Predestination_main

辻褄のディテイル

マイケル&ピーター・スピエリッグ『プリデスティネーション』

文=

updated 02.26.2015

この世界では、70年代のニューヨークに「連続爆弾魔」が現れ、人々を恐怖に陥れることがわかっている。未来世界に存在する時空警察所属の主人公は、その名の通り時間と空間を行き来しながら犯人を追跡し、大惨事を未然に防ごうとしてきた。

物語はまず、1970年のニューヨーク、場末のとあるバーで幕を開ける。ひとりのバーテンダー(イーサン・ホーク)に扮した主人公の目の前に、奇妙な雰囲気を持った青年(サラ・スヌーク)が現れる。

彼は、「今はこんななりをしているが、実は女として生まれ、孤児院で育てられた」という“驚き”の身の上話を始める。彼/彼女が生まれたのは1945年のクリーヴランドだった。
そこから、時空がねじれにねじれ、終わりが始まりを呑み込み、始まりが終わりを生成する純粋タイム・パラドックスものとも呼ぶべき物語が展開される。そこにはいかなる安全地帯も残されていない。揺るぎない視点と思われたものがいつでも瓦解しうる脆いものにすぎず、境界のこちらがわが突如あちらがわとなり、犯人は被害者になり、原因が結果となったかと思えばまた原因となる。

ロバート・A・ハインラインによって1958年に書かれた原作短編「輪廻の蛇」(ちなみにこの短編、「‘–All You Zombies–’」という魅力的な原題を持つ)をすでに読んでいる場合は仕方ないが、そうでないのなら、これ以上のあらすじを知ることなくスクリーンに向かうのが正しい。だが原作を読んでいたとしても、この映画の持つなかなかに乱暴かつ精緻な作りは、十二分に楽しむことができるだろう。

たいていこの手の映画は、こまかな辻褄合わせやあら探しをする意味のないことが多いが、この作品に限っていえば、そもそもそうされるように作られているが故に、細部に目を凝らしすべてのパーツをならべかえ、多方向から辻褄の強度を試してみるのも楽しいだろう。思わぬサイドストーリーが浮かび上がってくることもあるに違いない。もちろんお話自体がそんなに複雑というわけではなく、その物語を支えるディテイルとその再構成ぶりの中にも魅力もが潜んでいるということにほかならない。

公開情報

©2013 Predistination Holdings Pty Ltd, Screen Australia, and Cutting Edge Post Pty Ltd R15
2015年2月28日、新宿バルト9他全国ロードショー
配給:プレシディオ