Buffy Sainte-Marie At Newport

「そうでなければ」という必然性

キャサリン・ベインブリッジ
『ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち』

文=

updated 08.10.2020

このドキュメンタリー作品では、アメリカのポピュラー・ミュージックにおいて、アメリカ先住民、すなわちインディアンの文化が果たした重要な役割が辿りなおされる。ロック史を担ってきたアーティストたちの多くにインディアンの血が流れていたということ、そして彼らが生み出した音楽の基礎にはインディアンの音楽があったということが示されていくのだ。

ロックといえば、黒人奴隷の音楽からアフリカ音楽へという筋道が、ほとんど紋切り型に近い〝常識〟となっているわけだが、実はその源泉には、これまで言及されることがきわめて少なかったインディアンの伝統音楽もまた、厳然として存在しているのだと改めて教えられると、驚きよりも深く腑に落ちるという感覚のほうが強い。

1970年代のリンク・レイ(Photo by Bruce Steinberg, Courtesy of linkwray.com)

たとえば、歌詞のないインストゥルメンタル曲であるにもかかわらず放送禁止処分を受けた、リンク・レイによる1958年「ランブル」。このリンク・レイには、ショーニー族の血が流れていた。そしてもちろんジミ・ヘンドリクスにもまたチェロキー族の血が流れていたし(ポスターなどでは、肌の色が実際よりも濃く印刷されることがよくあったのだとか)、ザ・バンドのロビー・ロバートソンにはモーホーク族、あるいはデルタ・ブルーズの父祖とされるチャーリー・パトンにはチョクトー族のルーツがあるのだという。

チャーリー・パトン(From the collection of John Tefteller and Blues Images)

思えば、1960年代末のカウンター・カルチャーを通過した後の世界に生まれた我々の世代にとって、たとえ幼少期にはまだ西部劇などにおける古いインディアン像を所与のものとして消費していたにせよ、ある程度意識的に文化に触れる年頃になるまでには、インディアンたちは白人入植者たちにひどい目に遭わされていたという認識を持つにはいたっていたわけで、だからこそ1990年(日本では翌年公開)のケヴィン・コスナー『ダンス・ウィズ・ウルブズ』の大ヒットを目にした時には、今さらそういう問題意識が商売になるのかという警戒心も抱いたのだった。だからその時点で、コスナー自身がチェロキー族の血を引いていると言われても、たいした感慨もわかなかったのである。

その感覚の形骸は、今でもかすかに引きずっている。だから、いたるところにインディアン文化の残響を見いだされたところで、「そりゃそうでしょう」という醒めた気持ちで眺めることになった可能性はおおいにあった。ところがそうはならず、深く腑に落ちる感覚を引き起こされたのにはおそらく、どうしてもアメリカの音楽史をこのように辿り直さないではおれないという強烈な必然性が、この作品には横溢しているからなのだろう。そのおかげで、スクリーンを見ているこちら側の中にも自然と、「そうであってほしい」あるいは「そうでなければウソだ」という気持ちが堆積していったのである。

ジョージ・クリントンに見いだされたギタリスト、スティーヴィー・サラス。アパッチ族。
自身以外に先住民アーティストがいないことを不思議に思ったのが、本作の企画の出発点だったのだという。
(© Rezolution Pictures)

この必然性を担保しているのは、なによりも、アーティストたちの物語とともに語られるインディアンの歴史だろう。簒奪され虐殺されたということは、知っている。だが、奴隷として扱いにくかったインディアンの男性がアフリカに送り出され、アフリカから運び込まれた男性奴隷がその空白を埋めることで二つの血筋が融合していったこと、そしてインディアンであるよりも黒人である方がまだしもマシな時代には、それぞれの肌の色(の濃さ/薄さ)によって黒人のアイデンティティを身につけたり、白人で通したり、場合によってはヒスパニックになったりと、生き延びるために所属エスニシティを選び分けていたという事実については、さもありなんとは感じつつ、はっきりと意識したことはなかった。

つまりここで語られるのは、地上から消し去られたはずのインディアンと呼ばれる人々が姿を変えて生き延び、しかもポピュラー・ミュージックというかたちで自らの血脈を世界にあまねく伝播したという物語なのだ。これはもうほとんど、宇宙に広く移り住んでいった人類が各地の環境に合わせて姿を変えながらもそれぞれの場所で生き延び、数万年を経てもう一度人類として邂逅するという種類のSFにも似た、めまいと衝撃を引き起こすお話ではないだろうか。どうしても深く心を揺り動かされてしまう。

先住民族の女性ヴォーカル・グループ(© Rezolution Pictures)

公開情報

8月7日(金)より渋谷ホワイト シネクイントにて公開中、他全国順次公開
© Rezolution Pictures (RUMBLE) Inc.
*上段写真:1960年代のバフィ・セント・マリー。クリー族の血を引く。Getty Images