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立てこもりと鬼ごっこ

ジャームズ・デモナコ
『パージ』+『パージ:アナーキー』

文=

updated 07.15.2015

人間の根源的には暴力への嗜好がある。それを合法的に解放さえしてやれば社会は安定するだろう。ひとびとは地道な労働に専心できるようになり、経済は上向き、失業者は減少する。そんな絵図を近未来のアメリカにおいて実現させたのが、「パージ法」である。これによって一年に一度だけ、夜7時から翌朝7時までの12時間、殺人を含むあらゆる犯罪が合法となる。日ごろ腹の底に溜めている怒りを解放したかったり、ただ人殺しを楽しみたいという者は武器を手に街へ繰り出し、暴れ回ることができる。

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さて、『パージ』の主人公ジェームズ(イーサン・ホーク)は、この“パージ法”のおかげで自社のセキュリティ・システムを売りまくって大もうけした営業マンである。今年の“パージ”の夜も、難攻不落とされるそのシステムを稼働させ、家族全員で安穏な夜を過ごすつもりでいた。

もちろん、思い通りにはいかない。高校生の娘ゾーイ(アデレイド・ケイン)は年上のボーイフレンドを家に連れ込んでいるし、その弟のチャーリー(マックス・バークホルダー)は、屋外の監視カメラを眺めていて、あろうことか殺されかけている男を思わず屋内に招き入れてしまう。やがて彼らの家は、その男を追う仮面の一団に包囲され、危機的な状況が訪れる。

「一晩の間だけなにをしてもいい(ただし強力すぎる武器に関する使用禁止規定や、政府関係者を除外するといった決まり事はある)」というルール、包囲され抵抗するという「立てこもり」+「多勢に無勢」状況。これだけで、人をわくわくさせるジャンルもののお膳立ては揃っている。

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そういえばプレス資料を確認すると、監督のデマルコは、ジョン・カーペンター『要塞警察』(76)をリメイクした『アサルト13 要塞警察』(05)の脚本を書いていたらしい。『パージ』の構造は、まさに『要塞警察』である。少しずつ“パージ”の開始時間が近づき、ひとつまたひとつと準備を進めていった先でいよいよ始まる危険な夜、という盛り上げ方をよく知っている。

キャラクターにしても、へっぴり腰のサラリーマンだけど最後はがんばる父、弱そうに見えて土壇場で力を発揮する気丈な母、高校生というひねくれた年齢にいる扱いにくい娘、突飛な行動に出る予測不能なオタクの息子、という具合にツボをおさえている。
一方、そんな彼らの家庭には、傷を負いながら駆け込んでくる謎の黒人青年と金持ち子弟の集団が、脅威を持ち込む。それによって「家族:集団:謎の男」という屋外の三つ巴の中に、「両親:子どもたち:謎の男」という屋内の三つ巴が包含され、「優勢:劣勢」のパワー・バランスがめまぐるしく移行することで飽きさせないという構造が組み上げられている。

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もちろん、そうしたものすべてが古典的な風刺劇の基盤の上に載せられ、物語の基本骨格はそこから導き出されているという、単なる趣味嗜好に基づかない論理的な強みもある。まあ、風刺性に依存しすぎてキャラクターたちがほんの少しだけ操り人形のように感じられる瞬間がなきにしもあらずだったが、とにかく、「さあ今年もこの日がやってきました!」というお祭りの盛り上がりが、「でもほんとにお祭り騒ぎなんかしている場合なんだろうか」という主人公たちの不安の高まりと合致して、全体として観客の興奮を生成するという、ジャンルもの娯楽映画の小品が到達すべき次元は軽々越えてみせる楽しい作品だった。

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『パージ:アナーキー』

そういうわけで、ルールものだから続編が作られるのもあたりまえなわけだ。シリーズ二作目の『パージ:アナーキー』の方は、一作目が「立てこもり」だった部分を、今度は「鬼ごっこ」にしたというのがまず正しい。当然、「立てこもり」というのは狭い空間での「鬼ごっこ」でもあるわけだが、今度はそれを「街」というレベルに拡大することによって、様々なキャラクターを導入することが可能になった。

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“パージ”の夜、たまたま乗っていた車が故障し、丸腰のまま危険な街路を逃げ回ることになる若い夫婦と、そんな彼らを追い回す謎のマスク集団。なにやら思い詰めた様子だが強そうなひとりの男と、謎の武装組織に拉致されかける母娘というさわりを耳にしただけで、深くうなずきたくなるだろう。

キャラクターが増えるということは、当然コントロールすべき要素が増えるということで、映画としての破綻要因も増えることになるが、その危険は、「風刺基盤」にしっかりとしがみつきながら「ご大層な映画を作ってるわけじゃなし」という基本を見失わないことで、難なく免れられている。

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このレヴェルを保ってくれるのなら、三作目も四作目もはやく見たいという気持ちになった。

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公開情報

(C)Universal Pictures

『パージ』
7月18日(土)TOHOシネマズ日劇ほか全国公開

『パージ:アナーキー』
8月1日(土)TOHOシネマズ日劇ほか全国公開

ユニバーサル映画 配給協力:シンカ/パルコ
公式サイト: purge-movie.jp
公式Twitter: @purge_movie