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“食人族映画”のしかけ

イーライ・ロス『グリーン・インフェルノ』

文=

updated 11.27.2015

昔は密林といえば“人喰い人種”が住んでいて、いたずらに彼らの土地に彷徨い込んだ“文明人”はたちまち捕まって両手足を棒に結び付けられ、生きたまま背中から焼かれて喰われるのだというイメージを誰もが持っていたし、そのイメージの上で数々の“食人族映画”を見たものだった。

そういう映画には強烈に惹きつけられたが、幼年時代に旅したアマゾンのジャングルで実際に見た、写真を撮らせたり民芸品を買わせたりする観光客向け“裸族”のウソくさくしょぼくれた姿もまた、頭の中には消えないまま存在している。よく考えると、あの彼らのウソくさい姿があったからこそ、“ホンモノ”はヤバイはずだという思い込みが生まれ、それが“食人族映画”の魅力を磨き上げていたのかもしれないといま気づいた。

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周知の通りここ数十年の間、そうした“偏見を助長”する映画は流行らず、いつのまにか見かけないジャンルと化していたのを、イーライ・ロスが蘇らせたというのが今作なわけだ。もちろん、ただ闇雲に昔のままをやったのでは企画として成立するわけもなく、ここでは、“食人族映画”を封印してきた文化相対主義を基礎に置く自然保護運動の過激な、しかも今日的な推進者たちを主人公に据えることによって、“下劣なグロテスク趣味”の上に、現代文明批判のヴェールをかけてある。なかなかに巧みな仕掛けである。

その視座の中には、“未開部族”から国連に象徴される“国際社会”、エネルギー資源を狙う大企業に買収された腐敗官僚などお馴染みの図式からソーシャル・メディアによって束ねられた“大衆の視線”までもが用意され、その中で“食人族”ジャンルの物語が展開される。  そのため当然のことながら、容れ物の部分がかなりデカイ。言い換えるならば前段の手続きが長い。いつになったらジャングルに行くのかと思うくらいなのだが、最終的には、すべて必要なものだったのだと納得することができるだろう。いずれにせよ、もはや「未開部族のドキュメンタリーを撮りに行ったらヒドイ目に遭った」というだけでは映画を作れないのだから仕方がない。

さて、そんなわけでヒロインであるジャスティン(ロレンツァ・イッツォ)はニューヨークの大学生で、父親は国連に関係している弁護士である。折しも、キャンパス内では“過激な慈善グループ”がハンガーストライキをしている。ジャンスティンはそれをうさんくさいと感じるが、リーダーであるアレハンドロ(アリエル・レビ)の持つ乱暴なカリスマ性もあって、グループに少しずつ惹きつけられてゆく。そしてついには、ペルーのジャングルに住む一部族を危機から“救う”ための“実力行使”に参加することとなる。

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森林伐採の現場に乗り込み、ソーシャル・メディアを介した“中継”と、“アメリカ人学生”という自らの身体を盾に、“世界の視線”の力によって作業を中断させるという作戦は、きわどくも成功する。だがしかし、帰路、学生グループの乗ったセスナ機は墜落し、生き延びた一団には、“救ってやった”はずの部族によって喰われるという皮肉な運命が待っていた、というのが筋書きだ。

主人公たちを襲う“部族”の連中は、たしかに、かつて見た“食人映画”を思い出させる“リアルさ”を持っている。30年以上前に見た、観光客相手の“土人”よりも数段獰猛に見える。それもそのはずロスらは、これまで足を踏み入れたどの撮影部隊よりも奥地へとアマゾンのジャングルを突き進み、その先で出会った一部族をまるごとエキストラとして雇用したというのだ。映画を見たこともなかった彼らにいきなり『食人族』(81)を見せ、“理解”を得た上で撮影に入ったという。

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ついでに撮影中は、彼らが通常一日で稼ぐ額の20倍の日当を支払い、引き揚げる時には村の学校のためにキッチンを作り、CDプレイヤー、デジタル・カメラ、MP3プレイヤーを寄贈してきたのだと、プレス資料に掲載されていたインタヴューで、ロスは得々として語っている。やっぱり正真正銘のボンクラである。劇中の活動家アレハンドロとやってることは変わらんじゃないか。

同じジャングルで次回作も計画しているらしい。ならばこの調子でぜひ“土人”を“文明化”しつづけてもらいたい。しまいには彼らの“文化を破壊”したことで怒りに触れてしまい、イーライ・ロス組全員が喰い尽くされる。ところが数ヶ月後、彼ら自身が与えた機材を使って“土人”たちがその一部始終を撮影していたというフッテージが救助隊によって発見され、それをヘルツォークが編集して一本の映画に仕上げるということになったりしたらものすごく見たいな、と妄想が広がるではないか。そのくらい楽しい映画ではあります。

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公開情報

(C)2013 Worldview Entertainment Capital LLC & Dragonfly EntertainmentInc.
11月28日(土)新宿武蔵野館ほか全国公開
配給:ポニーキャニオン