メイン_r「ジャッジ  裁かれる判事」

可笑しくもあるし身につまされもするホームドラマ

デイヴィッド・ドブキン『ジャッジ 裁かれる判事』

文=

updated 01.16.2015

ここのところの日本では、「母娘問題」、「毒母」のキーワードが前景化しているわけだが、伝統的には親子問題といえば、旧約聖書の昔から「父息子」関係が物語の中心にあったものだった。絶対的に強い父親と、その父親の承認を得られないことで精神的に彷徨いつづける息子。ここで語られるのは、そういう古典的なお話である。

厳しい判事として、アメリカ中西部の小さな田舎町の法廷に42年間君臨し続けてきた父親(ロバート・デュヴァル)。法廷では“大岡裁き”なみの判決によって、住民たちにとっての「最善」を追求している。まさに、町にとっての「父」そのものの存在である。

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彼には三人の息子がいる。長男グレン(ヴィンセント・ドノフリオ)は、かつてプロの野球選手として将来を嘱望されたにも関わらず、交通事故によってその道を絶たれたまま凡庸な人生を送っている。問題児であった次男ハンク(ロバート・ダウニーJr)は、今や大金を稼ぎ出す弁護士として大都市で華々しく活躍している。そして知能に軽度の障害を持つ末っ子のデール(ジェレミー・ストロング)だけが、実家に父と共に住んでいる。

ハンクは父親を嫌い故郷を避けてきたが、母の葬儀に参列するため仕方なく帰郷する。そこで、ある事件が起こる。あろうことか、判事である父が逮捕されるのである。容疑は、ある元犯罪者をひき逃げし、死に至らしめたというもの。証拠はすべて判事の仕業であることを示している上、彼には「まだらぼけ」の疑いもある。ハンクは弁護人を務めようとするが、父は理不尽にもそれを拒絶する……といった具合にしてこの映画は展開される。裁判のなりゆきは、ハンクが父の承認を得られるのかというお話と重なり合い、事件の核心は、真実のところ父はハンクに対してどのような気持ちを抱いていたのかという点に触れてゆくことになる。

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息子たちにとっての父親は、法廷内での判事から公正性を差し引いた、ただひたすら理不尽なまでに強権的で抑圧的な存在である。息子たちに敬意を払わせることはあっても、好かれようという気はない。愛される役割はすべて母親に任せてきたというより、母親による「優しさ」の補完によってようやく成立していた家族だった。そして裁判はまた、「判事」が町にとって「父親」であったという事実を、ネガティヴなかたちで顕在化させてもゆくだろう。

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派手な謎解きやどんでん返しをいっさい狙わず、ひたすら手堅く主要登場人物たちの造形と回収につとめてゆくという脚本だが、ロバート・ダウニーJr、ロバート・デュヴァル、あるいはビリー・ボブ・ソーントンといった俳優たちの放つ華によって、映画全体が地味に陥ることはいっさいない。物語の構造を巧みに視覚化し、可笑しくもあるし身につまされもするホームドラマとして、高い完成度に到達し得ているといえるだろう。

ただ一点、ここで発生する「殺人」を巡る「倫理」の扱われ方(あるいは扱われなさ)はいかにもアメリカ的であり、それだけが少し違和感ないし薄っぺら感を残すかもしれない。とはいえ、それは映画を楽しめなくさせるほどのものではない。

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公開情報

(C) 2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BVI)LIMITED,WARNERBROS.ENTERTAINMENT INC.AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
1月17日(土)新宿ピカデリー他全国ロードショー
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配給:ワーナー・ブラザース映画