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ひろげた風呂敷の上で

M・ナイト・シャマラン
『スプリット』

文=

updated 05.15.2017

今さら指摘するまでもないことだけど、シャマランの真髄は「意外なラスト」にあるのではなく、ベタなネタをベタなまままっすぐ貫き通す腕力にある。ベタなままというのがすこし曖昧ならば、最初に自分で設定し観客に見せたルールというか世界観をひっくり返すことなくそのまま展開する力といってもいいだろう。前作『ヴィジット』(15)ではその力がホラー方向で発揮されたため、「シャマランが還ってきた」と歓ばれた。その“腕ならし”を経て、“本番”と呼べる規模と強度を存分に展開して見せるのが、今作である。

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仄暗い過去を感じさせる女子高生ケイシー(アニヤ・テイラー=ジョイ)は、クラスの人気者クレア(ヘイリー・ルー・リチャードソン)の誕生パーティーに気乗りしないまま参加する。案の定居心地の悪いまま帰宅することになるのだが、その途上クレアともう一人のクラスメイト、マルシア(ジェシカ・スーラ)と共に、何者かによって拉致される。

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意識が戻ると、三人は密室に監禁されている。やがて姿を現したのは、見るからに変質者という雰囲気の男(ジャームズ・マカヴォイ)である。ところが一度退出した後、今度は女装姿で戻ってくる。話し方も雰囲気も、先ほどとまったく異なる。さらにその次に姿を現したときには無邪気な笑顔を見せて、自分は9才で名前はヘドウィグだと話す。

いわゆる多重人格ネタなのだ。解離性同一性障害を持つケヴィンという男の中には、23の人格が潜んでいるという。性別、性格、精神年齢にいたるまでさまざまで、彼らの間には主導権争いが存在する。

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ここまで見れば、主人公がこれらの人格とどう渡り合っていくのかという話になることは、想像がつくだろう。カギとなるのは当然ヒロインのケイシーで、どうやら彼女だけは幼少期の体験から、こうした極限状況に対処する冷静さと智慧を身につけているように見える。言葉巧みにヘドウィグを手なずけ、説得し、活路を見いだそうとまでするのだ。物語が進むにつれて、ケヴィンの過去も、ケイシーの過去も、少しずつ明らかにされてゆく。

さて、これが“驚かし”に頼る凡庸な作り手であれば、観客の期待を十分に積み重ねたところで、たとえば精神分析上のハズシの仕掛けなんかをほどこすところなのだろうが、シャマランはそういうよけいなことはしない。

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自分のひろげた風呂敷の上でとことんストレートに、どこまでも加速してゆくのである。たしかにそう進まなければいけないとだれもが納得する唯一の方向にだけひたすら突き進み、ケイシーら三人は希望と絶望の間を激しく揺れ動くことになる。だがその先で、大方の予想をほんの一段だけこえてみせる。そこにシャマランの醍醐味がある。

もちろんシャマラン・ファンであれば、早々から「あれ? これって……」と疑い始めるだろうし、その疑いは正しい。だが、予想がついたとかつかなかったとかいう問題ではない。そこまで駆け抜ける脚力と、道行きを阻む障害物を次々クリアする腕力と、こんなネタと真正面から取り組む根性には、素直に感動せざるを得ないのだ。

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公開情報

5月12日(金)全国公開
配給:東宝東和
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