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『ど根性ガエル』状況

アンドリュー・ニコル『ザ・ホスト 美しき侵略者』

文=

updated 06.13.2014

地球は、人類の肉体に寄生する異星人たちによって占領されている。冒頭、ヒロイン(シアーシャ・ローナン)もまた彼らに捕獲され「ホスト(宿主)」となるのだが、彼女の自我に限っては、どういうわけか意識の境界外へと追いやられることなく、ひとつの身体の中で異星人と共存生活をはじめることになる。
という本筋の展開を差し置いて、ヒロインはイケメン男子ふたりからひっぱりだことなり、どっちとキスをするとかしないとかいう話になっていく。原作はYAものだろうし、女子の欲望は結局こういう形に納まるのか。いや、男子向けのマンガでも構造は変わらないなあなどと考えながら見ていると、案の定『トワイライト』のステファニー・メイヤーの名が原作と製作にクレジットされているのであった。ただし、今回は上述のとおりひとりの女子の中にふたりの人格が納まっていて、しかもそれぞれのカップルが両思い状態となるので、厳密にいえば三角関係は発生せず、たんに不便ということでしかなかったりはする。そういう意味では、『ど根性ガエル』のような状況といえるのかもしれない。

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いや、だからつまらないということではない。もちろんSF的仕掛けに新しいモノはないが、パルプ・マガジン風レトロSF感はたっぷりで、まずはアンドリュー・ニコルを監督に据えるという目論見は正解だったといえるだろう。清潔で白く輝いている宇宙人支配地域と、ニューメキシコ州北西部に位置すると設定された人類の地下居住地のヴィジュアル。特に後者の持つ人工的な洞窟感には、かつて『スイスのロビンソン』などの漂流ものを読んだときに感じた興奮を、すこし思い出させてくれるものがある。

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また、たとえばスティーヴン・キング『ザ・スタンド』やロバート・カークマン『ウォーキング・デッド』がそうであるように、残された少数の人間が生きていくという物語では、「ルール」の模索に始まり新たな社会制度の構築が試みられるのが常なのだが、この映画では、最初に隠れ家(地下住居)を見つけた男(ウィリアム・ハート)が法律であり、共同体内においてそれ以上の議論は発生しないというのが、ちょっと面白い。そもそも、異星人占領地域では特別な法制度が不要なほど秩序がゆきわたっているわけで、近年散々語り尽くされてきたポスト・アポカリプスものの終末イメージを反転させて、ディストピアものの景色と結合させたところには、同時代的必然性があるのかもしれない。いやまあ、そんな話にかかずらっていたら、ヒロインの恋愛話に決着がつかなくなるということにすぎないのだろうが(ただし、原作でどうなのかは知らない)。
繰り返しになるが、いずれにせよYA的なメロドラマが悪いわけではない。期待の地平線上で、どう考えてもSF設定の根本を少しいじくらない限り不可能にも思える大団円にまで到達すること自体がいけないはずもない。こまかなつじつまなど気にせず、楽しければ良しという映画としては、合格点だろう。

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公開情報

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公式HP:the-host-eiga.com
6月14日、新宿ミラノ、ヒューマントラストシネマ渋谷他全国公開