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いろいろと楽しい

スティーブン・クォーレ『イントゥ・ザ・ストーム』

文=

updated 08.18.2014

どれだけ科学技術を駆使して身を護ろうと、自然災害はある日突然想像を絶する規模で襲いかかり、人類を蹂躙してゆく。そこには何の意味もない。そしてそれ故に、われわれを魅了する強烈な力を持っている。幼年期、台風の夜があれほどワクワクするものだったのは、単に非日常の時間が楽しかったからではなく、得体の知れない力によって日常の中に非日常の時間がこじ開けられるという事態そのものに魅入られたからにほかならなかった。

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特に、大地震においては破壊の過程と結果を見ることしかできないが、突如発生し破壊そのものとなって襲いかかってくる様子をじっくりと視覚的に観察することすらできる大竜巻の場合、その魅力は計り知れない。思えば、少し離れたところで発生し、まだまだ小さいと油断しているとあっと言う間に巨大化し、しかもこちらに来ないかと思えば突如向かってくるといったように、予測できそうでできず、距離をコントロールできそうでできない、ふとしたはずみにやられてしまうという存在の仕方は、ゾンビにも通底する求心力を持っているのかもしれない。

大竜巻といえば、かつて『ツイスター』(ヤン・デ・ボン/96)という映画があった。主人公は「ストーム・チェイサー」とも呼ばれる気象予報官であり、竜巻予報システムを開発し被害を最小限に食い止めるという大義名分が、彼の繰り広げる無茶な行動の動機として存在していた。

それから20年近くが過ぎて作られた最新巨大竜巻映画である本作の主人公というか中心的な人物のひとりは、竜巻専門のドキュメンタリストであり、巨大竜巻を映像に収めことで金を儲けている。それ以外の大義名分を持たない。
もちろん、竜巻という自然現象によって明らかに官能的に魅了されているという点は全く変わらないのだが、ふたりのキャラクター造形の差には、ここ20年ほどの間に徹底的にネオリベラル化されつくした社会のありようが反映されているようで、まずはそこが興味深い。

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もうひとつの特徴は、この映画がいちおうのところ登場人物たちの持っている種々のカメラで撮影された主観映像によって構成されているというタテマエである。とはいえ、フェイク・ドキュメンタリー性が徹底されるわけではなく、誰が撮影したのか全くわからないマスター・ショットによって身も蓋もなく語りが補強されている。娯楽への奉仕という意味で、正しい選択といえるだろう。

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ただし、複数の登場人物たちの持つカメラ(スマートフォンやはやりのGoPro的なものからプロ用機材にいたるまでを含む)の素材によって構成されているというその多視点性は、無関係な生活を送っていた人間たちが超巨大竜巻によって暴力的に邂逅させられるという物語の構造に重なり合っており、筋の通ったものでもある。「竜巻ハンター」の従えるカメラマンたち、高校生の兄弟、YouTubeでブレイクすることを目指すアホな貧乏白人二人組、といった人々が竜巻の目に吸い寄せられてゆく。やがてわれわれの目の前に現れる「修正藤田スケール」における最大級「EF5」の竜巻のものすごさには、笑いを禁じ得ないだろう。

かくて、企画趣旨どおりの娯楽映画が、過不足なくできあがった。「タイタス」と呼ばれる竜巻観測用装甲車の改造っぷりといい、思いがけずリリカルとも呼べる美しさを湛えた竜巻の目といい、いろいろと楽しい。

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公開情報

©2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED
8月22日(金)全国公開!
配給:ワーナー・ブラザース映画
オフィシャルサイト: 
http://www.intothestorm.jp