Disney's TOMORROWLANDFrank (George Clooney)Ph: Film Frame©Disney 2015

“輝かしい未来”との接続

ブラッド・バード『トゥモローランド』

文=

updated 06.03.2015

1955年に作られたディズニーランドの中にある〈トゥモローランド〉には、その当時の未来観が封じ込められている。その後も新しいアトラクションが導入されることで絶えずアップデイトされてきたが、当時から存在する建造物などの基本的な意匠にはいわゆる“輝かしい未来”の手触りが今でも感じられる。時流に合わせた増築や改変など必要ないのにと、ディズニーランドを訪れるごくまれな機会にはいつでも思う。

Disney's TOMORROWLAND Casey (Britt Robertson)  Ph: Film Frame ©Disney 2015

幼少期の記憶を探ってみると、たぶん7才くらいにはなっていたと思うが、椅子に座ってロケットの中に吸い込まれていくという、宇宙旅行を光と音で表現したとおぼしき、今考えるとかなりサイケデリックな体験をさせるアトラクションがとてつもなく怖かったことを思い出す。そのころは〈ホーンテッドマンション〉も怖くて顔を上げられなかったものだが、それは怖がらせるために作られたものなのだからしかたがない。ではなぜそうではないこの〈トゥモローランド〉のアトラクションが怖かったのかといえばとても単純な話で、われわれの乗った椅子はまずロケットの足下に吸い込まれていくのだが、そのロケットの先端部を見ると椅子と客たちが小さくなって中空に消えていくように見えたのだ。もちろんそう見えるようなかたちでミニチュアが動いていたに過ぎないのだろうが、「小さくなりたくない」と暴れた。まあ要するに、強烈なわくわくと恐怖を同時に感じさせてくれるくらいに、〈トゥモローランド〉は本物だったわけだ。

しかしながら、そこで夢想されていた未来がやってこなかったことをわれわれは知っている。いまや“輝かしい未来”の風景が陳腐化して久しく、われわれをわくわくさせるのは、文明の終わった後にやってくる荒涼とした景色だけとなってしまった。

いや正確には、“あの頃の輝かしい未来”はいまでもわれわれをわくわくさせる。前述のとおり、その証拠は〈トゥモローランド〉を訪れるときに感じる微かだがたしかな興奮なわけだが、それが絵空事であることを知っているわれわれは反射的にそれを抑圧するようになった。ひとことでいえばこの映画は、そんな風に分裂したわれわれの“未来”をひとつにまとめ上げる物語といえる。

Disney's TOMORROWLAND Frank Walker (George Clooney) Ph: Film Frame ©Disney 2015

1964年のニューヨーク万博を、発明少年フランク・ウォーカーが訪れるところからお話ははじまる。反転した『不思議の国のアリス』よろしく、謎めいた美少女アテナ(ラフィー・キャシディ)に導かれて〈イッツ・ア・スモール・ワールド〉に潜り込むと、突如テクノロジーと光に充ちた〈トゥモローランド〉が目の前に出現する。

というのはプロローグで、物語はすぐに現代へと飛ぶ。そこはわれわれの住む世界であり、つまりは様々な災厄によって“輝かしい未来”の失われた世界である。高校生のヒロインであるケイシー(ブリット・ロバートソン)だけが、その中にあって異常なまでに前向きに生きている。一方的に前向きなだけの少女など鬱陶しいだけだが、彼女の場合はその度合いがいささか過ぎていて、小さな“破壊活動”を日課とする “テロリスト”でもあるところがたちまち好感を持たせるだろう。シニシズムの進行を具体的に食い止めようとひとり闘いを続けているのだ。ことほど左様に、われわれ観客が基本的にせせら笑いを浮かべながら眺めていることを完全に意識しながら、映画全体が作り上げられている。

Disney's TOMORROWLAND Casey (Britt Robertson)  Ph: Film Frame ©Disney 2015

さて当然のことながら、ケイシーもまた〈トゥモローランド〉の存在を知ることになるが、そこへ辿り着こうとする過程で孤独な中年男(ジョージ・クルーニー)と化していた冒頭のフランク少年と出会い、〈トゥモローランド〉がなぜどんな目的のためどこに作られたのかということから、その後どうなってしまったのかという現況にいたるまでが徐々に明かされてゆく。そしてついには、シニシズムに支配されたわれわれの世界が、ほんの少しずつ〈トゥモローランド〉と接続されるのだ。ミヒャエル・エンデ『はてしない物語』の構造を想起されたい。

〈トゥモローランド〉には、“リアルな科学考証”とは関係のない、「こんなのがあったらいいなあ」と夢想しながらわれわれが落書き帳に描きつけていたようなテクノロジーや風景が次から次へと出現する。それを見ただけでも、かつて一度でも“輝かしい未来”に胸躍らせた経験を持つ人間ならば、落涙を禁じ得ないだろう。しかも、それがいまでも失われていないというのだから……!

Disney's TOMORROWLAND Casey (Britt Robertson)  Ph: Film Frame ©Disney 2015

公開情報

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6月6日(土)全国公開
配給表記: ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン