THE IMITATION GAME

人間の模倣という切実な問題

モルテン・ティルドゥム
『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』

文=

updated 03.11.2015

ADHD的な特徴を持った人が好かれていると思っていたら、ここ数年それがアスペルガー的な特徴を持つ人へと移行した印象はあった。テレビでよく見かけるコメンテーターや芸人にも“そっち系”が目立つようになったし、たとえば蛭子能収が“再ブレイク”中なのもそういうことだろう。もちろん、ベネディクト・カンバーバッチを日本でもブレイクさせたシャーロック・ホームズという役柄は典型的にアスペルガーだし、この映画の主人公である実在した数学者アラン・チューリング(1912〜54)もまた、同様の特質を持った人間として描かれる。

THE IMITATION GAME

頭脳が極端に明晰で、他人の感情を忖度できず、論理のみによって判断し行動してしまう男。要するに紋切り型でいえば“孤高の天才”ということなのだが、その彼が人間関係で多くの軋轢を生じさせながらも、自身の理論に基づいた暗号解読機械によって、ドイツ軍の使用していた暗号機エニグマの解読を成功させるという物語が、ここでは語られる。

ただしそれは、悲劇としてわれわれに提示される。チューリングは、戦時下の軍隊というおそらく最も強度な不文律に支配された集団の中で、それを理解し従う能力を完全に欠いているという困難に加えて、当時は法により「犯罪」とされていた同性愛者としての自己をひた隠しにしなければならないという二重のくびきを背負いながら孤独に闘うわけだが、“偉業”を成し遂げてもなお己の居場所を見つけることができないまま、この世を去ることになる(ちなみに、 “同性愛の罪”に関してチューリングが正式に“恩赦”を受けたのは、2013年末のことだったという)。

二重の“くびき”というのは、いいかえると、二重に“人間”を“模倣”しなければならなかったということであり、しかも彼が研究を続けた“人工知能”もまた“人間の模倣”であった。彼にとっては、それがどれほど切実な問題であったのかがわかるだろう。

_TFJ0127.NEF

そこから本作のタイトル『イミテーション・ゲーム』がくるわけだが、この物語が“ひとりの変わり者のお話”であることを超えてわれわれの胸に迫る力を持っているとすれば、われわれもまたこの社会の中で多かれ少なかれ、また自覚的であれ無意識的であれ、チューリングと同じように“人間を模倣”しながら生きているからにほかならない。“社会人”、“日本人”、“常識人”、“大人”なんでもいいが、われわれの頭にたたき込まれているその手の言葉はすべて、“人間”といいかえて良い。

_TIG2664.NEF

作中チューリングは、唯一の理解者であるジョーン・クラーク(キーラ・ナイトレイ)の手ほどきによって、目的達成のために “人間”たちのやり口やルールを“模倣”し、“味方”を作ろうと努力する。そういう彼の姿の可笑しさに吹き出しつつ、同様の困難にぶち当たった自らの経験を蘇らせることのない者は、チューリングをこの世から排除した人間たちの側にいることを自覚すべきだろう。

_TFJ0249.NEF

公開情報

(C) 2014 BBP IMITATION, LLC
3月13日(金) TOHOシネマズ みゆき座他全国ロードショー
公式サイト http://imitationgame.gaga.ne.jp/