2005年から上演されてきた同名ミュージカルの映画化作品ということになるが、この作品自体はミュージカルではない。もちろんヒット曲の数々は俳優たち自身によって劇中山ほど歌われる。だが全体としては、『グッド・フェローズ』を音楽映画にしたという趣の仕上がりとなっている。「実在のグループ“フォー・シーズンズ”の伝記映画」「ブロードウェイ・ミュージカル」といったキーワードで想像するのとはかなり違った楽しさを提供してくれるのである。しかも、これまでのイーストウッド作品の場合、自身の姿がスクリーンにない場合、映画の持つユーモア濃度がかなり低下するかゼロになる傾向があったが、今回の場合はその法則から完全に外れているのだ。
物語は、50年代初頭のニュー・ジャージーからはじまる。天賦の歌の才能を持つ16歳のフランキー(ジョン・ロイド・ヤング)は、地元マフィアの親分デカルロの寵愛と庇護を受けている。その彼をバンドに誘い込むのが、チンケな犯罪に手を染めながら場末のバーで演奏している地元の先輩格トミー(ヴィンセント・ピアッツァ)とニック(マイケル・ロメンダ)である。やがてそこに、トミーの友人ジョー・ペシ(そう、あの俳優ジョー・ペシの若き日の姿なのだ)の手引きによって作詞・作曲家ボブ(エリック・バーゲン)が参加することで、“フォー・シーズンズ”は完成する。ちなみに、15歳だったボブが参加以前に書いた「ショート・ショーツ」(『タモリ倶楽部』テーマ曲として耳馴染みのありすぎるあの曲)は、その時すでにヒット曲となっていた。
さて、「シェリー」の大ヒットと共に“フォー・シーズンズ”はスターダムにのし上がり、という風に映画は展開していくのだが、その成功は一直線に獲得されたわけではない。特に、リーダーを自任するトミーの金策によってかろうじて成し遂げられたものでもあることが示され、それがいかがわしい筋からの借金であったことが、バンドに影を落とし続けることになる。窮地に陥った主人公たちがデカルロに救われることもあるだろうし、それもかなわずメンバー離散という事態も発生するだろう。メンバーの私生活が破綻し、肉親に悲劇の発生することもあるだろう。だがすべての出来事が、歌によって回収され昇華されるという作りが徹底記に貫かれている。
この際、史実との食い違いなどどうでもいいだろう。フォー・シーズンズを知らなくてもいいし、ミュージカルに興味がなくてもいい。ましてやクリント・イーストウッドという固有名に神話性を感じる必要もまったくない。ただ単に、音楽と犯罪と笑いに充ちた面白くて楽しい映画を見たければ、損はしない。
公開情報
(c) 2014 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC ENTERTAINMENT
9月27日(土)新宿ピカデリー、丸の内ピカデリー他全国ロードショー
オフィシャルサイト:http://www.Jerseyboys.jp
配給:ワーナー・ブラザース映画