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とっても正統的な

エドガー・ライト『ワールズ・エンド 酔っ払いが世界を救う!』

文=

updated 04.11.2014

40歳を過ぎてしばらくしたある日、学校を卒業してからもう20年が過ぎていることにふと気づく。20年といえばひとりの人間が成人してしまう時間の長さではないか。そんな時間が流れ去る間、オレはいったい何をしてきたのだろう。いったい20年前と何が変わってしまったのだろう? 答えは、なにも変わっていない、だ。身体は少々ガタが来始めているし、もはや誰がどうみても「おっさん」の顔だ。でも、なにも成し遂げていない以上、オレはなにも変わっていないし、変わる気もないのだ! と自分に言い聞かせたところで、じゃあ、このまま10年経ってしまってよいのか? そのことを人生の浪費というのではないか? そんな負のスパイラル思考に頭を捉えられて、夜中に目が覚めたままになるというのが、「中年の危機」というやつだということはわかっているし、いや、オレの人生、こんなところでいいじゃん、とあきらめをつけて「大人」になってしまいさえすればいいのだということはわかっている。わかっているが、それだけはしたくない。だってまだ何にもしてないんだもん!

この映画の主人公ゲイリー(サイモン・ペッグ)はまさにそういう年齢を迎えている。学校を出てから一度も「大人」になろうとしたことはなく、ひたすら飲みまくることで青春期を長引かせようとしてきたが、とうとう限界に到達し、アルコール依存症の治療を開始している。思い返すのは楽しかった高校時代のことばかり。愉快な仲間たちがいて、ふざけまわっていればよかった。なぜオレはあのまま楽しい人生を送ることができていないのか? と彼は考え、思い至る。そうだ! 高校卒業の夜、出身地の死ぬほど退屈な田舎町にある12軒のパブすべてをハシゴするという挑戦に挑み、あと3軒を残して達成をあきらめたのだった。あのときに挫折したせいで、オレの人生はうまくいっていないのだ!

ギャンブル依存症患者が、最後の一賭けで人生を逆転させようと意気込むのと同様、最もダメな決意なわけで、かつての親友たちもそんな話に乗るわけがない。だがそこは酔っ払いの奸計をめぐらせて、まんまと全員を招集することに成功する。

と、何の予備知識もなくここまで見てきて、今回はどうにも陰惨なコメディだなあ、どう考えても救いようがないじゃん、と考え始めていると、もちろんエドガー・ライト×サイモン・ペッグなわけで、映画はあっというまにジャンルの枠組みの中に突入する。

その瞬間の「どこまで本気!?」という悪夢的感覚を味わいたければ、この先を読まず映画館に向かった方が良い。が、ネタバレでもなんでもなく前面に押し出されていることなのでどういうことかをいちおう記しておくと、要するに「宇宙人侵略もの」なのであった。近年の小品『グラバーズ』(11年)では、宇宙からやって来た化け物がアルコールに弱いということが判明し、村人がパブに集まってひたすら飲み続けながら戦っていたが、この映画の場合そんな設定もない。

ただ、「久しぶりに田舎の故郷に帰ってきたら、どうも町の様子がヘンだし、住民の雰囲気も変わってしまった。でもまあ、もう何年も帰ってきていなかったんだからあたりまえかな?」という誰もが経験するであろう例の感覚を、そのまま『ボディー・スナッチャー/恐怖の街』(56年)的な身体乗っ取り系の「宇宙人侵略もの」に直結させたというにすぎない。すぎないとはいっても、周知のとおり『ボディ・スナッチャー』というのは、赤狩り時代の潜入してくるコミュニズムへの恐怖を宇宙人というかたちに具現化したものだったわけで、「久しぶりに帰ってくると懐かしい村の地場産業がグローバル経済に浸食されて、味も素っ気もないチェーン店に変わっている」ということへのうっすらした恐怖でそれを書き換えたのは、極めて聡明かつ正統的なアイディアだといえるだろう。そう、エドガー・ライト×サイモン・ペッグの映画は、めちゃくちゃやっているようでいて、いつもとても正統的なのだ。

しかも、ゲイリーと同じ「中年の危機」を迎えている者が見ると、この映画が結末で我々に見せる景色もまた、眠れない夜に「いっそそうなってしまったら楽しいかも」なんて悶々と思い巡らせるアホな妄想をそのまま実現してくれていて、「やっぱそうだよなあ」と深く共感できること請け合いでもある。願わくば、この世代の大人になれないおっさんたちを元気づけるものがもっともっとたくさん作られんことを。若い世代にとっては気持ち悪いだけでしょうけど。

そんな中年の悶々なんて興味ないという人は、もうひとつの「終末もの」、セス・ローゲンが共同監督した『ディス・イズ・ジ・エンド』を見てみましょう。こちらは普通の「宇宙人侵略もの」かと思いきや、もっと直球な別のジャンルものであることが徐々に明らかになるという、一見そうではないのに実はけっこうラディカルなコメディ映画なので。

公開情報

©2013 UNIVERSAL STUDIOS
4/12(土)より、シネクイント他にて全国ロードショー! 2013年/イギリス/109分/シネマスコープ/ドルビーSRD 原題:The World’s End/PG12 配給:シンカ、パルコ ユニバーサル映画