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グラント・ヘスロヴ監督
『ヤギと男と男と壁と』

文=

updated 08.12.2010

文=川本ケン 1980年に設立された米軍の超能力部隊「新地球軍」元隊員(を名乗る男)が、ある声に導かれて2003年のイラクを縦断するという映画。 「新地球軍」とは、ヴェトナムでニュー・エイジ思想に開眼した一人の帰還兵によって創設されたというヒッピー部隊であった。しかも、この部隊は「ジェダイ計画」と呼ばれていたプロジェクトによって誕生したという。 LSDとハッパで意識を拡張し、愛と平和を追求する部隊。そう聞くだけですでに可笑しいわけだが、その笑いは言うまでもなく、ニュー・エイジ思想と軍事活動という本質的に相容れないふたつの営みを生真面目に追求する男たちの姿から生まれている。 ジョージ・クルーニーによって演じられる元隊員は、ニュー・エイジ思想を信じて超能力を磨きあげ、ついにはヤギを睨みつけるだけで殺せるところにまで到達したという男である。 語り手であるダメ新聞記者(ユアン・マクレガー)が、詐欺師にも狂人にも見えるこの男の奇妙な魅力に惹き寄せられ巻き込まれてゆくことで物語は展開する。 実在したという米軍超能力部隊の、あり得たかも知れない理想とその結実を夢想することによって、泥沼化することになるイラクにおける戦争のあり得るかもしれない解決を幻視させるという、基本に忠実でありながらも実は野心的な映画、ということができるだろう。 決して奇跡的な手際を見せるわけではないが、クルーニー十八番の顔つきもあって、非常に好感を覚えさせられる。

公開情報

8月14日(土)シネセゾン渋谷、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開
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初出

2010.08.19 11:00 | FILMS