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ベタをおそれぬ強固な骨格

ダグ・ライマン『オール・ユー・ニード・イズ・キル』

文=

updated 07.03.2014

地球は異星人の侵略を受け、人類は絶滅の危機に瀕している。唯一の希望は“機動スーツ”を着た“戦場の女神”(エミリー・ブラント)であり、主人公ケイジ(トム・クルーズ)は彼女の存在を最大限に活用しすることで人類の士気を高め、志願兵を募る広報士官。戦闘経験も戦闘能力も持たない腰抜けである。人類側の大攻勢を前にしたある日、前線に送り込まれることを拒否したことでその彼が官位を剥奪され、一兵卒として兵営にたたき込まれる。“機動スーツ”の使い方すらわからないまま戦場に投下され、あっという間に死ぬ。だが目を覚ますと官位を剥奪された日に戻っている。

予備知識を持たないまま冒頭部分を見ていると、人類が大攻勢をかけるために上陸する地点はノルマンディーとされているし、完全にSF版『プライベート・ライアン』なわけで、「これは面白くなりそうだけど主人公はどういう理由付けで生き延びるのかな?」と思った矢先、ケイジは爆死してループ構造が始まる。その瞬間には「なんだループものか」とちょっとうんざりするのだが、死の前後に伏線がたっぷりと張られているようだし、自分が死なないなら戦場に出てみたいという素朴な欲望に端を発する好奇心にも引っ張られて、意外にもテンションは持続するのだ。

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しかも、このループが結局のところどんな話につながっていくのかという骨格の部分もすぐに見えてきて、今度は戦場での試行錯誤という、TVゲームそのもののの面白さへと移行してゆく。つまり、「ここでは敵がこう動くからこちらはこう反応して、あちらの方向に前進する」といったような積み上げが始まるのだ。とはいえそれだけではまたすぐに退屈になるところを、その寸前にまた次の段階がやってくる。

といった具合に極めて良く練られた脚本と、いかにも戦場での殺戮に倦みきったというかんじに百戦錬磨の古参兵の雰囲気を放つエミリー・ブラントの魅力、それに前述のとおりの戦争ものとしての密度を持つハードな戦場描写に惹かれて、最後まで引きずり回されてしまうといった次第。

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一方トム・クルーズは最終的にトム・クルーズなのだが、当初はダメ兵士として登場し、そのダメっぷりを自虐ネタのギャグにしていたりして、そこはちょっと目先が変わっていて面白かったりもする。また、「ゲーム」のスキルが向上してからも、あくまで“普通の人間”であるという設定は崩れないので、いつものように超人的に強くなるわけではない。もちろん、ループに気づいていない一般兵士から見たら、超人以外の何者でもない動きを見せるわけだが。

そういうわけで、『ボーン・アイデンティティ』(02)以降、“ハリウッド娯楽映画”の形を作り上げてきた人間のひとりであるダグ・ライマンらしく、どこまでも手堅く撮り上げられていて、いたずらに目新しさが追求されることもなく安心して楽しむことができる。脚本にクリストファー・マッカリー(『誘拐犯』『アウトロー』監督)の名があるところにも注目しておきたい。この映画の持つベタをおそれない強固な骨格は、彼の力に拠るところも大きいに違いない。

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公開情報

©2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BMI)LIMITED
2014年7月4日(金) 2D/3D&IMAX同時公開
配給:ワーナー・ブラザース映画
公式HP: www.allyouneediskill.jp