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身体に触れてくるモノ

白石晃士『ボクソール★ライドショー 恐怖の廃校脱出!』

文=

updated 01.14.2016

お化け屋敷は大の苦手で、なにがどこから出てくるとかおおかた予想がついて、しかもそれがほとんど当たっていても、本当にコワイ。映画のスクリーン上でなにが起こっても平常心を保っていられるのだが、それがちょっとでもフレームを越えてこちら側にやってくると、とたんにギャッと悲鳴があがってしまうのは同じ理屈だろう。かつてディズニーランドで上映されていた『ミクロアドベンチャー!』を見た時でさえ、足もとをちょろりとネズミかなにかが走り抜けるというシーンで、パサリとジーンズの裾に触れるものがあっただけで、思わずヒヤッと両膝が飛び上がった。その瞬間、映画がお化け屋敷になっていたのだ。

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先日はじめて4DXを体験したのは、『ウォーキング・デッド』シーズン6の第一話を見た時のことだったが、上述のようなていたらくなので、「TVドラマを急ごしらえで4DX化しただけなのだから」と自分をなだめなつつ、どんな目に遭わせられるのかとけっこう緊張したものだった。もちろんはじまってしまえば、なるほどと楽しむ気持ちが生まれて、ゾンビが撃ち抜かれるたびに顔面に飛び散る冷たい液体だとか、ゾンビが刺されるのに併せて背中をグイと押される感覚なんかを堪能することができた。化学的なイヤな匂いだけはほんとうに閉口したが、これが有機物の腐る匂いだったらもっとイヤだろうとは思った。

そんなわけで、この『ボクソール★ライドショー』を見たときには心の準備ができていた。尺も『ウォーキング・デッド』の一話分より短い25分。乗り切れるはず。だがしかし、なにしろ「4DX専用作品」で、作り手はPOV(主観カメラ)職人とも呼ぶべき白石晃士である。POV職人ということはつまり、体験そのものとしての映画をとことん追求してきた男である。それがとうとう4DXのシステムを通して、観客の身体にまでその手をのばして揺さぶりをかけようというのだ。これは油断するとマズイという気持ちは消えなかった。

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果たして、たしかに映画の内容としてはお馴染みの白石モチーフが続出し、いろんな意味で安心して眺めていられるものだったのだが、やはり4DXぶりがハンパなかった。もはやこのまま一回転するのではないかと思うくらいシートは乱暴に揺れまくり、吹き出した煙は劇場を満たし、背中はイヤってほど突っつかれるし、そこら中泡だらけになったかと思うと全身ずぶ濡れになりそうなほどの水が降りそそいだ。気づくと、前列のシートから噴出する細い水柱まで見えたくらいのものだ。

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とはいえ、当然のことながら全効果をのべつまくなしで全開にしているわけではない。緩急の呼吸があるからイヤなのだ。突如ググッとシートが揺さぶられたあと静寂がやってきたりすると、シート同士をつないでいるチェーンが、キーコキーコキーコといつまでも鳴り続ける。あの音を計算していたとは思いたくないが、ああいう瞬間には、4DXという枠組みをも乗り越えてなにものかが身体に触れてきたという感覚があって、特にゾッとさせられた。

この作品が最初の実験ということなのだろうから、どんどんやり口を進化させて4DX専用映画を作っていってもらいたいものだ。

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◎公式HP: http://4dxmovie.jp/

公開情報

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1/16(土)より、ユナイテッド・シネマ他にて全国ロードショー!