周知のとおりソダーバーグは、26才の時に初長篇『セックスと嘘とビデオテープ』(89)でいきなりカンヌ国際映画祭のパルム・ドールを受賞したものの(あるいは受賞したために)、そこから10年近くの間、背反する「商業」と「やりたいこと」の狭間でもがきつづけ、1998年の『アウト・オブ・サイト』によってようやく本人のいう「アートハウス・ゲットー」から脱出できたという作り手である。
そして、高いエンターテイメント性を持ったクールでかつ収益をあげられる作品を撮れる監督という地位を確立してからもなお、「やりたいこと」系の作品をけっこうな本数撮り続けている。いや、そのこと自体がスゴイのではない。「やりたいこと」系においても(すべてではないものの)「アーティスティックなてすさび」とはハッキリ一線を画す、成功した商業監督でなければできない作品を生み出すことに成功している点において、信頼できる男なのだ。
たとえば『マジック・マイク』(12)では、「やりたいこと」と「商業性」の二項対立が止揚されている。「アート作品」ではなく、総体としてはあくまでも間口の広い「娯楽映画」だが、『オーシャンズ11』(01)シリーズ同様の「完全なる商業エンターテイメント作品」とは決していいきれない手触りを持つことに異論はないだろう。今作もまた同じ系譜の中にある、とまずはいうことができる。
貧乏白人一家の長男ジミー(チャニング・テイタム)は、フットボールのスター選手にもなりえた高校時代を過ごしたが、膝を壊したことから人生を転落、元妻(ケイティ・ホームズ)に愛娘の養育権を取られ、まじめなのに仕事がなかなか安定しない。イラクで左腕を失った弟のクライド(アダム・ドライヴァー)は、いかに彼らローガン一家が運に見放されているかと嘆く以外の話題を口にできない。クライドのぼやきには辟易しつつも、それを事実として否定できない口惜しさを嚙みしめるジミー。だがある日、ふとした思いつきが訪れる。それが、NASCARのレース会場に集まる現金を強奪するという計画である。
二人の妹であるメリー(ライリー・キーオ)が計画に加わり、爆破のプロであるジョー・バング(ダニエル・クレイグ)に声がかけられ、そこからバングの弟ふたり(ジャック・クエイドとブライアン・グリーソン)も呼び込まれることとなり、強奪チームが完成する。貧乏白人版『オーシャンズ11』である。
この映画の資金調達には、ハリウッドのメジャー・スタジオがかかわっていないのだという。米国内の配給も、ソダーバーグ自身の会社がおこなっている。このいわゆる「インディペンデントな映画製作」を成立させるため、一般的なインディーズ系作品では見かけないスターたちが数多く出演している。
彼らの出演はもちろん、これまで築いてきたソダーバーグのキャリアによって可能になったものにほかならず、そういう意味でも、彼においては「やりたいこと」と「やりたい方法」、そして「できること」が三位一体となっている。かくて、「ハリウッドのあたりまえな映画作りに一矢報いる」ことができた、ということに相成るのだ。この映画の成立と主人公たちの「冒険」とは、ある程度以上の相似形を成しているとすらいえるのだろうか。
悪意を持った人間は登場せず、それでも犯罪は成功し、しかも傷つく人間がほとんどいないという、なかなかに気持ちのいい物語でもあった。
公開情報
11月18日(土)より TOHOシネマズ 日劇ほかにて全国ロードショー
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