PACIFIC RIM

ギレルモ・デル・トロ監督
『パシフィック・リム』

とても誠実

文=

updated 08.06.2013

デル・トロがH・P・ラヴクラフトの小説『狂気の山脈にて』映画化を準備していると聞き、それから製作が中止されたと耳にしてからでも、だいぶ時間が経った。それが再開されてまた止まったという情報が伝わってきたのも一度ではない。そうこうしているうちに出来上がったのが、この『パシフィック・リム』である。

当初、予告編映像が流れ始めた段階では、どうやらパイロットが遠隔操作するという方式の巨大ロボットものらしいということになり、「デル・トロはわかっていない!」という憤懣の声が聞こえてきたものだった。

だが蓋を開けてみると、パイロットたちは「ヘッドポッド」と呼ばれるものの中に入った状態でロボットに搭乗するというシステムであることにひと安心。とはいえ、操縦時の巨大な負荷のため、「ヘッドポッド」に入るパイロットは二人一組でなければならなく(例外的に中国の「クリムゾン・タイフーン」には三つ子の兄弟が搭乗しているが)、しかも彼らは精神接続しなければならないという設定からは、「シンクロ率」的な概念も発生し、そこはもう少し別のものを導入してもよかったのでは、という気分にもさせられるのだった。

ただ、二人一組のパイロットのひとりがロボットの左脳を、もうひとりが右脳を司るという操縦方法は、画としては、大の大人ふたりが並んで同時に「パンチ!」などを繰り出すということになるので、結構可笑しいし、それはそれで楽しいか、という結論には至るのだが。

いずれにせよ、そんな感想はすべて予期した上で、マニアであるデル・トロ自身が、怪獣〜巨大ロボットものの要素を嬉々として、しかも細心の注意を払って丁寧にかき集めてきたということは一目でわかるだろう。

ロボット格納庫といい、太平洋からやてくる「KAIJU」たちを防ぐための堤防といい、気持ちよくそびえ立つ巨大建造物であふれかえっているし、肝心のロボットたちの身長もすべて76メートル以上(最大で85メートル)という具合に、リアル系ではなく「コン・バトラーV」系のロボットのスペックに寄せてあるところが、とても正しい。

その上で、操縦には「神経接続」、ロボットの動き自体はそのサイズと重量を十二分に反映させたリアルな手触り、という具合のアップデイトを加えてあるわけで、要するに、緻密な計算と言うよりも自らの欲望に極めて誠実、ということなのだ。単純に、情熱と呼んでしまっても良い。

そのおかげで我々も、「こういうことでしょ」式のいけすかなさを微塵も感じることなく楽しむことができるのだ。つまりこれは、見たことのある要素がちりばめられていても、決して「メタ怪獣・ロボットもの」ではない。ベタな、怪獣・ロボットものなのである。

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初出

2013.08.07 08:00 | FILMS