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われわれの身体に触れてくる

ジョン・R・レオネッティ『アナベル 死霊館の人形』

文=

updated 02.24.2015

ジェイムズ・ワンによる『死霊館』(13)が怖かったことは覚えているし、アナベル人形にもキッチリと見覚えがあるのだが、劇中どのように登場したのかまったく思い出せない。いや、エピローグ部分で主人公ウォーレン夫妻の家に封印されていたアナベルの姿を見た記憶はあるのだが、それが物語のなかでどのように活躍したのか……と思い、ウィキペディアで検索してみても、映画の「あらすじ」には出てこない。

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いや、アナベルが幽霊のように記憶の中にしのびこんでいるといいたいわけでもないし、ましてや薄れつつある記憶力のことを書きたいのではない。『死霊館』というのがことほど左様に、ただひたすら怖がらせるという機能だけに特化した映画であったこと、そしてアナベルという人形の造形が危険を感じさせるほどのインパクトを持っていたというこの二点をおさらいしておきたかっただけなのだ。

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今回、ワンは「製作」に退き、『死霊館』でも撮影監督を務めた相棒的なジョン・R・レオネッティが監督の任についている。だからゆるくなったのかといえばそうではなく、模倣というものがしばしばオリジナル以上の精度を見せることがあるように、機能という点では前作からの進化すら認められるだろう。

「こんなの映画じゃないじゃん!」と怒る向きもあるだろう。その通り、最初から立派な映画になることなど考えていない。要するにこの作品は、良くできたお化け屋敷そのものと化しているのだ。

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どういうことかといえば、怖がらせるためにありとあらゆる既知の手法が用いられているのみならず、そのすべてがもう一段階過剰になっている。といっても、大げさなことではない。SEのレヴェルをグイと上げるといったようなことなのだ。結果、「ここで来るよね」と重々わかっているはずなのに、ゾゾッと鳥肌が立ったりしてしまう。

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ただし、既知の手法をすべてといっても、取捨選択のセンスは抜群である。たとえばこの手の“呪いの人形”ものの場合、登場人物が見ていないところで人形が身動きしたりしがちだが、アナベルの場合そんなことはおこらない。ピクリともしないかわりに、瞳の中の小さなハイライトがチリチリと微妙に揺れていたりする。

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また、撮影監督らしいといってしまうと紋切り型が過ぎるが、窓枠やら扉といったフレーム内フレームの使い方もかなりうまい。“こちら側”から切り離された“向こう側”でヤバイことが進行しているという、ホラー的悦びの盛り上がる瞬間を捉えて、突如“向こう側”が“こちら側”に飛びこんでくる時など、そのままスクリーンを突き抜けてここまで来ちゃうんじゃないかと肝が冷える。

それにしても、映像が3Dであったとしても(この作品は2Dだが)結局のところ、スクリーンからほんとうの意味で飛び出てきてわれわれの身体に触れられるのは音だけなんだよなあ、ということをあらためて実感させられる作品ではあった。これは、体験としての映画を追求する作り手なら、かなりしっかりと意識化しておく必要のある基本的な事実だろう。

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公開情報

©2014 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
2月28日(土)新宿ピカデリー 他ロードショー
配給: ワーナー・ブラザース映画
公式サイト:www.annabellemovie.jp
Twitter:@annabelle_mov