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『朝日を抱きしめてトゥナイト』

ロロ主宰・三浦直之×映像作家・ひらのりょう 対談

インタヴュー・文=

updated 07.17.2014

1987年生まれの劇作家・演出家である三浦直之によって、2009年に旗揚げされたロロ。80年代の少女漫画にでも出てきそうな、ポップで胸キュンなシーンの連打と、ハイテンションかつスピード感溢れる演出でハートを射貫かれるファンが続出している劇団だ。新作『朝日を抱きしめてトゥナイト』の舞台は商店街、主人公の町子が自分の出生の秘密を探るという話。それまでテーマにしてきたボーイ・ミーツ・ガールという世界から枠を広げて、肉屋と魚屋を営む二つの家族、そして商店街にいる人々や動物、彼らの記憶と妄想が交錯していく。今回は、同世代のアニメーション作家のひらのりょう(1988年生)が、メイン・ビジュアルと劇中アニメーションを担当した。ひらのが描く世界は一見おどろおどろしいように思えるが、どこか憎めない愛らしさ、そしてセンチメンタルな一面を持つ。初めてタッグを組むという二人にインタビューをした。

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写真右が三浦直之、写真左がひらのりょう

まずはひらのりょうが手がけた予告編からご覧いただこう。

ひらのりょう作『朝日を抱きしめてトゥナイト』予告編

──お二人の出会いからお聞きしたいんですが。なぜひらのさんにアニメーションの依頼をされたのでしょうか。

三浦直之(以下、三浦)
いつ頃だったかな? 範宙遊泳っていう同世代の劇団があるんですが、そこのビジュアルを手がけている、たかくらかずきくんからひらのさんの作品を見せてもらったことがあってシンパシーを感じてたんです。で、ロロをよく観にきてくれてるっていうのを聞いたのと、今回は新しいことをやりたかったから、ひらのさんにお願いしたいと思って連絡を取ったんです。『パラダイス』とか、すごく好きですね。

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ひらのりょう作『パラダイス』予告編

ひらのりょう(以下、ひらの)
もう衝撃ですよね。オファーメールが来た時には(笑)。まじか! って思いました。ロロっていつも観てるし! って思って。

──ロロの芝居は何故観に行くようになったんですか?

ひらの
『常夏』(2011)からは全部観ていると思います。最初の衝撃が半端なかったんですよね。演劇自体観るのが初めてだったんですが、なんというか、漫画みたいだった。アニメーションの世界と演劇ってまったく違う文法で動いていると思うんですが、でも、ものすごく共通している部分があって。そこにやられてしまったんです。

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ロロvol.6『常夏』(2011年)撮影:三上ナツコ

ひらの
アニメーションっていうのは、絵で描くので何でもできるように思われがちですが、画面全部を動かしたりはせずに動いているのは一部分だけだったりするので、お客さんに補完してもらう部分が多い。演劇って、生身の人間が演じているから表情とかはすごくリアルに感じるんですが、背景の建物とかはないし、時間軸の繋ぎ方も異常に自由だったんで「まじかー!」って思って。あとは、観ていて普通に「かわいい」って思ったり、童心に返る部分があったり、描き方がポップなので、世界に入り込みやすかったんです。テーマも「ボーイ・ミーツ・ガール」だし、すごくわかりやすい。誰にでも共感できそうなところから始めて、遠くにぶっ飛ばすという。それが、僕のやっていることと近い! って思ったんです。

三浦
それは、僕が漫画とかアニメが好きだからかもしれない。人の身体って絵になれないから、脚本を書いてる時に、「ここで3メートル飛んで爆発する」とか「家の中で大げんかする時に家ごと形が変わって屋根が吹っ飛ぶ」とか、そういうのを頭で考えるんだけど、家は飛ばないし、爆発もしない。っていう時に、どうすれば、僕の考えたイメージに近い感覚を持ってもらえるだろうかっていうことを考えて作ってるから。だから逆に憧れますよね、アニメーションは飛ばせるからすごい。

ひらの
三浦さんって、なんで演劇を始めたんですか?

三浦
俺は、大学に入るまで演劇観たことなくて。地方だと演劇ってあんまりないから。小説とかを読むのが好きで、高校生の頃はずーっと本を読んでいました。学校では本を読んで、家に帰ってきたら映画を観る。そんな毎日だったんだけど、周りにはなかなかそういう話ができる友だちがいなかった。大学(日本大学芸術学部演劇学科)に進学する時に、さすがに演劇観たことないっていうとまずい、話合わないだろうなって思って。それで『ユリイカ』と『スタジオ・ボイス』の小劇場特集のバック・ナンバーを取り寄せて、そこに載ってた劇団を片っ端から見ていきました。そうしたら、演劇を観た時にも、小説や映画を観た時と同じような感動が得られたんです。でも、演劇って地方の自分の友達には、全然ピンとこない。野田秀樹ですら知らない。だから、俺は地元の友だちが面白いって思うような作品を作ろうって思うようになったんです。もちろんみんなが演劇を好きになる必要はないけど、きっと俺が演劇を観て面白いって思ったように、演劇を好きになる可能性がある人たちはまだいるから。

──見事に引っかかった方(ひらのさん)がいますよね。

ひらの
そうです(笑)。

──最初の一本目がけっこう重要だと思うんですよね。本を見るようにネットを見るように演劇を観に行くっていう人は、私もそうですが、確実にいます。だけど一方で、演劇は難しいという先入観がある人も多いし、最初の一本目で馴染めなくて観に行かなくなっちゃう人も多い。三浦さんが、芝居への入り込み方で意識していることってありますか?

三浦
僕自身が演劇を全然通ってこなかったので、映画のこれが好き、漫画のこれをやりたいと思いながら演劇を作ってる。演劇人じゃない自分が作るっていう感覚は、常に持っていますね。

──ひらのさんも大学に入るまでアニメは全然ご覧になっていない、とお聞きしましたが。

ひらの
そうなんです。テレビのアニメとかも全然観てなくて。高校生の時にニュージーランドの田舎に留学したんです。本当に何にもない田舎町。ものすごく退屈だったので、父から送られてきた本をずーっと読んでました。平日は英語漬けなので週末だけだったんですが、日本語に飢えていたのもあって本ばっかりでしたね。絵はもともと好きだったので、美大に入りたいとは思っていて先輩に相談をしたら、多摩美なら就職できるって言われたから入ったって感じで。グラフィック・デザインが何をやるかすら知らず、ましてや情報デザインなんて何にも知識なくて。
アニメーションを製作するきっかけになったのは、授業で観たロシア・アニメーションの作品です。ユーリ・ノルシュテインとかイーゴリ・コヴァリョフとか。最初に観た時は、全然話がわからなかったんですが、何度も観るとストーリーがわかってきて、それを真似して作ったのがきっかけです。

──ロシア・アニメーションがベースにあるというのは納得です。でも、ひらのさんの作品を観ていると、いわゆる哲学的で観念的な作品というよりは、もっとキャッチーな魅力があって。そこらへんのさじ加減は意識されてるんでしょうか?

ひらの
そうですね。ロシア・アニメーションのような作品の世界って、いわゆるアート・アニメ好きな人やアニメを作っている人にしか観られていないから、これは違うぞって思い出して。それから、他のアニメーションや映画とかを観始めて、自分が面白いと思うエッセンスを合体させていって、枠から外していこうとしているのが今の段階です。

──ひらのさんの作品も、いまはいろんな実験をされていってるという感じなのでしょうか。一本一本変化しているような気がします。

ひらの
なんで言えばいいんだろう。スライムみたいな(笑)。なんでもいけるようにしようとは思ってますね。僕が好きで観てきた作品が、ぶっ飛んだ作品ばっかりなので、ひとつ取っ掛かりがあって作品に入ってきてもらえれば、あとはどこへ飛ばしても大丈夫っていう安心感みたいなものがあって。そういう時に「ボーイ・ミーツ・ガール」ってすごく強力。恋バナは最強ですよよね。西野カナ的世界からノルシュテインにぶっ飛ばしていけば、きっと10代の子たちとかにも通じるんじゃないかと。そういうことがしたいんです。だから、僕がやろうとしてることとロロは近かったんです。

──いま上演中ですが、『朝日を抱きしめてトゥナイト』のストーリーを教えてください。

三浦
ざっくり話すと、夏休みの商店街を舞台に町子っていう女の子が、自分の生まれた日のことを小さい頃にお母さんに聞くんですよ。そうしたら、お母さんが嘘しかいわない。それで自分の生まれた日のことを知ろう、ルーツを探ろうとするっていう話。それと、それを取り巻く人たちの生まれた時の記憶や死んだ時の記憶、そういうものが混ざっていくようなお話です。

ひらの
僕も、ごみ捨て場で拾ったって言われていました。いろいろ変なことを言われて育ちました。しっぽ生えてたとか。

三浦
マジで? そうだったのかー。

ひらの
うん。兄貴が3人いるので、ちっちゃい頃からいろんなこと言われてました。真実はどれなんだろ? って思って。だから脚本を読んだ時、懐かしいなって思ったんです。これ、俺じゃんって(笑)。

──今回はボーイ・ミーツ・ガールというよりも、少し物語の範囲が広がっていったような感じなんですね。作品づくりのプロセスとしては、やっぱりプロットを作って脚本を書いてという流れなのでしょうか?

三浦
ひらのさんの作品を見ていてもそうなんだけど、連想クイズ的な。物語はすごくシンプルなのだけれど、その間をイメージでつないでいくようなところがあって。母親が『TVガイド』を毎週買ってたんですが、新しいドラマがスタートすると必ず人物相関図って出てきますよね。あれを見てストーリーを妄想するのがすごく好きで。物語を作る時も、人物相関図を作って考えて、それからストーリーをつくっていきます。物語の根本は、ボーイ・ミーツ・ガールのようなものすごく単純なものにしたいと思って作っているんですが、結果的によくわかんないって言われることもあって。

──よくわかんないシーンがいくつか続いたとしても、根底のテーマが共有できていれば普通に観られるし、そのわからないシーンから手がかりをつなげていくことが想像になるのだと思います。お二人の作品を見ていると、現代美術的な側面があるのだと思う。テレビ・ドラマのようにひとつのストーリーにのっからなくても、自分の問題として作品と対峙するという。

ひらの
ロロを初めて観た時の衝撃って、それが強かったような気がする。自分のことのように感じられるというか。だからすごくドキドキしたのだと思う。アニメーションでも全部を描かないことは結構よくあって、僕の作品でも『河童の腕』なんかは、ストーリーを説明できるような作品としては作っていないんですが、観た方が勝手に読み解いてものすごく細かい設定をコメントしてくれたりしていていて。それを読んだ時に、そんなに読み解けるんだと思いましたね。

ひらのりょう作『河童の腕』/2009年/5分42秒

──きっと読み解きたくなる魅力がこの作品にあったのだと思います。『朝日を抱きしめてトゥナイト』に戻りますが、メイン・ビジュアルをひらのさんにお願いする時は、どんなリクエストをされたのでしょう?

三浦
演劇って「場所」を見せるのがすごく苦手で、ここに魚屋があるっていう話をしたとしてもその時に思い浮かべる魚屋がみんな違う。それがいいところでもあるんだけど。せっかくひらのさんにお願いするなら、そのイメージづくりをお願いしたいなというのがあって。このメインのビジュアルが来た時に、そこからものすごく刺激を受けたんです。脚本を書いている時も、どうしようって思ったら絵に立ち返って考えたりして。

ひらの
うれしい(笑)。一回打ち合せした後にばーっと描いて、それからいくつかイメージをいただいて修正していって作り上げた感じです。最初はけっこう僕が勝手に描いてしまったんです。

三浦
当初はそんなに海のイメージが強くはなかったんですが、この絵を見てからすごく海のイメージが強くなって。音楽も小島ケイタニーラブさんにお願いしていて、今回はそのように自分の外側からインスパイアされる部分が多くて、すごく楽しかったですね。

ひらの
最初心配だったのは、演劇ってイメージが固まらないのがいいところだと思っていたんですが、僕が絵として商店街を出しちゃっていいんだろうかっていうところがあったんですが、よかった。

三浦
演劇って「どこかわからない場所」が成立してしまう世界なんです。でも、今回は僕も俳優もチラシのビジュアルでなんとなくここはこういう場所だよねっていう空気感を共有している。このことをもう少し、考えてみるのもいいなって思ったんです。ひらのさんの絵を見てから、すごく精密な地図を描いてみるとか、空間を共有するようなことを今後やってみたいなと思いました。

ひらの
僕は必ずやりますね。わりときっちり空間の図面を作ります。ラフのスケッチを大量に作る。でもそれはアニメーションの中には出てこないんですが。

──先ほど三浦さんが、新しいことをやりたかったとおっしゃっていましたが、ひらのさんや小島さんらの外部から影響をされた部分と、その他物語の中にも新しい試みはされているのでしょうか。

三浦
僕の描くのって、大きなコミュニティだとしても家族っていうのがせいぜいで、それより大きな世界ってなかなか描けない。で、でももう少し外側、もっと大きなコミュニティを描きたいなと思った時にアニメの『たまこまーけっと』を思い出して。山田尚子さんが『けいおん!』で、あれは部室の女の子たちがいちゃいちゃする話じゃないですか。その次に『たまこまーけっと』では商店街に場所を移した。狭いコミュニティからもう少し広い場所というのを描く時に、商店街っていうのがすごく自分の中でしっくりきたんです。それで、俺も商店街を舞台にしてみようと思ったんです。それがひとつと、演劇の面白さのひとつに「見立て」があると思うんですが。それは、見る人の想像力を借りることで、置いてある脚立を山って言ったら山になるし、ブルーシートを海って言ったら海になる。そんな感じで、歴史や人の過去とかも見立てられないかなと思ったんです。でも、今の段階だとそうはならないかも(笑)。10月の公演『ロミオをジュリエットの子どもたち』では、もう少し歴史への見立てが登場するんじゃないかなと思っています。僕は直接シェイクスピアから影響を受けているわけではないけれど、シェイクスピアの作品に影響を受けて作った誰かの作品から影響を受けている可能性は高い。それをうまく見せられたらと。

──なるほど。拝見するのが楽しみです。ひらのさんはメイン・ビジュアルだけではなく、アニメーション映像も作っています。それをご覧になっていかがですか?

三浦
ものすごくよかった。あの走りのスピード感が。走るっていうシーンがすごく好きで、演劇って全力疾走とかのシーンってなかなかできないんですよ。

──確かに。あの疾走感は、映画『マインド・ゲーム』を思い出しました。

三浦
『マインド・ゲーム』のイメージは意識しました。劇場ってすごく限定された空間だから、どうしても加速し続けるっていうっていうことができないんです。だから、疾走すること憧れがあって、走るシーンが好きなんですよっていう話をした時に、ひらのさんが「走るシーンは、繰り返しだから結構簡単なんです」って言ったんです。それを言われた時に、結構衝撃を受けて。演劇って繰り返しができないんです。よくリピートを取り入れている人は多いし、僕もよくやるんですが、繰り返しても絶対に同じにはならない、繰り返せない。でも、このアニメーションに登場するキャラクターは、同じことを繰り返しているのに背景が流れているから、それが走っているように感じるっていうのが面白いなと思って。

ひらの
不思議なコラボレーションでしたね。本当に面白かったです。作品も楽しみにしています。

 

【公演情報】

ロロ vol.10「朝日を抱きしめてトゥナイト」
2014年7月11日(金)~21日(月)
会場:こまばアゴラ劇場(目黒区駒場1-11-13)
脚本・演出/三浦直之
出演/板橋駿谷 亀島一徳 篠崎大悟 森本華 伊東沙保 大橋一輝(範宙遊泳) 大場みなみ 小橋れな 島田桃子 山口航太(はえぎわ)
http://lolowebsite.sub.jp/ASAHI/tonight

 

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三浦直之
みうら・なおゆき/ロロ主宰・劇作家・演出家。1987年、宮城県生まれ。2009年、処女作が王子小劇場「筆に覚えあり戯曲募集」を史上初受賞しロロを旗揚げ。代表作は『いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校』『LOVE02』『ミーツ』など。また、『ダンスナンバー 時をかける少女』では映画監督も務める。
http://llo88oll.com/

ひらのりょう
1988年埼玉県春日部市生まれ。多摩美術大学情報デザイン学科卒業。
産み出す作品はポップでディープでビザール。文化人類学やフォークロアからサブカルチャーまで、自らの貪欲な触覚の導くままにモチーフを定め作品化を続ける。その発表形態もアニメーション、イラスト、マンガ、紙芝居、VJ,音楽、と多岐に渡り周囲を混乱させるが、その視点は常に身近な生活に根ざしており、ロマンスや人外の者が好物。
http://ryohirano.com/
http://foghorn.jp/