『サプライズ』(13)は、両親の家に集まった家族たちが一人ずつ殺されていくという、ミヒャエル・ハネケ『ファニー・ゲーム』(97)というより、近年よく見るタイプの「郊外ないし別荘地で起こる無意味な取りすがりの殺人」もの以外のなにものでもなく幕を開き、既視感たっぷりなのだがそれでも退屈はさせず、しかもある瞬間から「なるほどこれがホントの“サプライズ”だな!」と邦題の妙に哄笑してしまうという映画だった。ジャンルのことを良く知っていて、しかも直球を投げることにためらいのない、爽やかで好感度の高い作品である。
製作順としてはそれよりも前にあたる『ビューティフル・ダイ』(10)はといえば、刑務所を脱獄し人を殺しながら旅を続ける猟奇殺人者とその元カノという、これまた何十本となく映画その他で見てきた物語設定だったので、『サプライズ』同様の直球スタイルなのかと思いきや、すべてのショットがボケから始まりボケに終わるというアート映画志向の審美的な撮影スタイルであった。しかも、殺しの度にヘンに内面をあふれ出させるメソッド演技な連続殺人鬼という具合に、“ジャンルもの好きなシネフィル”という馬脚が現れすぎていると反射的に思わされるのだがあにはからんや、実はその“内面”というのが物語のポイントで、映像スタイルはそこから注意を逸らすための仕掛けでもあった(にちがいない)というラストにいたり、ジャンル教養に裏打ちされたその隙のない積み上げっぷりに膝を打った次第。実際、この映画の猟奇殺人鬼は、レクター博士の遠い親戚といった魅力すら獲得していたのだった。
さて、この『ザ・ゲスト』である。タイトルの通り、謎の「客」が訪れ事件が起こるという、いつもながらの昔懐かしい設定である。
ピーターソン一家は、イラクで長男を亡くしている。そこへ、長男の戦友を名乗るデイヴィッド(ダン・スティーヴンス)が訪れる。母親ローラ(シーラ・ケリー)は動揺するものの結局彼を招じ入れ、長男の部屋に泊まらせることにする。帰宅した父親スペンサー(リーランド・オーサー)は正体の知れない男を自宅に宿泊させることに反対するが、瞬く間にデイヴィッドが気に入り、一泊といわず除隊後の身の振り方が決まるまでしばらく滞在するようにと説きつけてしまう。
こうしていつのまにか家族の一員のようにしてひとつ屋根の下で生活を始めるデイヴィッドは、当初は家族の強い味方として行動する。たとえば、次男ルーク(ブレンダン・マイヤー)をいじめているグループの連中はこっぴどく痛めつけ、目をつけられないための方法として「徹底的にやり返す」ことを少年に教えたりする。あるいは、高校生の長女アナ(マイカ・モンロー)には、無職で年上のボーイフレンドに関して親身なアドヴァイスを与えたりもする。
ある時点まではその展開が続き、森田芳光版『家族ゲーム』(83)における松田優作を思いだしたりもするだろう。しかし、デイヴィッドの不審な姿を目撃したアナが、兄の所属していた部隊に問い合わせの電話をかけたところからがらりと雰囲気は変わり、一挙に80年代ガン・アクション風の展開がはじまる。そして最後には、『ハロウィン』(78)や『13日の金曜日』(80)の系譜にある不死身の殺人鬼ものとして幕を閉じるのである。
要するに今回もまた、あるひとつのジャンルから出発し、次から次へとその皮を脱ぎ捨てながら好きなものを恥ずかしげもなく露骨に、その上ジャンル教養の持ち主にもそうでない観客にも受け入れられるようなやり方で展開してみせるという、汎用性の高い娯楽映画として成立していたのであった。もちろん小粒の作品ではあるし、決して前作までを遥かに上回る力量で迫ってくるわけではない。だが、普通に面白いだけ、ということにはなにも文句はない。とはいえ、いろいろとやり口を披露してきてだいぶ観客の期待値も上がってきているだろうから、次はどう出てみせるのか。ひたすら横スライドを繰り返してゆくのもよいし、別の次元にジャンプするのもよいだろう。まあ、個人的にはもうしばらくこんなことを続けていてもらいたい気がするが……。いずれにせよ、次作も見ることになるのは間違いない。
公開情報
(C) 2013 Adam David Productions
R15+
11月8日(土)より、シネマサンシャイン池袋他にて公開!
配給:ショウゲート