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『ロスト・シティZ 探検史上、最大の謎を追え』
 デイヴィッド・グラン

文=

updated 08.31.2010

文=川本ケン

幼年時代に訪れたアマゾンの記憶をまさぐると、観光客向けに伝統的な生活を体現して見せる人々が半裸で踊り回る姿を見て感じた、どことなくイヤな気分に行き当たるのだが、実のところ、その広大なジャングル地帯に棲み“文明”といまだかつて一度も接触したことのない部族が、現在でも数十という単位で存在しているのだという。
当然のことながら、そこで生きる術を持たない人間にとって熱帯雨林とは、エコロジーの桃源郷などではない。想像を絶する奇怪な昆虫たちが活動し、些細なことで痛めた身体はたちまち感染症にかかり腐り始めるという地獄そのものが広がっているのだ。

そのアマゾン川流域地帯が最後の秘境と呼ばれていた前世紀前半、忘れられた都市Zの伝説(かつてスペイン人征服者たちによってエル・ドラードと呼ばれた黄金郷伝説の系譜に直結している)に取り憑かれ、幾度となく過酷な遠征に出かけ、最終的には二度と帰ってくることのなかったひとりの男がいた。それが英国人探検家、パーシー・ハリソン・フォーセットである。

本書は、各地に残された資料や、遺族へのインタヴューといったオーソドックスな手法によってフォーセットの足跡を辿りながら、作者自らもジャングルに足を踏み入れるという二重構造によって、フォーセットとZを巡る神話の持つ抗いがたい求心力を、いわば我々に追体験させるのである。

フォーセットにおいては時代によって規定された様々な要素が絡み合っていたとはいえ、それでもその求心力の内奥に迫れば迫るほど、結局のところ『荒野へ』(あるいは映画『イントゥ・ザ・ワイルド』)などに見られる秘境へのロマンティシズムと同質のものがあることは確かであり、それ故に、秘境のさらにその先にはあり得べき別世界への入り口が存在しているという、本書終盤に至って幻視されるイメージを前にして、誰もが心のざわめきを感じざるを得ないだろう。
つまりこれは、“失敗した探検”の記録ではないのだ。

『ロスト・シティZ 探検史上、最大の謎を追え』
デイヴィッド・グラン
近藤隆文訳/NHK出版

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初出

2010.8.31 17:00 | BOOKS