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ライアン・クーグラー
『クリード チャンプを継ぐ男』

文=

updated 12.22.2015

1976年の『ロッキー』から40年近くが過ぎ、スタローン自身が語るとおり、すでに二代目のファンが映画作りの現場にいる時代となった。本作の監督、ライアン・クーグラーも86年生まれだというから、まさにその世代ということになる。実際彼の父親は、息子がスポーツの試合に臨むときには、かならず『ロッキー2』(79)を見せたのだという。

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物語もまた、息子の世代へと移る。ロッキー自身の息子ではなく、『ロッキー4/炎の友情』(85)で命を落とした親友であり好敵手のアポロ・クリードの落とし種、アドニス・ジョンソン(マイケル・B・ジョーダン)である。早くに生みの母を失い、アポロの未亡人に引き取られたアドニスは高等教育を受け、高給を稼ぎ出せる職業にも就くが、ボクシングというより闘うことそのものへと抗いがたく惹き寄せられている。だが地元LAでは、あまりに偉大な父の名前が故にボクシングの道をまっとうに歩むことができない。そこで、フィラデルフィアへと移動する。そこなら誰も素性を知らないし、まだ見ぬ「おじき」とも呼べる存在であるロッキーをコーチに引き込めるかもしれないというわけだ。

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監督のライアンは、スタローンに遭遇する機会を捉まえてこの映画のアイディアを売り込んだのだという。首尾良くその場でスタローンを感心させ、企画が始動した。「アポロの息子が、ロッキーにコーチしてもらいながら勝利を目指す話なんです」という要約文を聞いただけで、ただちに世代間ギャップの楽しい逸話やら、「じゃあロッキー自身はどんな戦いを闘うのか」といた想像や疑問が次々連鎖的に浮かんでくるのだから、クーグラー以前に思いついてピッチングした人間がいないのが不思議なくらいのド直球企画である。ハリウッドの定石をすべて踏んで見せる、教科書のような物語ともいえるだろう。もちろん、『ロッキー』企画である以上、中身はこれ以上ないくらいにベタでストレートでなければいけない。あたりまえのはなしだ。

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そういうわけで、ひとことでいえば、われわれがいま「ロッキー」に望むものはすべて入っている。ある程度物質的不自由のない立場にある若者が、本人にしかわからない内面の屈託(アドニスの場合は伝説的な父親の息子という出自から来る)を抱えて、自分自身との闘いに身を投じるというのは、かつてロッキーが体現していた階級闘争と一体化したような“ハングリー精神”よりも、強く同時代の心を捉えるだろうという読みは正しい。そのうえで、単なるリング・サイドの心強い援軍として活かすのではなく、ロッキー自身にも年齢相応の命をかけた戦いを用意してやる。それによって、師弟の間に完全なる共闘関係を成立させるという展開も巧みである。

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もちろん終盤の試合では、スクリーンを見つめるこちらもお約束通り手を握りしめて、ついついアドニスと共に身体をゆらしながら、昂奮が頂点に達する瞬間めがけて上昇してゆくという幸せな体験をすることになる。しかも、幕の閉じ方がきわめて上品。その上品さはまた、若いアドニスの活躍を応援しながらも、どちらかといえばロッキーの側の戦いというか、彼が積み重ねてきた歳月の方が心に沁みている自分にも気づかされるという、細やかな話の運びにもあらわれている。

なんの留保もなく安心して見られる娯楽映画とは、こういう作品のことをいう。

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公開情報

(C)2015 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
12月23日(祝・水)新宿ピカデリー 丸の内ピカデリー他全国お正月ロードショー
配給: ワーナー・ブラザース映画