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めくらましをかきわけて

ラミン・バーラミ『ドリームホーム 99%を操る男たち』

文=

updated 01.27.2016

金を握ればある程度の権力も手に入る。権力を手にしているのなら、それを駆使することでさらに金を増やすためのシステムを創出し強化するのはあたりまえのことだろう。だがいわゆる“残り99%の人々”は、オリンピックだのなんだのの目くらましにまんまとのって、われとわが身には訪れるはずもない輝く未来の幻影に思考を停止させて毎日を過ごす。

だが、「そんなまやかしにのるのはバカのすることだ」と嘲ってみせたところで、金を失い、住処をうしなった人間にとって何の足しになるのか。足しにならぬのならそのシステムに荷担し、生き延びる道を模索するのもあたりまえのことだろう。能力があるならやればいい。おこぼれにあずかれるのなら、万々歳。それが生きる努力というものだ。この社会は、われわれにそうわめきたてている。

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映画の主人公デニス(アンドリュー・ガーフィールド)は、住宅ローンを抱えながらフリーランスの大工として生計を立てている。だが折からの不況のため収入は減少する一方で、ローンの支払いも滞っている。そしてついにある日、強制執行がおこなわれ、同居している母親(ローラ・ダーン)と息子コナー(ノア・ロマックス)とともに、路上に放り出される。その日から、あらゆる種類の下層民が吹きだまるモーテル暮らしがはじまる。隣人には、まったく同じ境遇の人々も大勢いるだろう。

そのまま下降の人生を辿り、あっというまにホームレスになったという話はリーマン・ショック以降よく耳にしたわけだが、デニスの場合はちがう。ひょんなことから、自宅を奪った不動産ブローカーのリック(マイケル・シャノン)のもとで働くことになるのだ。デニスはたちまちのうちにシステムを理解し、“コツ”をのみ込み、リックのシニシズムに感化されながら彼の右腕へと成長してゆく。それは、彼自身が“持たぬ人々”を路上に放り出す“悪徳ブローカー”と化したことを意味する。

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“ナイーヴな青年”たるデニスは全能感に酔いしれるが、母親は彼の“苦労”も知らずに“きれい事”を並べ立て、彼を責めたてるだろう。“持たぬ人々”から復讐の標的にすらされる。拳銃は手放せないし、モーテル暮らしを続けることもできなくなる。

ここにいたりデニスは、悪の純粋な具現化にしか見えなかった“悪徳ブローカー”の“気持ち”がわかる。つまり、“悪者”もまた結局のところ“弱者”に過ぎず、金とひきかえに失ったものは大きいというわけだ。それは、“悪者”として小者だからだろうか。あるいは、そういう小者を利用するもう一段階上の“悪者”もまた、同じ種類の空虚さを抱えているのだろうか。いずれにせよ、“悪者”として悪事を働き、正義の制裁を受けるのは、たいていの場合小者たちばかりであることも、われわれは知っている。

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冒頭、真面目で素朴な若者がいきなり転落する姿は息苦しくなるほど身につまされるし、その無力な彼が魔法のような力を手に入れる展開には、素直に興奮させられる。いわゆる「魔法を手に入れた凡人の物語」として、極めて正しく機能しているのだ。強烈な磁力を放つマイケル・シャノンと、人好きのする弱さを持ったアンドリュー・ガーフィールドの顔つきもまた、その物語に強い説得力を与える。われわれはデニスの奮闘に共感しつつ、リックの冷ややかなカリスマ性に小気味良さを感じながら、最後まで物語に振り回されまくる。

ひとつだけこの映画に弱さがあるとしたら、このふたりに真の地獄を用意できなかったことだろう。苛まれる良心を持つ小者にとって、“正義”によって弾劾されることは救済でしかない。何かそれ以上の、救いようのない深淵を現出させられなかったのか。いや、それができたとしたら、あいもかわらず世界の1%を富ませ続けるシステムをひっくりかえす方法を、発見できたということになってしまうのか。そんなことを考えさせるスリリングさもあった。

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公開情報

1月30日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次公開!
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配給: アルバトロス・フィルム