GREEN ROOM

素っ気なさと滑稽さ

ジェレミー・ソルニエ『グリーンルーム』

文=

updated 02.11.2017

トウモロコシ畑の真ん中に、おんぼろのバンが停まっている。前夜の騒ぎが匂い立つような車内で、ひとりまたひとりと目を覚ます。消えない耳鳴りと二日酔いと睡眠不足からくるめまいによって、早朝の静寂は耐え難く汚されているに違いない。だがそれもまた、彼らの日常に過ぎない。

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ヴォーカルのタイガー(カラム・ターナー)、ギターのサム(アリア・ショウカット)、ベースのパット(アントン・イェルチン)、ドラムのリース(ジョー・コール)は、地方の小さなイベントに端金で呼ばれては演奏をする無名のパンク・バンド、エイント・ライツのメンバーである。昨日もどこかに呼ばれてそのまま飲んだくれ、いつのまにか路上で立ち往生していたというわけだ。

はるばる出かけてみたのに、話が違うということもままある。それでも、往復のガソリン代すら捻出できないのでは帰るに帰れない。そういうなりゆきから、怪しみながらも山奥のきな臭いライブハウスへと辿りつく。

きな臭いというのは会場がネオナチ風のスキンヘッドだらけで、一触即発の暴力が充満しているように感じられるということだ。だがエイント・ライツとてパンクの端くれ、そういう空気に刺激されて奮い立つところもあり、デッド・ケネディーズ「ナチ・パンクス・ファック・オフ!」をがなり立てる。観客の中にはそのせいでいきり立つ者もいたようだが、どうにか無事に演奏を終える。

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あとは精算を済ませて撤収するだけという段になって、楽屋でウソみたいにあっさりと人が殺される現場を目撃してしまう。当然4人は監禁されることになり、殺された女の友人であるアンバー(イモージェン・プーツ)と共に脱出の道を探すはめになるというのが、この映画の導入部である。

ライブハウスのオーナーであるダーシー(パトリック・スチュワート)が呼び込まれ、その一声によって大量のスキンヘッドたちがかき集められる。狭い楽屋に立てこもる5人に対して、当初は硬軟交えて説得工作が行われるが、山奥にやってきた彼らの行き先を知る者が外の世界にいるはずもなく、降伏しようがしまいが彼らが殺害されることは目に見えているという状況だ。

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前作というか今作に接してみるともはや習作と呼ぶほかない『ブルー・リベンジ』(13)でも見られた、素っ気なさと滑稽さの入り交じった即物的で容赦のない暴力描写のセンスが存分に発揮されている。そもそも、倦怠感たっぷりの冒頭シーンからして『ブルー・リベンジ』の数倍の魅力を獲得していたが、暴力の展開においても前作とは比べものにならないほどの強度とリズムに達しているのだ。

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ことほどさように、ありとあらゆる細部の照準がピタリと物語展開の上に定められ、一ミリもブレることなく映画を衝き動かしてゆく。もちろん、自身の体験にも支えられた「バンド生活」に関するディテイルの持つリアリティもまた、映画全体のネジを締めていることは明らかである。

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加えて、ダーシーのカリスマに駆り立てられる弱々しい子分ゲイブ(メイコン・ブレア)や、なにもわからないまま主人公たちに向けてけしかけられるスキンヘッドと猟犬たちの姿には、トビー・フーパーによる『ファンハウス/惨劇の館』(81)に登場する化け物たちのもの哀しさ通じるものすらあった。「生え抜きのジャンル映画」を標榜するソルニエのことだから、無関係ではないだろう。くやしいまでに良くできた映画である。

GREEN ROOM

公開情報

© 2015 Green Room Productions, LLC. All Rights Reserved.
2017年2月11日(土)より、新宿シネマカリテ他にて全国順次ロードショー