上がり、風景そのものが小刻みに震えているようにすら見える。それは、世界が崩壊 READ MORE...
FILMS
ベタをおそれぬ強固な骨格
地球は異星人の侵略を受け、人類は絶滅の危機に瀕している。唯一の希望は“機動スーツ”を着た“戦場の女神”(エミリー・ブラント)であり、主人公ケイジ(トム・クルーズ)は彼女の存在を最大限に活用しすることで人類 READ MORE...
FILMS
共鳴し合う綻び
たしかに、映画というのは本質的に“ごっこ遊び”だし、それがジャンルに寄り添うものであれば、二重の“ごっこ遊び”になる。だが“ごっこ遊び”にはいつでも必然性が必要だし、必然性があれば観客のエモーションは引きず READ MORE...
FILMS
もはや娯楽映画
中国の、しかも片田舎(雲南省北西部の昭通市)にある精神病院で撮影されたドキュメンタリーと耳にすれば、どれだけヒドイものが見られるのかという期待が自然と高まり、映画はその状況を告発するものとなるに違いな READ MORE...
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『ど根性ガエル』状況
地球は、人類の肉体に寄生する異星人たちによって占領されている。冒頭、ヒロイン(シアーシャ・ローナン)もまた彼らに捕獲され「ホスト(宿主)」となるのだが、彼女の自我に限っては、どういうわけか意識の境界外 READ MORE...
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女に敗北する男
「ノアの方舟」と耳にして思い浮かぶ物語はどんなものだろうか。おそらく、神のお告げを聞いたひとりの老人が、ほかの人間たちにバカにされながらも方舟を作り上げ、大洪水を生き延びるというくらいのものだろう。カ READ MORE...
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コテコテでイイ顔
「ポリス・ストーリー」と銘打たれているが、『ポリス・ストーリー/香港国際警察』シリーズの物語とは関係がない。むしろ、「ひとりの警官の物語」というニュアンスに近く、悪者とど派手なアクションを繰り広げるの READ MORE...
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「罪」と「邪悪」
英題は「A Touch of Sin」。これが「Touch of Evil」であればオーソン・ウェルズ『黒い罠』なわけだが、「Sin」と「Evil」は違う。ここで描かれるのはあくまで「罪」の方であり、それが「邪悪」なものであるかどうか READ MORE...
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「正史」の物語
思えば、我々の世代にとって80年代とは「アパルトヘイト」の時代でもあった。「アパルトヘイトに反対するアーティストたち」によるチャリティー・アルバム『サン・シティ』(85)を買い、ポール・サイモンの『グレイ READ MORE...
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かなりの到達度で肉迫
現代社会を生きる人間は、インターネットに接続しすぎているから孤独なのではない。そもそも自律した感覚器官と意識を持った動物である人間が、孤独でなかったことはないのだ。人を隔てる「断絶」は、時代や場所に関 READ MORE...
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“愛”と“自由”の終わり
時は1969年秋、場所はロンドンのカムデン・タウン。主人公の「僕」とその同居人ウィズネイルは、小汚いアパートでぐだぐだの生活を送っている。共に売れない/まだ売れていない俳優で、朝から酒を浴び、四六時中戯言 READ MORE...
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隙のない手つきと風通しのよさ
ジェイソン・ライトマンといえば、タバコ業界の内幕ものである『サンキュー・スモーキング』(06)、未成年者の妊娠・出産を巡る『JUNO/ジュノ』(07)、リストラのプロを主人公とする『マイレージ、マイライフ』( READ MORE...
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普通の殺戮者
この映画が不穏なのは、「殺人サイコパス」たちの戦慄すべき告白が生々しく、あるいはおもしろおかしく収められているからではない。なぜこの映画が、我々に対して圧倒的な力を持つのかといえば、真実はその真逆にある。 READ MORE...
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とっても正統的な
40歳を過ぎてしばらくしたある日、学校を卒業してからもう20年が過ぎていることにふと気づく。20年といえばひとりの人間が成人してしまう時間の長さではないか。そんな時間が流れ去る間、オレはいったい何をしてきた READ MORE...
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最良のアレクサンダー・ペインの作品は、受け止めにくい。共感の枠組みの中にすんなりと収まらない。つまり、なんらかの教訓を引き出しにくい。とはいえ、過激なことをやろうという自意識が前面にあるわけでもない。 READ MORE...
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ひとりの痩せたカウボーイ、ロン・ウッドルーフ(マシュー・マコノヒー)が博打を打ち、酒を飲み、女を抱いている。どこから見ても粗野で軽薄、知性のかけらも感じさせない。時代は80年代半ばのようだ。 そんな彼が READ MORE...
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ひとりの50代女性が娘を姉の家に預けて、ケニア旅行に出かける(『愛』)。その目的は「セックス観光」で、西欧的ジェンダーが身に染みこんだ彼女は、なかなか最初のステップを踏み出せないが、それを乗り越えた後 READ MORE...
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周知のとおり、一作目の原作が映画版と決定的に異なっているのはビッグ・ダディのキャラクターで、彼は元警官でもなんでもなく、ただ単に度を超したコミック・ファンであり、その世界観を現実化するために仕込まれた READ MORE...
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アメリカ南部の綿花畑の黒人奴隷一家に生まれた少年が、「ハウス・ニガー(家事奴隷)」として執事の仕事を仕込まれ、やがてホワイトハウスに務めるようになる。それが1950年代のことで、そこから80年代に至るまで8 READ MORE...
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極寒の地と化し生物の死に絶えた地球上を、一本の列車が疾走し続けている。人類の生き残りたちが、その中で生活しはじめてすでに17年が過ぎた。資源も空間も限られた車内は、貧困層と富裕層との間に厳格な階層分けが READ MORE...
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なにかとんでもないことが起ころうとしている。それが何なのか一向にわからないが、取りかえしのつかないことが起こりつつあるという圧倒的な気配だけが空気をふるわせている。 これはデイヴィッド・リンチの新作 READ MORE...
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フェイク・ドキュメンタリー(もしくはファウンド・フッテージ)系のホラーというのには正直なところ食傷気味だった。第一、『パラノーマル・アクティビティ』シリーズのように、きちんと予算がかけられた作品になる READ MORE...
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ファースト・ショットで、画面の中の子どもたちが我々の方を覗き込む。カメラは不安定で、ライティングもされていない。だが、この作品はいわゆるドキュメンタリー映画ではない。主人公たちの身の上に起こった出来 READ MORE...
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脱獄ものの場合、ディテイルがリアルであればあるほど興奮するだろう。『アルカトラズからの脱出』など、自分が捕まった場合にはこうすればいいのかとハウツーもののようにして見ていたものだ。そういう意味では、漂 READ MORE...
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SVが選ぶ “クリスマスは映画三昧!” Vol.4
1969年12月12日夕刻、ミラノのフォンターナ広場に面した全国農業銀行が爆破され、17人が死亡、88人が負傷する。冷戦下、学生・労働運動が激しく燃え上がり、国家に揺さぶりをかけていた時代の話である。そして容疑者 READ MORE...
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SVが選ぶ “クリスマスは映画三昧!” Vol.3
監督・吉田恵輔といえば、そのフィルモグラフィーのほとんどをオリジナルの人間ドラマ作品が占めるという、昨今の邦画状況を見渡すと奇跡のような作り手のひとりである。しかも、あながちに観客の涙を搾り取る方向で READ MORE...
ところで物語の時間軸は、麦子が田舎町に降り立つ数ヶ月前へと飛び、父の死後兄(松田龍平)と共に暮らしていた家に、幼い頃に生き別れた母が移り住んできたというなりゆきが語られる。父を捨てて出て行った母、とい READ MORE...
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SVが選ぶ “クリスマスは映画三昧!” Vol.2
幾世紀も続く生に倦み果てた吸血鬼たち。その倦怠を貴族の退廃に重ね合わせるというのも、現代のヴァンパイアものにおけるなじみのイメージではある。そういう意味では、この映画もまた想定の範囲内におさまる。しか READ MORE...
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一方で「フェイク・ドキュメンタリー」という手法で、他方で「3D」というテクノロジーによって、映画はますます実体験そのものとなることを目指してきた。もちろんそれは、映画が原初から備えている欲望であり衝動で READ MORE...
事ほど左様に、「誰が理不尽」だとか「何が悪い」という図式が単純に示されることがない。腹立たしいほどに不条理だが、何をどうすることもできないし、何に向かって怒りを向ければ良いのかもわからない。「あそこで READ MORE...
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正直なところ、“フクシマ”をテーマにしたドキュメンタリーと耳にすればするほど、見たいという気持ちは細っていく。どうしても面白いと思えない。食わず嫌い以外のなにものでもないが、概ね想像の範疇に収まるに違い READ MORE...
「窃盗癖」という病を知ってか知らずか、この映画の作り手は(すなわちソフィア・コッポラということになるが)、対象から極めて微妙な距離をおく。いや、むしろほとんど失敗かと見紛わんばかりにぐらぐら揺れまくっ READ MORE...
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『彼女たちはなぜ万引きがやめられないのか?』(竹村道夫監修・川村重実著/飛鳥新社刊)によると、経済的な理由もなく常習的に窃盗/万引きを繰り返す者は、窃盗癖という嗜癖性疾患のひとつに冒されている可能性が READ MORE...
BOOKS
あの頃、公開される映画は一本ごとに、全く見たことのない新しい現実を体験させてくれていた。映画館を出た後は、たった今目撃してきたばかりの現実と、それを出現させ得た新しい技術について、果てしもなく議論し続 READ MORE...
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アメリカ経済は破綻し、ドルは中国元と連動しなければ価値を持たない。ニューヨークはもはやグローバル経済の中心地ではなく、中国のような圧倒的経済力を持つ“大国”によって救済されるべき、すなわち搾取されるべき READ MORE...
FILMS
ジェームズ・ワンは典型的な職人監督気質の人だと思っていたが、幽霊屋敷ものへのオブセッションを見ると、そうとばかり簡単には言えないのかもしれない。 前作『インシディアス』はすでにして、『パラノーマル・ READ MORE...
無事に犯行を終えたフランクがバッグを開くと、その中には空っぽの額縁だけがある。再び激昂したフランクはサイモンに絵画の行方を問い詰めるが、頭部を強打したため、彼の記憶は一部が失われている。どう処分したか READ MORE...
FILMS
ダニー・ボイルといえば、ありとあらゆる映像の断片をサウンドトラックと共に自在に編み上げることで物語を語る達人というイメージがあるだろう。時間軸を行き来しながら、視点を思うがままに飛躍させた、どれだけバ READ MORE...
FILMS
80年代半ばのペルーでは、極左ゲリラが跋扈していて、送電線が爆破された停電の中、ロウソクを点して食事をしていると、さほど遠くないところで乾いたマシンガンの発砲音が響いたりしていたし、高級住宅街の真ん中に READ MORE...
FILMS
1692年、悪魔を呼び出そうと儀式を執り行う七人の女たち=「Lords of Salem」の姿から物語は幕を開ける。その後間もなく我々の視線は、現在のセイラムに移り、地元ラジオ曲でDJをするひとりの女性(シェリ・ムーン・ READ MORE...
FILMS
何年か前、セイラムに足を踏み入れたことがある。ニューイングランド地方各地に点在するラヴクラフト作品の舞台を訪れるというのが目的だったのだが、南西部の砂漠を縦断する旅にばかり慣れてしまっていて、ハロウィ READ MORE...
このようにして我々に直結された事件は、ようやく我々の目の前で、“凶悪な”相貌を見せる。後半に訪れる祝祭めいた嬲り殺しのシーンがやってくる頃には、己の不徳が故にその場に居合わせてしまったというような居心地 READ MORE...
FILMS
ほんのちょっと海外に出て帰ってきただけで、道路は清潔だし、路上にたむろしている不穏な若者もいないし、人混みで掏られる心配もないし、地下鉄の車内なんて自宅の居間並にパンツ一丁で気を抜ける空間に感じられた READ MORE...
FILMS
この映画を語る際に、「ヒッチコック風サスペンス」という言葉が使われている。たいていの映画の場合、予備知識ナシで不意打ちを喰らうというのが正しい見方なわけだが、この作品に限っていえば、ひとまず「ヒッチコ READ MORE...
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この映画が真に成功を収めているのは、まさにその点にある。検察官、警察官、税関職員その他もろもろ全員が腐敗し、というよりも社会全体が姻戚関係を基礎に置く上下関係の錯綜したネットワークによってがんじがらめ READ MORE...
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ひとりの税関職人がいる。密輸を目こぼしするかわりに小銭を受け取ったり、仲間と共同で押収品を便所の天井裏に隠したりすることでなんとか家族を食わせているという、小悪党ですらないような男である。なにしろ、仲 READ MORE...
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周知のとおり2009に公開されたJJによるこの新シリーズ第一作目は、コアなスタートレック・ファンを満足させつつ、彼らの存在を薄気味悪い秘密結社と感じてしまうような一般人をも同時に楽しませるという、極めて困難 READ MORE...
FILMS
たしかに可笑しいし面白い。価値を転倒させることで批評的な視線を我々の社会に逆照射しようという風刺意識が前面に立ちすぎているものすら少なくて、ほとんどは酒場のバカ話や中学生の妄想をそのまま端的に具現化し READ MORE...
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欲望に誠実ということで言えば、もちろん「太平洋の裂け目」から次々と出現する「KAIJU」たちという設定は、ラヴクラフト的=クトゥルー的な宇宙観そのものでもあるが、その深淵を覗き込むことになる科学者二人組な READ MORE...
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デル・トロがH・P・ラヴクラフトの小説『狂気の山脈にて』映画化を準備していると聞き、それから製作が中止されたと耳にしてからでも、だいぶ時間が経った。それが再開されてまた止まったという情報が伝わってきたの READ MORE...
FILMS
郊外に住む四人家族。周囲の景色に溶け込み、大きな問題を抱えているようには見えないが、実のところ夫は失職中で、不動産業を営む妻の収入に頼る生活がしばらく続き、支払いの滞った請求書も溜まりつつある。だが、 READ MORE...
興味深いのは、その彼の狂信にあてられてクルーたちの意気も上がり続けるのかといえばそううでもなく、ひとりだけ熱意にほだされて自ら参加を名乗り出た元冷蔵庫セールスマンのヘルマンだけが、感情の上下を顕わにす READ MORE...
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そういえば幼年時代は漂流ものが大好きで、『ロビンソン・クルーソー』や『十五少年漂流記』はあたりまえとして、他にもいろいろと読みあさっていた気がする。その中には、海水と真水を1:3の割合で混ぜれば摂取して READ MORE...
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そういえば、リメイク版『死霊のはらわた』の中で、悪霊に取り憑かれて仲間を殺しまくるヒロインは、ドラッグへのアディクション(依存症)を抱えていた。そのせいで、どんなに怖ろしいモノを見ても、すべては「禁断 READ MORE...
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そういえば、少し忘れかけていたけどハーモニー・コリンの脚本は地味なまでに構造的なのだった。でもだからといって、この作品が古典的なフォルムを身にまとっているわけではない。 冒頭から、ほとんど全裸の若い READ MORE...
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そもそも、例えば二番目のエピソードのほとんど全体が、愛人を待つアンヌの夢ないし想像の中で展開されているように構成されるし、そうである以上、この映画のどの部分がアンヌ自身によって夢見られていてもおかしく READ MORE...
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若い女性が脚本を書き始める。それはひとりのフランス人女性アンヌ(イザベル・ユペール)を主人公としている。 彼女は、青いシャツを着た映画監督として、友人の韓国人映画監督ジョンス夫妻と共に、海辺の町に到 READ MORE...
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以前ホラー作家のジャック・ケッチャムと会ったとき、60年代はありとあらゆるドラッグ(アヘンだけは身体にあわなかったのだそうだ)でラリっていた素晴らしい時代だったが、それも69年にシャロン・テイトらが惨殺さ READ MORE...
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この映画は、そうしたものすべてを、ほぼフィックスの画面で捉える。ペドロ・コスタのような審美的で微動だにしないフィックスではなく、人物の動きに合わせてフレームは動くし、特に歩いて行く子どもの後を追うシ READ MORE...
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タイトル通り、中国の中でも最も貧しい地方のひとつとされる雲南省の、海抜3200メートルの高地にある村に生きる幼い三姉妹の姿を捉えたのがこのドキュメンタリーである。 10歳の長女・英英(インイン)は辛うじて READ MORE...
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この世界では“セレブ熱”が深化し、“セレブ”の言動を逐一追い、その真似をしたりそれについて語ったりするだけではなく、“セレブ”の罹患した病原体に金を払って感染したり、“セレブ”の細胞を植え付けた食肉を摂取する READ MORE...
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太陽とスターと暗黒街。栄華を極めるミッキー・コーエンとその帝国。腐敗しきった市警。つまりはジェイムズ・エルロイ原作(あるいはカーティス・ハンソン監督作)『L.A.コンフィデンシャル』直前(1949年)のLAを舞 READ MORE...
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映画の黎明期、大写しにされた手のショットを見て、「手首が切り落とされている!」と震え上がった観客の話は有名だが、そうした例を引くまでもなく、映像は本質的に不吉なものである。そこに写っているものと、それ READ MORE...
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リンカーンといえば、「南北戦争に勝って奴隷を解放した大統領」というくらいのイメージではないだろうか。それで間違いはないのだが、実際にはそれほど単純な話ではなかった。 南北戦争が始まって二年目が終わろ READ MORE...
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レオス・カラックスの新作『ホーリー・モーターズ』の主人公オスカーもまた、リムジンに乗って一日を過ごしていた。『コズモポリス』の主人公エリック・パッカー(=ロバート・パティンソン)と違う点は、オスカーに READ MORE...
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映像のスタイルそのものは、これまでにないほどクラシックにも感じられる。だがそこにはたしかに、「メルド」で試みられたやぶれかぶれギリギリのファルス(笑劇)を通り過ぎたからこそ可能になったであろう軽さと自 READ MORE...
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かつて、押井守原作/森山ゆうじ画による『とどのつまり…』というマンガが、『アニメージュ』誌上で連載されていた。アニメーターのはずだが絵を描けなくなった主人公が、恋人だったはずの女に裏切られ、アニメ制作 READ MORE...
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だいぶ前に見たエンロン事件を巡るドキュメンタリーによれば、株価操作のためのハッタリをエスカレートさせていた経営陣の間では極端なエクストリーム系スポーツが流行り、経営においても私生活においても危険そのも READ MORE...
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『ジャックと豆の木』と言えば、ディズニーのアニメ映画を絵本化したものがまず記憶に浮上する。小さな小屋の床板に開いた穴に転がり落ちる豆。夜の内にニョキニョキ伸び上がり、雲の上に到達するツタ。デカイお城に READ MORE...
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思えば、『ハードエイト』(96)は端正な物語とフォルムを持つ疵のない人間ドラマだったが、第二作目の『ブギーナイツ』(97)ではすでにして70年代のポルノ業界を主題に選び、いろんな次元での破綻を怖れないという READ MORE...
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1970年前後に一枚だけアルバムを出して消えたというアーティストはたくさんいる。それだけでもひとつのジャンルをなしていると言ってもいいくらいに。そういう連中の残した作品の中には、ハッとさせられるくらいポッ READ MORE...
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いくつかの物語が平行して語られる。ひとつは1849年に、奴隷売買契約を交わすため南太平洋を訪れる青年弁護士アダム・ユーイングの物語。もうひとつは1936年に、ユーイングの日誌を読んでいる音楽家ロバート・フロビ READ MORE...
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閃きに充ちた聡明な植物学者と、暴力を知り尽くした元傭兵。上質なマリファナを生産する知識と、取引につきまとう暴力の行使。ふたつの資質の完璧なコンビネーションにより、事業は極めて順調。ふたりは親友で、ひと READ MORE...
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依存症関係の言葉に、「底つき」という表現があるらしい。家族など近しい者をはじめとする周囲のあらゆる人間を欺き、「その気になればいつでも止められる」と誰よりも自らを欺きながら依存の度合いを深めて行き、い READ MORE...
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事前情報無しでファースト・ショットを見る。なるほど、新宿を捉えた真俯瞰だけど、どこから撮っているのだろう? 次のショットは新宿駅東口の一部分が、狭くもないけれどあまり広くもない画角で捉えられる。結構長 READ MORE...
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また、主人公を育んだ家族の造形にも抜かりはない。一見精神を病んだ息子に振り回される年老いた善意の両親でありながらも、物語が展開するにつれ、父親(ロバート・デ・ニーロ)は病的なまでに賭博に入れあげ験担ぎ READ MORE...
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専門的にはどうなのかわからないが、「双極性障害」とされるこの映画の主人公(ブラッドリー・クーパー)の姿を見ていると、どうしても「ADHD(注意欠陥・多動性障害)」とか「アスペルガー症候群」といった言葉が思 READ MORE...
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『平成ジレンマ』や『死刑弁護人』といった、語るべきことを語る良質なドキュメンタリー作品を生み出してきている東海テレビの監督齊藤潤一とプロデューサー阿武野勝彦による最新作と聞いて、なにはともあれ興味を惹 READ MORE...
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CIAの拷問部屋に、ひとりの若い女性が到着する。内面を隠蔽するようにして、特徴のない黒いスーツに身を包んでいるが、拷問の様子に動揺していることは隠し切れていない。だがわずかな時間経過によって、そうした動 READ MORE...
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人は見たいモノだけを見る。信じたいモノだけを信じる。という命題を基に作られた映画はいくつもある。すぐに思い浮かぶのは、俳優ビル・パクストンが出演・監督した『フレイルティー』だが、この作品では「このあり READ MORE...
FILMS
もちろんウェス・アンダーソンの映画はいつでも面白かったのだが、正直なところ『ダージリン急行』と短編「ホテル・シュヴァリエ」まで見てくると、そのせせこましさにうんざりという気分にはなった。おそらくは自分 READ MORE...
FILMS
さて、トム・クルーズ主演の『ワルキューレ』やジョーニー・デップ主演の『ツーリスト』などにおいて、おもに脚本家としての仕事をこなしてはいたもののなかなか監督二作目が実現しなかったマッカリーを、トム・クル READ MORE...
FILMS
この映画を監督し脚本も書いたクリストファー・マッカリーとは、一般的には『ユージュアル・サスペクツ』(95)の脚本を書いた男ということでしかないのだろうが、ほぼ無視されたと言っても良い初監督作『誘拐犯』(00) READ MORE...
BOOKS
大雑把に言って、写真集にはいくつかの種類がある。 ひとつは、「何を写したのか」が重要なもの。たとえばグラビアアイドル写真集とか、ある種のコンセプトによって写すものや写し方を決め込んだものなんかはここ READ MORE...
FILMS
幼年期には、『ロビンソン・クルーソー』や『スイスのロビンソン』(『家族ロビンソン漂流記 ふしぎな島のフローネ』原作)なんかを愛読して、来るべき「無人島漂着」に備えて知識を万端整えたりしていたものだった READ MORE...
FILMS
『銃撃』や『旋風の中に馬を進めろ』といったヘルマン作品を見ると、こんな企画が通るなんて60年代半ばとはなんて素晴らしい時代だったんだという気分になるわけだが、それはもちろん作品としての面白さに撃たれなが READ MORE...
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SVが選ぶ「クリスマス映画三昧!」Vol.4
周知の通り、エメリッヒといえば90年代後半以降の『インディペンデンス・デイ』(96)、『ゴジラ』(98)から近年の『2012』(09)にいたる作品群によって、派手な直球破壊描写を満載したハリウッド超大作の代名詞に READ MORE...
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SVが選ぶ「クリスマス映画三昧!」Vol.3
10代最後の年に書いた小説がベストセラーとなり、たちまち天才作家に祭り上げられるが、以降10年間一作も書き上げられない作家(=ポール・ダノ)。物心ついて以来抱えてきた欲望を小説の形に結実させたところ、図ら READ MORE...
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SVが選ぶ「クリスマス映画三昧!」Vol.2
『ロード・オブ・ザ・リング』の前日譚にあたるのが、というよりも原作者J.R.R.トールキンがまず書いたのは『ホビットの冒険』で、この映画はそれを基にした三部作の第一部にあたる。周知の通り、『ロード・オブ・ザ READ MORE...
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SVが選ぶ「クリスマス映画三昧!」Vol.1
ティム・バートンによるモノクロのコマ撮りアニメーションである以上楽しくないわけがないのだが、この映画の魅力はなによりも「死んだ飼い犬を生き返らせたい!」という強い願いをそのまま物語に展開してしまったと READ MORE...
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11月20日発売スタジオ・ボイス特別号 「MUSIC in CAR」より
帰国した足立正生が若松孝二の事務所にいるらしいと耳にして、ファックスを送ったことがある。すぐに電話がかかってきて、第一声は「バカヤロー!」だった。若松監督の声だった。 「なんでこんなの送ってくるんだ! READ MORE...
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ベン・アフレックの監督第二作目にあたる前作『ザ・タウン』は、決して力量がないわけではなく、むしろきちんと勉強をしてきた努力家としての基礎体力が感じられるのにもかかわらず、まだまだ映画的勘所のおさえ方が READ MORE...
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ひとりの孤独な青年が、ポラロイドカメラを手に街を彷徨している。映画では幾度となく目にした光景だが、それは犯罪の匂いと分かちがたく結びついている。 この作品においても、主人公の青年(金子岳憲)はいつで READ MORE...
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三浦友和の鈍く黒々とした顔の発見も素晴らしかったし、加瀬亮の線の細さの転換ぶりも面白かったが、なにより、どの作品でもただ単に“うまい”俳優としか感じさせることのなかった小日向文世にはじめて、その人間以外 READ MORE...
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25年の刑期をつとめあげ出所した、元詐欺師のフォーリー=サミュエル・L・ジャクソン。四半世紀の間に、仲間や友人たちはほとんど姿を消している。保護観察官との面談を定期的に挟みながら、建設現場という仕事場と READ MORE...
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主人公の女性フリーランス・スパイを、本物の格闘選手が演じるというのが企画の出発点なわけだが、その事実を知らなかったとしても、リアリズム系ソダーバーグ節のスパイ・アクションとして、何ら違和感なく見終えて READ MORE...
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第二次大戦終結間際に月へと脱出していたナチスの残党が、2018年、満を持して地球征服のために降下をはじめるというお話。そのきっかけとなるのが、46年ぶりに月面に降り立ったアメリカ人宇宙飛行士との遭遇。 ど READ MORE...
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“これは映画ではない”。だからまずは、相も変わらず凡庸な現実(なにしろ東京では何を“表現”しても検挙されることはない。もちろん、その“何を”の中からは当然の了解事項として排除されるいくつかの主題はあるわけだ READ MORE...
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このミュージカル映画について語るべきことはほとんどない。 時は80年代。舞台はハリウッド。彼の地では、映画スターだけでなく、数々のロック・スターたちが栄枯盛衰を繰り返している。そうした輝ける世界を目指 READ MORE...
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「ミヤーク」とは宮古島(沖縄県)を指す。現代の東京に住む我々からすれば時代が異なるのではと感じられるほど日常の中に根付いている民間祭祀と、そのための歌の数々。そこではどうやら、“根付いている”という表現 READ MORE...
FILMS
強烈な風刺を効かせてまともなつもりのバカどもを笑いのめすのは大好きだけど、『ジャッカス』的な一般人を巻き込んでの悪のりと露悪はどうも押しつけがましくて純粋には楽しめない。「これに嫌悪感を感じるお前はイ READ MORE...
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ひとことで言えば、カルロスという実在の“テロリスト”をひとりのロック・スターのように描く。もちろんロック・スターを、アクション・ヒーローと言い換えても良い。だから、5時間30分という上映時間に恐れをなす必 READ MORE...
FILMS
人類が未知の存在に遭遇する「ファースト・コンタクト」ものというSFのサブジャンルには、想像を絶するものを想像しようとするあまり、転倒のための転倒を生じさせるだけになったり、想像力の限界を露呈して陳腐さが READ MORE...
FILMS
アメコミ・ヒーローもののファンならば、キャプテン・アメリカ、ハルク、アイアンマンといったヒーローたちが、ひとりまたひとりと集められ、同じ画面に映し出されてゆく段取りに、すでに興奮してしまうのだろうが、 READ MORE...
FILMS
やがてキッチンだとわかることになる空間には黄昏の光が充ちていて、その中を一人の女性が動きまわりながら料理を続けている。被写界深度の浅いクロースアップ・ショットの連続は、耐え難い澱みを体現しているように READ MORE...
FILMS
コッポラの新作はゴシック・ホラーらしいと聞かされても、どうせ思わせぶりな謎に満ちたアート小品なのだろうと多少高を括って見に行ったというのが正直なところなのだが、あにはからんや、寂れた田舎町の薄暗い色味 READ MORE...
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見渡す限りの雪原を犬が駈けている。それを追跡するヘリコプター。搭乗者は狙撃を続けるが、犬は逃げ延び、アメリカの南極観測基地に辿り着く。というのがジョン・カーペンターによる『遊星からの物体X』の導入部分 READ MORE...
FILMS
ポール・ヴァーホヴェンによる一作目からすでに15周年だというので、まずは基本的な情報をいくつか。 原作であるロバート・A・ハインラインによる『宇宙の戦士』は1959年に刊行されたもので、そこに登場するパワ READ MORE...
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どういうわけかザ・キュアーの『ディスインテグレーション』を聴きたくなり、そういえばカセットで聴いていたからCDは持っていなかったんだと思い出し、21周年盤を23周年目に購入したばかりのことだったからなおのこ READ MORE...
FILMS
このドキュメンタリーの主人公・安田好弘弁護士は、同じ東海テレビの制作チームによって作られた『光と影〜光市母子殺害事件 弁護団の300日〜』にも登場している。被告人を弁護するというもっとも基本的な弁護士の職 READ MORE...
FILMS
老年期を迎えたひとりの男が、巡礼の旅に出る。そんな映画はこれまでに腐るほど撮られているに違いなく、しかもこの作品はサンティアゴ・デ・コンポステーラへの道を辿るという。それだけを聞けば、四国のお遍路を題 READ MORE...
FILMS
さえない30代を共に送っていたはずの親友が突如結婚することになり、「花嫁介添人=ブライズメイド」たちが、というよりも介添人たちのとりまとめ役を仰せつかった主人公(=クリステン・ウィグ)ひとりが、幸せから READ MORE...
FILMS
スーツを着た男たちが、タバコを吹かしながらボソボソ話し続けている。盛りの年齢をとうに過ぎている彼らは、典型的に英国風の折り目正しいスーツを身につけてはいるが、倦怠と疲労の混ざり合った気配を滲ませている READ MORE...
FILMS
エドガー・ライス・バローズが1910年代に発表し始めた『火星』シリーズを原作に、アンドリュー・スタントンが監督したのが、この作品である。スタントンと言えば、ピクサー中心メンバーのひとりであり、『トイ・スト READ MORE...
FILMS
「介護」というのは、まず第一に「しょせん死ぬのを待つだけの仕事ではないか」、第二に「そんな不毛な仕事に従事する人間は、異常な正義感に燃える気色の悪い宗教的陶酔者に近い連中なのではないか」という先入観と READ MORE...
FILMS
Peter Berg Interview
ピーター・バーグ監督作品と言えば、ウィル・スミス主演『ハンコック』(08)は、ダメな「スーパー・ヒーロー」が主人公という点では、ちょっとしたヒネリが加えられているように見えるものの、実は「不慣れなスーパー READ MORE...
FILMS
スコセッシ『ヒューゴの不思議な発明』は、サイレント映画の「体験」と、3D映画の「体験」を重ね合わせるというコンセプトには深く共感させられたものの、どこかタルさの抜けない映画だった。もはや当たり前のものに READ MORE...
FILMS
「ヘルプ」とは「メイド」のことを指す。60年代のミシシッピ州を舞台にするこの作品ではもちろん、「黒人のメイド」ということになる。白人家庭に住み込み、あるいは通いながら家事と育児をこなしていた黒人女性たち READ MORE...
FILMS
90年初頭のイギリスに行くと、ちょうど人頭税が導入されようというタイミングで、町には人びとの怒りが充満していたことを思い出す。田舎町のパブで毎晩顔を合わせていた退役軍人は、フォークランドで負傷した脚を微 READ MORE...
FILMS
311とそれに続いた福島第一原発事故の後、抑鬱状態に陥りひたすらテレビに映し出される映像を眺め続けていたと言う森達也をはじめとする合計四人の男たちが、ただ「現認(現状認識)」のためだけに東京を発ち、東北 READ MORE...
FILMS
イングランドの貧しい小作農の家に育った少年が、一匹の馬ジョーイと出会い、心を通わせる。やがて第一世界大戦が始まり、困窮した父親により馬は陸軍少尉に売り渡される。その後、敵・味方、軍人・民間人、大人・子 READ MORE...
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ヒロイン(=シャーリーズ・セロン)は田舎町を脱出し、都会で“業界”に入り込み、ゴーストライターではあっても一応作家として身を立てている。セックスをしたいと思えば相手くらいすぐに見つかるし、小ぎれいなマン READ MORE...
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「まだ観ぬ作家を追悼することも再評価することもできないはずだ」。 チラシの惹句にもそうある。もちろん、異論のあるはずがない。 1935年生まれの木村栄文とは、1970年代から90年代にかけての約40年間、RKB READ MORE...
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ジョン・エドガー・フーヴァーといえば、ジェイムズ・エルロイ作品に親しんでいる読者であれば特に、まずは窃視症の変態狒々爺のイメージだろう。FBIという組織そのものを作り、初代長官として半世紀ほどの間ひたす READ MORE...
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そこには擬音が書き込まれていない。描線と着色がシステマティックに行われている様子はなく、一コマ一コマが「絵画作品」のようにして成立している。当然ながらマンガの文法から遠く離れ、かといって映画のストーリ READ MORE...
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ひとつの殺人事件を題材として撮影された一本の映画があるのだが、その映画でヒロインを演じる女優自身もまた、ある事件に深く関与しているらしい。そしてその事件における彼女の役割とは、どうやら、あるひとりの女 READ MORE...
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The Walking Dead
「シーズン2からのローリは、少しずつ原作から離れていくことになると思う。いちばん決定的なのは、夫であるリックのことを、何があってもサポートしてゆく決心をすることね。彼の判断を支持し、支えてゆく。そこか READ MORE...
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The Walking Dead
「そもそも強い男は“ヒーロー”と呼ばれるけど、強い女は“ビッチ”と呼ばれる。わたしは街中で“大っ嫌い!”っていう罵声を浴びせられることがあるけど、シェーン役のジョン・バーンサルはそんな経験していないはず。こ READ MORE...
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The Walking Dead
「シーズン2からのローリは、少しずつ原作から離れていくことになると思う。いちばん決定的なのは、夫であるリックのことを、何があってもサポートしてゆく決心をすることね。彼の判断を支持し、支えてゆく。そこか READ MORE...
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「そもそも強い男は“ヒーロー”と呼ばれるけど、強い女は“ビッチ”と呼ばれる。わたしは街中で“大っ嫌い!”っていう罵声を浴びせられることがあるけど、シェーン役のジョン・バーンサルはそんな経験していないはず。 READ MORE...
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『ねじれた文字、ねじれた路』のような作品を読むと、うまくできた「ベタ」の力に勝るものはない、と感じさせられてしまうのだが、一方で『二流小説家』を読んでしまうと、我が家に戻ってきたような「メタ」の居心地 READ MORE...
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ニューヨーク、大晦日(ニューイヤーズ・イブ)、ボール・ドロップ(カウントダウンと共に下ろされるクリスタルのボール)。考えつく限りのオールスター・キャストを登場させ、それぞれが主役になるように。しかも見 READ MORE...
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『ライブテープ』は、吉祥寺の町を移動しながら弾き語る前野健太の姿を、途切れのないワインテイクで捉えるという、一見編集の存在しない作品だった。だが当然のことながら74分という時間経過の中には、数々の結節点 READ MORE...
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震災から二ヶ月くらい経った頃、ようやく手の空いた友人と会い、待ちかねていた質問を浴びせたことを思い出した。その友人というのは原子力安全・保安院に勤めていたので、当然のことながら、原発状況を巡る情報とい READ MORE...
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初老の男が、薄暗い部屋の中でタバコを吹かしている。その視線の先には、現金を数える男の姿があるようだが、顔には何の表情も浮かんでいない。ただひたすら、倦みきった無関心だけがある。 この無名の男のクロー READ MORE...
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ひとことで言えば、イラク戦争の大義名分であった「大量破壊兵器の開発・隠匿」という、今では大嘘であったことが周知の事実となっている「嫌疑」に、根拠がないことを示そうとしたCIA職員の女性と元外交官であるそ READ MORE...
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3.11から一ヵ月くらいの麻痺した時間の中で、むずむずと見直したくなったフィクション作品がいくつかある。映画で言えばフランク・ダラボン『ミスト』とスティーヴン・スピルバーグ『宇宙戦争』だし、読み物で言えば READ MORE...
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どうしてこういう企画がこれまでになかったのか不思議、という意味の惹句が付されているが、たしかに「エイリアン侵略もの」が、「圧倒的な力の差によって人類が滅亡の危機に瀕する」ジャンルだとすれば、西部劇の時 READ MORE...
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この小説とはほとんど何の関係もないのだが、9.11のことが書かれているのでつい思い出してしまったから書き付けてしまおう。ワールド・トレード・センター・ビルの展望台に昇った最初で最後の機会が2000年のことだっ READ MORE...
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もちろんどんな映画でも、見ている最中、見た直後、そして見てからだいぶ時間が経った後の面白さの三つを持っていて、作品によってはどれかひとつの面白さしか持っていなかったり全部を持っていたり、あるいはどれか READ MORE...
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ミイラの安置されたカタコンブのような空間、長針と短針のある文字盤の影、払暁らしき光と裸で窓の前に立つ男。窓枠からは、彼方にねじ曲がりながら流れる川と屹立する電波塔のようなものが見える。露骨にドイツ表現 READ MORE...
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オットー・プレミンジャーによる『バニー・レークは行方不明』という映画がある。イヴリン・パイパーによる原作を映画化した古典だが、こういう風に話は始まる。ロンドンに引っ越してきたばかりの若いシングル・マザ READ MORE...
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要するに『パラノーマル・アクティビティ』を劇映画にしたというだけのことなのだが、『パラノーマル〜』そのものが幽霊屋敷ものという劇映画の伝統的な一ジャンルをフェイクドキュメンタリーという手法に翻訳したも READ MORE...
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作品の作り手に対してインタヴューをするときにいつも感じるのは、作品が素晴らしい場合、尋ねる事はほとんどないということで、実は優れた娯楽作品に関しても、優れているが故に語るべき事はほとんどないという事態 READ MORE...
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マジック・アワー前後の逆光、50年代とおぼしき住宅街の中に佇む家族、彼らに寄り添いながら距離を置くカメラワークと位置関係。親密さと不穏さに充ちた映像の連なりから、突如銀河の果てに飛ぶ視点。創生期の惑星。 READ MORE...
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オリジナル版である『ぼくのエリ 200歳の少女』は、監督トーマス・アルフレッドソンがジャンルに対する拘りを持っていなかったことが功を奏し、むしろ物語をいかにして語るかということが純粋に追求された結果、( READ MORE...
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砂漠をゆく数人の人影。武器を携えている様子は兵士のようではあるが、戦闘服を着ている者とそうでないものが混ざっている。その上空をヘリコプターがゆく。カメラはヘリの中にあったり、地上の男たちの脇にあったり READ MORE...
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原題も邦題もそのまま『ムカデ人間』。ただし、ムカデは「百足」と書くけど、ここでは「十二足」。シャム双生児切り離しのスペシャリストである外科医が、今度は人間をつないでみたくなりました、というお話。それで READ MORE...
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街中での突発的な暴力事件がおこる。加害者は徹底的に被害者をいためつけ殺害する。しかもその件数は増えてゆくばかりで、「憎しみ」が感染症のように拡がっているように見える。「感染者」は「hater=憎む者=憎鬼 READ MORE...
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ひと夏の冒険ジュヴナイルものには、何歳になっても惹きつけられる輝きがある。子供の時分でさえ、その輝きを感じたものなのだから、長じてしまったからといって、失われたものへの憧憬が故にとは言い切れないだろう READ MORE...
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監督ジャン=ポール・ジョーの話を聞いたのはもう昨年九月のことになるので、もちろん震災のはるか以前のことになる。 その前に、遅ればせながら前作『未来の食卓』を見た。食料としての質ではなく経済論理のため READ MORE...
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感染ものはすでに多数存在するし、ゾンビものやヴァンパイアものまでをその中に入れるとかなり裾野の広いジャンルということになるわけだが、この小説は、その中でもかなり正統派の王道の様な顔をして始まる。 謎 READ MORE...
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『平成ジレンマ』を作った阿倍野勝彦の名前に興味を惹かれて、たいした予備知識もなく見始めてみる。すると、四大公害病のひとつである「四日市喘息」を巡る裁判の過程で、背後からその運動を支えた「公害記録人」澤 READ MORE...
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タイトル通り127時間、すなわちほぼ6日間にわたって、砂漠にある岩盤の裂け目に閉じ込められた挙げ句、誰の手も借りずたったひとりで生還を遂げたひとりの男の経験を長編劇映画化したのがこの作品である。 もちろ READ MORE...
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電子書籍版への対抗処置的なキャンペーンだったのか、原書刊行当時、1700ページを超えるハードカバー版が(たしか)9.99ドルという安さで売られていたのですぐに購入したのだが、あまりにも重すぎて寝転がって読むの READ MORE...
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一度でも映画を作ろうとしたことのある人間ならば、その作品の最低限のクオリティを確保するものが「音」であることにすぐ気づくだろう。デジタル機材によって画質の良い映像を撮影できたとしても、聞こえてくる音が READ MORE...
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伊藤潤二によって発明された「富江」というシステムは、美しいモノ=富江は美しいが故に周囲に破壊の混沌を拡げながら暴力を自らに回帰させ、結果として損壊され細切れになった身体はそれぞれが無数の富江として再生 READ MORE...
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カメラを安定させ精神障害患者を排除したカサヴェテス映画といったところか。そのニオイは、わかりやすい音楽の使用法もあってだいぶ薄められているが、いくつかのシーンでハッキリと感じさせられた。重要なものを切 READ MORE...
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全身からエロい空気を放射している女編集者が、色道を極めたニオイをプンプンさせている作家の家に到着する。現在進行形ではなさそうだが、作家との間にも明らかになにかがあったようだが、それでもその妻と三人の間 READ MORE...
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たしかに文芸映画然とすることで高い評価を得るという種類の映画ではある。そのことに間違いはないが、それだけで片付けてしまえる映画でもない。 クラウディア・リョサというペルー社会においては紛れもない白人 READ MORE...
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カズオ・イシグロによる原作では読者にとっては謎だが、その世界を所与のものとして生きる主人公たちにとっては当たり前であるが故に、明確に説明されることなく物語が進んでゆくというその部分を、まず冒頭で見せて READ MORE...
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近年では、『ハッカビーズ』(04)における良い意味での映画マニア的なメタ・ポップの印象が強く、そのラッセルがストレートなボクシングもの、しかも実話を基にした、と耳にしたときには、ダーレン・アロノフスキーが READ MORE...
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レゲエがこんなリズムを刻むということや、それがジャマイカ産の音楽であること、彼の地の貧しさや(おそらく多くの旧植民地国と同程度に)ねじれた歴史やらが音楽そのものの中にくっきり刻み込まれている、というよ READ MORE...
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意外にも、この本には対象との間にきわめて明確な距離がある。もちろんその距離とは批評性のことでもあり、本書を支える必然性のことでもある。だがいったい、当初は「音楽ライター」として接近しながら、そのうちに READ MORE...
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トリアーは鬱病に罹っていたのだという。その治療の一環のようにして書き進めた脚本を、大した思い入れもなく撮り上げたらこうなった。だからそこには自分の抱える真実しか映っていないのだ、と。 もちろん眉に唾 READ MORE...
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もはや「本物のドキュメンタリー」であるという装いをすることすらない、劇映画の一ジャンルとしての「フェイク・ドキュメンタリー」。続編とはいえ、内容としてはほぼ前作で起こった出来事が、より大きな規模でより READ MORE...
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昨年末刊行され始めた国書刊行会「BDコレクション」シリーズの第三弾。BDの中でも特に地味な作品を選んでいるようにすら見えたこの「コレクション」の勇気には感服するほかないのだが、正直なところ一冊目の『イビク READ MORE...
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この作品もまた、被写体の持つ強度が故に、面白くならないわけがないという種類のドキュメンタリーではある。その上で、本作は中立的な立場を模索する。それはとりもなおさず、「戸塚宏=悪人」という図式からの距離 READ MORE...
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世の中には「気合い」だけで成立している映画というのがある。もちろん、「だけ」とは言っても、その度合いは並ではない。作り手の自意識を超えているという意味で、常軌を逸していると言っても良い。その凄まじさが READ MORE...
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トッド・フィリップス監督
『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』も素晴らしかったが、本作との共通点は、監督とひとりのデブ=ザック・ガリフィアナキス。無神経なだけでなく他人の神経に障る非常に高い能力を持っているが READ MORE...
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石岡正人監督
ドキュメンタリー映画としての作り云々ということを遙かに超えて、被写体である代々木忠という人間が圧倒的に面白いが故に、面白くならないわけがないのがこの作品である。という感想を抱かせるということはとりもな READ MORE...
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フィデル・カストロ
革命から52年。その指導者が今なお存命であるのみならず、少なくとも国外から眺めている限り変わらぬカリスマを保ち続けていることがすでに驚異的なことではあるが、それが巧みなイメージ戦略の結果なのかどうなのか READ MORE...
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「醜悪な魂」の破壊力 文=川本ケン 年の始めに刊行されてきた『社会派くんがゆく!』シリーズを読むたびに、ほんの数ヶ月前に興奮したり憤ったりしたばかりの事件であってもいかに忘却の彼方へ消えてしまうも READ MORE...
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超越的視点を持たないことの強み 文=川本ケン フィンチャーといえば『エイリアン3』(92)でデビューした際には、言葉の最悪な意味での「学生映画」などと酷評されていたわけだが、それはエイリアン・シリー READ MORE...
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Vol.4 元旦の一冊 SLAVOJ ŽIŽEK 『Living in the End Times』 「終末」を生きるために 文=川本ケン 天下に拡がる混沌を見渡し、好機が訪れたと認識した毛沢東の言葉通り、リーマン・ショック以降のいよい READ MORE...
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それは「自由」なのか? 文=川本ケン ゴダールの新作が「ソシアリスム」銘打たれているからには、何らかのわかりやすいメッセージを獲得することができるのではないかと、淡い期待を抱かせもするのだが、もち READ MORE...
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変わるものなし 文=川本ケン この世は無意味に出現する不条理に充ちている。今日と同じ明日がやって来ること自体が奇跡なのだし、やって来なかったとしてもそこにはいかなる因果もない。例えば『ファニーゲー READ MORE...
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しんどくて面白いこと 文=川本ケン 例えば「どーでもいい話題」を取り上げてみると、テレビにおいて、親切めかした海老蔵バッシングが一瞬のうちに拡がったのはなぜなのか。それは、多くの一般人が、歌舞伎界 READ MORE...
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我々は彼らを知らない 文=川本ケン 2001年に長編第一作『神は銃弾』が翻訳され、この小説が四作目にあたる。寡作な、と呼ぶことはできるだろう。だが、それぞれに異常な強度を持つノワールであるので、そうい READ MORE...
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Vol.10 “MTV感覚”の…… 文=川本ケン 1985年あたりのことを思い出してみると、たしかに一日中MTVが垂れ流しになっていた。マドンナ、マイケル・ジャクソン、デュラン・デュラン、カルチャー・クラブなどなど、 READ MORE...
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Vol.9 監督ロバート・ゼメキスとは 文=川本ケン ロバート・ゼメキスが、『抱きしめていたい』(78)の青春もの、『ユーズド・カー』(80)のドタバタ・コメディ、『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』(84 READ MORE...
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「老兵」の論理 文=川本ケン 激しい戦闘の翌朝。手作りの(身体に矢が刺さっているように見える)小さな仕掛けを使い、死んだふりをすることで生き延びた一人の雑兵=ジャッキー・チェンが起き上がる。しばらくし READ MORE...
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原因とか結果とか 文=川本ケン ひと言でいえば、きわめてそつなく仕上げられた娯楽作品。そういうものとして眺めれば、問題なく楽しむことができるだろう。つまり、オリジナル版の持っていた要素を巧みに取捨選択 READ MORE...
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文=川本ケン ここに、『8 -Eight-』と題された短編オムニバス作品がある。2000年に国連において合意された(189カ国が調印)、MDGsと呼ばれる8つの「ミレニアム開発目標」それぞれの現況を見直し、2015年という READ MORE...
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Vol.7 80年代アメリカの相貌 文=川本ケン 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が公開されたのは1985年。80年代のど真ん中であり、当時のアメリカは、81年に就任し、2期=8年間続いたレーガン政権のど真ん中でも READ MORE...
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ただ、続いてゆく 文=川本ケン 『天安門、恋人たち』(06)によって、五年間の映画製作・上映禁止処分を受けたロウ・イエが、それでも海外から資金を調達し、家庭用デジカメを用いたゲリラ撮影によって作り上げた READ MORE...
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ギリギリの熱量 文=川本ケン ロバート・デ・ニーロ、エドワード・ノートンに挟まれてミラ・ジョヴォヴィッチの顔が並び、「クライム・サスペンス」の文字が添えられているチラシを見る限り、比較的規模の大きいエ READ MORE...
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あたりまえではない世界の中に、すっぽりと入りこむ 文=川本ケン 自分の感覚に対してほんとうに正直になってみると、世界はまったくあたりまえにはできていないことに気づく。 壁面が透明なガラスになったエレベ READ MORE...
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現実の側をこそ 文=川本ケン 木工所で効率的に動くひとりの青年。その手つきには、職人としての精度以上の執拗さが感じられる。 その彼が、絶望と呼んでしまうのも安易すぎる、ねっとり停滞した時間の中で日々を READ MORE...
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拳ひとつの昔気質! 文=川本ケン 『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』が、オリジナルの精神を現時点でのリアリズム基準に拠りながらテクノロジーを駆使しつつアップデイトしたものであるという意味で、完全に時代とシ READ MORE...
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ほんの少し遅れて気づく 文=川本ケン この新人女性監督は、韓国人の風貌を持っているが、名字はどう見てもフランス人のものである。 つまりは韓国系フランス人ということになるのだが、単純に移民ということで READ MORE...
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安心して楽しめます 文=川本ケン 2174年、滅亡寸前の地球から一隻の宇宙船が飛び立つ。積載物は6万人と生物サンプル2000万種。だが、超長期冷凍睡眠から主人公たちが目覚めると、船内にはひとけがなく、不気味な READ MORE...
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日本というマトリックスの起源として 文=川本ケン たしかに、2010年という年に公開される映画として「安保」を扱う場合、どのように見せても不足や過誤を指摘されるに決まっているわけで、企画そのものが徒労 READ MORE...
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「人生を正しく生きよ」という命令を巡って 文=川本ケン 「人生を正しく生きよ」という命令は、気づかないうちに我々の生を強く拘束している。だが、「正しく生きる」ためには「正しい欲望」に身を委せなけれ READ MORE...
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文=川本ケン ブルース・ウィリス演じるベテラン刑事と、トレイシー・モーガン(『サタデイ・ナイト・ライヴ』出身のコメディアン)演じる、その相棒で人の良いマヌケ刑事が、しょーもない事をしゃべり合っているう READ MORE...
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完璧に機能すると、どうなるのか? 文=川本ケン 幼少期に地雷によって父親を失い、自らも流れ弾を額に受けた主人公(ダニー・ブーン)が、それを契機に職を失い、浮浪者の仲間入りをするのだが、ある日たまた READ MORE...
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文=川本ケン 幼年時代に訪れたアマゾンの記憶をまさぐると、観光客向けに伝統的な生活を体現して見せる人々が半裸で踊り回る姿を見て感じた、どことなくイヤな気分に行き当たるのだが、実のところ、その広大なジ READ MORE...
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文=川本ケン ハーバード大学史上最多の受講者数を記録し、大学が初の一般公開に踏み切ったという伝説的な授業を基にして書かれた本(すなわち講義録ではない。授業の模様は教育テレビで放送され、ここでも見ること READ MORE...
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文=川本ケン このリメイク版を見て思い出したが、オリジナル版の主人公もまた特別イケていない少年ではなかった。 ちょっとしたきっかけで強いいじめっ子に目を付けられ居場所を失うという、学校という閉鎖社会の中 READ MORE...
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文=川本ケン この映画のなにがそこまで魅力なのかと考える。 ヴァンパイアものとしては、ルールに忠実な物語が語られているにすぎない。ひとつだけ過剰な点があるとすれば、ヴァンパイアとそのしもべとしての人間と READ MORE...
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文=川本ケン 1980年に設立された米軍の超能力部隊「新地球軍」元隊員(を名乗る男)が、ある声に導かれて2003年のイラクを縦断するという映画。 「新地球軍」とは、ヴェトナムでニュー・エイジ思想に開眼した一人の READ MORE...