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ハラルド・ズワルド監督
『ベスト・キッド』

文=

updated 08.23.2010

文=川本ケン このリメイク版を見て思い出したが、オリジナル版の主人公もまた特別イケていない少年ではなかった。 ちょっとしたきっかけで強いいじめっ子に目を付けられ居場所を失うという、学校という閉鎖社会の中では誰にでも起こりうる成り行きが発端となっているに過ぎなかった。 今回のリメイクでも、主人公は黒人少年(ジェイデン・スミス)となり、舞台はアメリカの地方都市ではなく北京へと変更されているが、映画の持つ基本的な考え方はほぼすべてがキレイに現在時へと移植されている。 ただし、大きな相違点がふたつある。 ひとつは武術の師匠となる人物が、第二次大戦と沖縄の影を背負った日系老人ではなく、ある出来事によって廃人同然になりかけている中国人(ジャッキー・チェン)であること。 日系老人の過去には大文字の歴史の影が落ちているが、この中国人の背負っているものはあくまで個人的な体験に過ぎない。 もうひとつは、それをマネれば誰でも空手の基本をマスターできるような気分にさせられるという、オリジナルの持つ大きな魅力のひとつである基礎稽古シーンが、今作ではあくまで基礎稽古の積み重ね、としか描かれていないこと。 稽古の内容に関しては非常に巧みなアップデイトが施されているが、マネ衝動を誘発することは狙われていないのである。 ここには、フェアプレイの精神さえ守ることが出来れば、人種も地理的な懸隔も意味を持たない、あり得べきグローバル社会が出現するのだ、というヴィジョンが描かれているように見える。 そこだけが、良くできているのになんとなく違和感を覚えるという所以であるし、アクチュアリティの高い娯楽作品たり得ていると感じさせられるポイントでもある。 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 新宿ピカデリーほか全国ロードショー中

初出

2010.08.23 09:00 | FILMS