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ツボと深度

アダム・ウィンガード『ブレア・ウィッチ』

文=

updated 12.03.2016

たしか1998年夏のことだったと思うが、取材ではじめて会ったホラー作家のジャック・ケッチャムと話しているときに、「面白そうな映画がある」と話題に上ったのが『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(99)だった。「森に入った若者たちが行方不明」というようなチラシがNYでもばらまかれていて、そのためのウェブ・サイトも立ち上げられているという話だった。もちろんそれが「フェイク・ドキュメンタリー」スタイルの映画を盛り上げるための前宣伝であることはだれもが承知していて、ケッチャムも「なかなか良いアイディアだよな」と笑っていた。

たしかに、「古い伝説を取材するため森の中に入った若者たちが行方不明になり、その様子を撮影したヴィデオ・テープだけが発見された」というのは、とてもシンプルにホラー好きの心をくすぐるものだった。テープが発見されたのはクルーが姿を消して一年後という設定なので、公開前年の夏に「行方不明」のチラシがばらまかれるのも、スジが通っていた。

結果としての映画はご存じのとおりで、中盤までなかなかに盛り上げてくれるのに、最後までほぼなにも起こらないで終わるという究極の雰囲気ものだった。それで誰もが憤慨して「オレならこうする」という改良案を披露したりしたわけだが、もちろん公開前から醸成されていたものも含めて雰囲気だけであそこまで持っていった者勝ちということではある。その時点で、もはや作品だけで語っても意味のない映画になっていたのだ。

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だいぶ経ってからひっそり公開されたという印象のある『ブレアウィッチ2』の日本公開が2001年であることを先ほど確認し、少し驚いた。第一作からほんの2年しか経っていなかったのだ。それにもかかわらず、「今ごろ続編が」という印象がとても強かった。結局第一作を作ったダニエル・マイリックとエドゥアルド・サンチェスの意に沿わないまま製作されたものだったともされ、特に話題になることはなかった。試写室で「お祓い」が行われたことだけを覚えているが、結局呪いは祓えなかったということになるのか。

さて、「正統な続編」であるとされるこの『ブレア・ウィッチ』だが、アダム・ウィンガードによって監督されている。ウィンガードといえば、『サプライズ』(11)や『ザ・ゲスト』(14)を見ている限り、うまくツボをおさえてくる作り手のひとりである。

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当然のことながらもはや「虚実のあわい」をいこうという意図は最初からないのだが、ひとまず「フェイク・ドキュメンタリー」スタイルという基本には立ち返っている。20年前に行方不明となったヒロインの弟が成長し、ある日偶然見つけたネット上の映像を手がかりに、姉の消息を求めて再び「あの森」に足を踏み入れる。それを映画学校の友人がドキュメンタリーに収めるべく同行するという設定である。

ただし、撮影機材はもはや20年前とは比にならない。メイン・カメラはハンディ・カムではなく一眼レフ・カメラだし、仲間たちの頭部にはウェアラブル・カメラが取り付けられているのみならず、空撮のためのドローンまでもが持ち込まれる。ドローンのGPSとハンドヘルドGPSがあれば、いくら「魔女の森」でも迷うはずがないという装備なのだ。

結論からいってしまうと、展開としての「疑似真実性」を追求する必要がなくなった分、第一作にはなかった物語展開の深度は加えられていたが、だからこそ、おそらくオーソドックスな劇映画としてウィンガードに思う存分撮らせていた方が、ホラーとしてもっと面白い作品になっただろうという印象が残った。

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だからといって楽しめないというわけではない。きちんといろんなことが起こる。物語には起伏があり、クライマックスでは盛り上がる。面白かったのは、第一作に関してなされていたあるホラー脚本家の提言が、そのまま取り入れられたように見えるシーンがあったということ。まさか作り手たちが、公開当時に刊行された日本語の関連ムックまで読んだとは思えないのだが。

公開情報

Ⓡ&© 2016 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
12月1日(木・映画の日)TOHOシネマズ 六本木ヒルズ ほか 劇場震撼。
公式サイト: http://www.blair-witch.jp/