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大人の“ムリ”を解きほどく

ピーター・ボグダノヴィッチ
『マイ・ファニー・レディ』

文=

updated 12.15.2015

毒があって、きれいな女の子が主人公で、人生経験を積んでいるのにまだまだ愚かで、それゆえ憎みきれない大人たちがおおぜい出てきて、ドタバタと修羅場は起こるけど最後にはみんな収まるべきところに収まり、世間からすると「そんなことでいいのか」と思われるのだろうけど「それでいいのだ」という人々の姿を映し出す映画。ひとことでいえば、いちばんうまくいっているときのウディ・アレン映画、もっと歴史を遡ると、エルンスト・ルビッチ『君とひととき』(32)の成熟ぶりを彷彿とさせる映画である。もちろんほんとうは、劇中にもセリフが引用される『小間使』(46)のルビッチだけを召喚するのが、優等生の回答なのだろうけど。

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それで気になって調べてみると、アレンは1935年生まれの80歳、ボグダノヴィッチは1939年生まれの76歳と、4歳年下なのであった。イメージの中ではボグダノヴィッチは一世代前のというか70年代の人なので、てっきりアレンの方が下だと思っていたが、2001年の『ブロンドと棺の謎』以来ほぼ15年ぶりの新作なのだから、それもしかたがないというところだろう。

さてこの映画の物語、新進の女優イジー(イモージェン・プーツ)へのインタヴューという外箱の中に入れられたかたちで語り起こされる。もともと高級コールガールをしていたイジーが、どういう経緯から舞台を踏むことになり、あっというまにスターにまで上り詰めたのかというお話には、まず、演出家のアーノルド(オーウェン・ウィルソン)が登場する。家族に先んじてニューヨーク入りしたアーノルドが、ホテルの部屋にコールガールを呼び寄せるのだが、それがイジーだったというわけだ。すばらしい一夜を過ごし、「将来のために」と彼女に三万ドルを贈る。

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アーノルドが準備を進めている舞台には、女優である妻のデルタ(キャスリン・ハーン)が出演する。ところが、その作品のヒロイン役オーディションに、女優を目指していたイジーがやって来てしまい、アーノルドは慌てて落とそうとする。だが、イジーの“迫真”の演技に心打たれたデルタとその相手役セス(リス・エヴァンス)は、彼女を強く推す。

ところでセスは、前の晩にイジーがアーノルドの部屋から出てくるのを目撃している。しかもかつて共演したことのあるデルタを憎からず思っている彼は、アーノルドの“不貞”を利用してやろうというほどの魂胆はないかもしれないが、とりあえず彼が困るのを見てやろうという気持ちがあるのか、おもしろ半分にイジーを推しているところもある。

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一方、オーディションに同席していた脚本家のジョシュア(ウィル・フォーテ)はイジーの魅力に一撃され、すぐに食事へ誘う。強圧的で共感力ゼロなセラピスト、ジェーン(ジェニファー・アニストン)というガールフレンドのことは完全に頭の中からすっ飛んでいる。

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という五人に加えて、イジーのストーカーである老裁判官、その裁判官に雇われている老探偵という合計七人が一軒のイタリアン・レストランでいっせいに鉢合わせして、イジー以外のほとんど全員がついていた“ウソ”が暴かれたり、アーノルドが各地で“救いの手”を差し伸べた“元コールガール”たちがまたお約束通り、絶妙のタイミングで姿を現し、“恩人”の立場をますます危うくしていったりする。

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そんな具合に、無邪気で強く圧倒的な魅力を放つ女の子イジーを中心とした人間関係の渦が、大人たちがすました大人面の下に隠してきていたものをすべて表に引きずり出し、各所に溜まりに溜まっていた“ムリ”を解きほどき、一時の“大混乱”を経て全員がそれぞれに“ラク”な状態を見つけてそこに収まるという、真のセラピー的効能を波及させるのである。

そんなお話が小気味よく皮肉たっぷりに展開され、とにかくプーツの姿は目に優しいし、楽しいとしかいいようのない映画である。

公開情報

(C)STTN Captial,LLC 2015
12月19日(土)、よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMA他全国公開!