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隙のない手つきと風通しのよさ

ジェイソン・ライトマン『とらわれて夏』

文=

updated 04.29.2014

ジェイソン・ライトマンといえば、タバコ業界の内幕ものである『サンキュー・スモーキング』(06)、未成年者の妊娠・出産を巡る『JUNO/ジュノ』(07)、リストラのプロを主人公とする『マイレージ、マイライフ』(09)といった具合に、センセーショナリズムと情報エンターテイメントの間にあるほどよいバランスの中で巧妙に社会性を映画の中に埋めこみ、しかも思考停止の結論を持ち出すことなく宙吊り状態に持ち込みながらも、娯楽としての満足はきちんと観客に与えるという、とにかく上手い作り手である。

とはいえ、たしかに上手いんだけど、それが小上手いだけなのかそんなレベルを超えた強かな腕力を持った作り手なのか、たぶん後者なんだろうとは感じさせながらいまひとつ核心を持てない存在でもあった。だがしかし、青春時代の己と自らの生地を全否定して都会へと飛び出た“ビッチ”が故郷に戻ってきて、自分勝手なすったもんだの挙げ句なんの反省もなくまた町を出て行くという『ヤング≒アダルト』(11)のラディカルさによって、それは確信へと強固に変化したのであった。

そういうわけで、彼の最新作と聞けば見ずにはおれないわけだが、今回はオーソドックスに文学的な手つきによって、ハーレクイン・ロマンス的なネタを展開する。そのあからさまな混淆と仕上がりのバランスの良さこそが、ライトマンの真髄というわけだ。結論からいえば、極めてウェルメイドな映画を撮り上げることに成功している。

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13歳の少年ヘンリー(ガトリン・グリフィス)は、離婚した母アデル(ケイト・ウィンスレット)と二人暮らしをしている。母は離婚以来慢性的な抑鬱状態にあり、ヘンリーはそんな彼女の生活を文字通り支えながら毎日を送っている。

ある日、月に一度の買い出しで町に出た二人は、脱獄囚のフランク(ジョシュ・ブローリン)と行き会う。彼らはフランクに脅され、自宅に導き入れてしまう。一方フランクは、脱獄時に負った怪我が癒えるまで匿ってくれさえすれば、決して危害は加えないからと訴える。

緊張の中で、徐々に日常の時間が流れ始める。やがて家を修繕し車を修理し、料理をするフランクは、不在の夫/父親の役割を理想的に果たし始め、母子との間に心の交流が生まれることになる。

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 もちろん幾度となく見た筋書きだし、展開そのものに意外なところはひとつもない。だが、わずか数日のうちに積み重なってゆく時間の流れをひとつひとつ丁寧に捉え、その変化を着実に描き出し、おそらくこれが伏線なのだろうと感じさせる徴を恥ずかしげもなく明示し、ブレることなくそれらを回収してみせる。

このように、隅々に至るまで隙がないわけだが、しかも、前述のように物語がベタであることも手伝って、その隙のなさが風通しのわるさに繋がることもない。時折あからさまに「ニュー・カラー」風の色合いを帯びる撮影もまた見事だが、だからといって狭い美意識の中に映画が閉じ込められはしない。

「あれ? クレジットでは見かけたけど、トビー・マグワイアってどこに出てるんだっけ?」と思い、その答えを見つける頃には、スクリーンが涙に歪んでいるだろう。押されたつもりもないのにツボを押されてしまっているという感じに、少し動揺してしまうだろう。

たぶん、誉め過ぎなんだろう。それはわかっているが、うまくいっている事実には変わりがないので仕方ない。

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公開情報

5月1日(木)TOHOシネマズシャンテ他全国順次ロードショー
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