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気味の悪い

ナ・ホンジン『哭声/コクソン』

文=

updated 03.10.2017

これまでほとんぞ事件らしいもののなかった田舎で、村人が家族を惨殺するという事件が続いている。凄惨な現場と正気を失った犯人。どんよりした目つきで皮膚は爛れている。人々はある噂を口にし始める。事件がはじまったのは、村はずれにあの日本人が住みはじめてからではないのかと。主人公ジョング(クォク・ドウォン)は不器用に捜査を続けるが、やがて娘の肌にも犯人たちと同じ湿疹が現れる。

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当初は“猟奇殺人”ものとして事件の展開を眺めているわけだが、そのうちにどうやら“エクソシズム”もののようであることがわかりはじめる。あるいは感染ものと“エクソシズム”ものの合わせ技だろうか。いや、これはもうハッキリと“ゾンビ”ものも混ぜてあるというシーンもやってくる。とにかく、どちらの方向へもどのくらい本気なのかわからない。なかなか手の内をさらけ出してこないのだ。

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そのうえジョングは小太りの中年おっさんだし、その彼がわが子に取り憑いているものを祓うために呼ぶ祈祷師イルグァン(ファン・ジョンミン)はうさんくさいことこのうえないし、事件の目撃者だという女ムミョン(チョン・ウヒ)も謎の日本人(國村隼)も怪しい以外のなにものでもないという具合に、だれ一人見ていて目の落ち着く美しい人間が登場しないのみならず、普通の人間がひとりも出てこないのである。

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ひとりとしてまともな人間がいないということは、「意外にも犯人はこの人間だった」式の驚かせはしないと宣言しているも同然で、そんなところにどうやってどんなサスペンスを積み上げるのだろうと待ち構えていると、果たして最後には急に、「いったい誰がホンモノの悪なのか」という一点へと向けて、サスペンスが収斂する。「真犯人はだれだ」というやつである。

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要するに、とてつもなくベタな話をものすごく泥臭く過剰に、見ているこちらが一瞬油断していたような場所とタイミングで展開して見せたということなのだが、その限りにおいてこの映画はたしかにきわめて特殊な美意識によって自律している。確信をもってそんなことをしているナ・ホンジン、結局のところなにがしたいのか。この映画の國村隼くらいに気味の悪い男である。

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公開情報

2017年3月11日、シネマート新宿他にて公開
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