ONE SHOT

クリストファー・マッカリー監督
『アウトロー』

「アクション」に飽き飽きしてるなら

文=

updated 01.31.2013

さて、トム・クルーズ主演の『ワルキューレ』やジョーニー・デップ主演の『ツーリスト』などにおいて、おもに脚本家としての仕事をこなしてはいたもののなかなか監督二作目が実現しなかったマッカリーを、トム・クルーズがまたしても大抜擢したと言っても良いであろう作品が、この『アウトロー』である。

ピッツバーグ近郊の川沿いで、銃撃事件が起こる。一般人を標的として無差別に射殺したとしか見えないこの犯行の容疑者として、間もなく元米軍スナイパーが逮捕される。容疑者は黙秘を続け、ジャック・リーチャー召喚を要求した後、囚人たちの暴行によって昏睡状態に陥る。ジャック・リーチャーとは何者なのか? 容疑者との関係は? 果たして容疑者は真犯人なのか? 数々の疑問が噴出する瞬間、ジャック・リーチャーが自ら姿を現す。という具合にしてヒーローが登場し、物語が展開しはじめる。手慣れた手つきでリードとミスリードが積み重ねられ、疑問からサスペンスへ、そしてアクションを通って次の疑問へと次から次へと、見事に我々を引きずり回してくれる。オールドスクールな楽しさでいっぱいの娯楽映画である。その意味では、『誘拐犯』同様の危険さを持ち合わせているわけではないのだが、というよりもむしろ丁寧に危険さは排除され見事に一般的な娯楽映画の枠組みの中に留まり得ている。だがそれでも、『誘拐犯』を作り上げていた手触りは各所に感じることができる。

例えば極めてマッカリー的な、つまり『誘拐犯』的な構成を持つカー・チェイス・シーンの終盤において、とうとう主人公は車から降り立つ。すると、付近のバス停に居合わせた貧しい労働者階級とおぼしき男たちが、一切の打ち合わせや話し合いなく彼を手助けする。それは手助けと言うほどのものですらないのだが、その無言のジェスチャーは、『誘拐犯』における、立場を超越したある規範の共有と同じ種類のものであると言えるだろう。もちろん、クライマックスで展開される襲撃シーンでは、長距離狙撃における緻密な計算に基づく緊迫感もまた、存分に展開されている。

 

ことほど左様に、すべてを自分好みの要素で染め上げた処女作『誘拐犯』に詰め込んだもののいくつかを取り出し、原作もののもつ強固な骨組みの中で自在に展開してみせたのが、『アウトロー』ということになる。当然ながら、これはトム・クルーズによってマッカリーに課せられたある種の試験でもあったに違いない。その試験をパスしたマッカリーは、先日『ミッション:インポッシブル5』の監督として名を発表されていた。凡百の「アクション超大作」における「アクション」に飽き飽きしている観客以上に倦みきっているトム・クルーズにとって、それは救いの光でもあるはずだ。

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『アウトロー』
2月1日(金・映画ファーストデー)より
丸の内ピカデリーほか全国公開
© 2012 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
オフィシャルサイト http://www.outlaw-movie.jp/

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初出

2013.01.31 10:00 | FILMS