前作『アウトロー』(12)という、トム・クルーズによる“採用試験”に合格したクリストファー・マッカリーは、監督第三作目にしてこの巨大シリーズ最新作の脚本を書くのみならず、監督を務めることになった。なにはともあれ、傑作であるにもかかわらずほぼ完全に無視された監督第一作目の『誘拐犯』(00)から10年以上がすぎた時点でマッカリーを“発掘する”というトム・クルーズの慧眼には敬意を表さなければならないし、そのマッカリーの持ち味を標準化しつくすことなく、あくまでも一般的な娯楽映画の枠組みの中で最大限に活かすという方向で『アウトロー』と今作がプロデュースされている点は、見事としかいいようがない。
マッカリーの持ち味とはなにか?
脚本/物語の次元においては、『ユージュアル・サスペクツ』(95)以来の、物語の解釈によって敵と味方の顔がめまぐるしく変わるという、権謀術数のダイナミックな力学ということになるだろう。本作では、おそらくシリーズの中でも最もスパイものらしい駆け引きがおこなわれている。
ジョン・ル・カレの生み出したスマイリーをストレートに想起させるキャラクターやはかりごとが登場し、イーサン・ハントとわれわれを翻弄する。このシーンでは味方に見えた人間が次のシーンでは敵のようだし、敵のふりをした味方にも見える。それがラストに至るまで続くのである。
アクション/演出の次元においては、カーチェイス・シーンに集約される緩急の呼吸だろう。たたみかける激しいアクションは、すべて静止する瞬間によって分節化されないかぎり、退屈な時間のつらなりとなってしまう。やかましいライヴ会場でも音楽が鳴り続けているかぎり居眠りできるのと同じしくみで、その呼吸に無自覚なアクション・シーンはあっというまにわれわれを眠りに誘う。
マッカリー作品にはその心配はない。たとえば、ジョン・フランケンハイマーの『RONIN』(98)をすぐに思い出させる、カサブランカの細く曲がりくねった路地を疾走するカー・チェイスの後、笑い混じりの一拍をおいてすぐにバイクによる山道での追跡シーンが始まる。しかもその結末は、敵の車輌が飛散するというものではない。怒濤と静止のリズム感が、全編にわたって映画にうねらせながら突き進ませている。
さて、これで一流の大衆娯楽が撮れることを二作続けて、しかも規模を拡大しながら十二分に証明できたのだから、マッカリーにはぜひ『誘拐犯』並みのストレートにハードコアなアクション/サスペンスものも作ってもらいたい。もちろん、第四作目で打ち止めという事態はぜひとも避けていただきたいので、一般性の高い“お仕事”も同時に撮り続けてもらいたいものだが。
公開情報
© 2015 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
8月7日(金)、全国ロードショー
配給: パラマウント ピクチャーズ ジャパン
公式サイト: http://missionimpossiblejp.jp/