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“運の悪いヤツ”

チャド・スタエルスキ『ジョン・ウィック』

文=

updated 10.15.2015

ひとりの男が悪いときに悪い場所に居合わせ、悪いヤツによってペットを殺され愛車を奪われる。だが実のところ、運が悪かったのはその男ではなく悪いヤツの方だったというお話。男の名はジョン・ウィック(キアヌ・リーブス)、引退した伝説の殺し屋である。妻を亡くしたばかりで、失うものはなにもない。そういうわけで、マスタングを一台自分のものにしようとしたボンクラ二代目のために、ロシアン・マフィアの一家は皆殺しの憂き目にあう。

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とはいえ、かつては殺し屋の中の殺し屋として勇名を馳せていたジョンも、超人ではない。足を洗ってしばらく経つうえに精神的なダメージを抱えたままでもあるので、最盛期の実力をどれだけ保持しているのかハッキリしない。そのうえ圧倒的な多勢に無勢である。ジョンの身体は少しずつ痛めつけられていく。

だが、この物語の世界には“裏社会のコミュニティー”があり、厳格なルールを守らなくてはならない場所、〈ホテル・コンチネンタル〉がある。特殊な通貨が用いられるその敷地内では“仕事”が禁じられ、敵味方が入り交じって骨を安め、社交をすることができる。掟をリスペクトしジョンに一目を置く古参の殺し屋から、そんなことには無関係に利益を追求する新参者までがいるが、“礼儀正しい殺し屋”であるジョンは“裏社会のコミュニティー”そのものを味方につけているといえる。

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ことほど左様に、劇画系アクション映画の舞台装置がすべて用意されたうえで、ロシア軍の特殊部隊スペツナズによって開発された格闘術〈システマ〉をベースにした、どこまでも流麗でカッコイイ動きを持ちながらもリアルな感触を残す殺人アクションが展開される。そのため、「どこかでこういうマンガを読まなかったかなあ」とか、「設定は鈴木清順『殺しの烙印』(67)みたいでもあるぞ」とかいう懐かしさが、最新式格闘術によってアップデイトされたという印象になる。

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また、敵でありかつての雇用主でもあるロシアン・マフィアのヴィゴ(ミカエル・ニクヴィスト)、陰に日向にジョンを気づかう親友のマーカス(ウィレム・デフォー)、“裏社会”のルールをつかさどるウィンストン(イアン・マクシェーン)、ジョンをよく知る自動車修理工場主オーレリオ(ジョン・レギザモ)、あるいは不思議な訛りで淡々と妥協なく“裏社会”のルールを守る〈ホテル・コンチネンタル〉のマネージャーのシャロン(ランス・レディック)にいたるまで、ひとりひとりのキャラクター配置とキャスティングが活きていて、最初から最後まで安心して物語の荒唐無稽さに身を委せることができるのである。

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公開情報

Motion Picture Artwork (C)2015 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. (C) David Lee
10月16日(金)よりTOHOシネマズ新宿ほか全国公開
配給: ポニーキャニオン