The Wall Photo by: David James Courtesy of Amazon Studios

照準器の内と外

ダグ・リーマン『ザ・ウォール』

文=

updated 08.28.2017

開高健のヴェトナム戦記ものにも、マイケル・ハーの『ディスパッチズ』にも書かれていたが、たわむれにライフルをかまえてみると、ついつい銃口の先に誰か出てきてくれないかなあなんていう気分になるらしい。たぶんそうなのだろう。

ならば、たとえ鹿でもいいから銃口の先に生き物があらわれた時に引き金を引けるのかといえば、それはまた別の問題になる。ましてやそれが人間の場合、実際の戦闘状況下でも、発砲するアメリカ兵の比率は、第二次大戦まで15から20%に留まっていたという研究がある。これを朝鮮戦争では55%、ヴェトナム戦争では95%まで上昇させることに成功したのだという。もっとも、その後24%に戻ったということなので、この映画の描くイラクにおいてもそのくらいの数字なのだろうか。

The Wall Photo by: David James Courtesy of Amazon Studios

とはいえ、本作においては肝心の標的がなかなか姿を現さない。というよりも、主人公ふたりはひたすら、狙われ撃たれる標的であり続けるのだ。いつもは照準器の中をのぞき込み、ある程度以上安全な場所から敵を排除することを任務としているスナイパーふたりが、図らずもというかまんまと罠におびき寄せられ、敵スナイパーの照準内に入ってしまうというわけだ。

ひとりは撃ち倒され、息はあるものの瀕死の重傷を負って身動きがとれない。もうひとりのアイザック(アーロン・テイラー=ジョンソン)は、危険を承知でその援護に駆けつけるが狙撃され、倒壊寸前の石壁の背後に身を隠す。撃ち倒した者にとどめをささず、生き餌として仲間をおびき寄せ、駆けつけた人間をひとりひとり排除するという、スナイパーのセオリーが実行に移されているのだ。

『プライベート・ライアン』(98)でも見たシーンだ。『フルメタル・ジャケット』(87)のラストを思い出す者もいるだろう。あるいは、その原作のさらに酷薄な展開が頭をよぎるかもしれない。

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だがこの映画が興味深いのは、それが物語の終点でも通過点でもなく、かといって戦場の兵士たちの心情を追求するのが主眼でもなく、そこからとにかくサスペンスフルな心理戦が展開されるという点だろう。

The Wall Photo by: David James Courtesy of Amazon Studios

射程圏に身をさらして倒れたままの相棒マシューズ(ジョン・シナ)の命は、刻一刻と失われていく。そこへ敵スナイパーからの通信が入る。どうやら、相手は最強と怖れられているスナイパー、「ジューバ」らしい。

通信を通して敵の論理が語られ、アイザックの抱える罪責感が吐露される。もちろん、敵同士の間に心の交流が生まれるという話ではなく、言葉を介した激しい戦いがはじまるのである。

The Wall Photo by: David James Courtesy of Amazon Studios

特別意外なことやアクロバティックなことがおこなわれるわけではないが、ほぼ主人公ふたりだけが登場人物というミニマルな映画であり、ヘタをすると舞台を見ているような気分になるかもしれないと多少覚悟をしていたのにもかかわらず、それはまったくの杞憂であった。

個人的には、部分的に『バタリアン』(85)を思い出させる楽しさも感じられたと付け加えておこう。

公開情報

9月1日(金)新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:プレシディオ
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