感染ものはすでに多数存在するし、ゾンビものやヴァンパイアものまでをその中に入れるとかなり裾野の広いジャンルということになるわけだが、この小説は、その中でもかなり正統派の王道の様な顔をして始まる。
謎の細菌に感染した者が人を殺しまくって、死ぬ。主人公はCIA情報員と感染症の専門家と、ひとりの感染患者。という登場人物の顔ぶれも、きわめてオーソドックスだし、キャラクター造形も同様である。
だがもちろん、ただの感染ものでないことは、感染源であるところの「種子」視点の章において、かなり早い段階から示される。成長するにしたがって、知能を持ち始めるのである。その段階で『寄生獣』を思い浮かべないものはいないだろう。
最終的には、「種子」の正体とともに、実はこの作品そのものが序章にしか過ぎないことが明らかになったところで幕を閉じる。特に捜査員サイドの登場人物たちのキャラクターが活かされきっていないなあ、と感じさせられるが、そういうことなら第二幕に期待しておこうかということになる。ただし、感染ものに欠かせない残虐・お下劣描写はたんまり詰まっているので、安心していただきたい。
まあ、当初はポッドキャストでの朗読配信という形式で発表された作品のようだし、そのためかだいぶん大味な小説だが、映画やコミックの原作としてはかなり有効性が高い。
『殺人感染』上&下
スコット・シグラー/夏来健次訳/扶桑社
初出
2011.06.20 13:30 | BOOKS