最良のアレクサンダー・ペインの作品は、受け止めにくい。共感の枠組みの中にすんなりと収まらない。つまり、なんらかの教訓を引き出しにくい。とはいえ、過激なことをやろうという自意識が前面にあるわけでもない。ただ、収まりきらないその余剰部分こそがこの世界の手触りであり、それが彼の映画を支える必然性となっている。 その手触りが感じられなければ、「普通に良い話」でしかない。それが悪いわけではない。なぜなら、そちら側にぐっと身を寄せたのが『アバウト・シュミット』(02)や『サイドウェイ』(04)であり、それを素直に受け止めた観客によってペインの映画は支えられているのだろうから。
だがもっともペインらしい、例えば『ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!』(99)は、生徒会長を目指す女子生徒とそれを阻止しようとする教師によるコメディで、どちらの側にも共感しにくい映画だったし、『ファミリー・ツリー』(11)にしても、結局のところハワイの自然を開発の手に委ねるかどうかというお話と妻の愛人を巡るドタバタからは、なかなかに教訓を引き出しにくかった。もちろん、『アバウト・シュミット』にしても『サイドウェイ』にしても、きちんと映画を見れば、奇妙な余剰部分を核に持つ作品であることは明らかだろう。 この『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』もまた、たしかにわかりやすく家族をテーマにした映画ではある。少し痴呆気味な様子の年老いた父親(ブルース・ダーン)が、懸賞金を当てたからとネブラスカ州にあるリンカーンという町まで歩いて出かけようとする。それは明らかに詐欺広告の類なのだが、家族の制止を聞かない。車の免許を取り上げられ、運転することができないのだから自分の足で行く他ないのだと、目を離せば歩き始める。長男(ボブ・オデンカーク)と母親(ジューン・スキップ)は、老人ホームに放り込むことを主張するが、次男デイヴィッド(ウィル・フォーテ)は、父親の旅につきあうことにする。彼自身の人生もまた停滞していて、しかもその澱みから出ること自体に躊躇してもいるため、やみくもに前進しようとする父親の運動に巻き込まれることで、停滞した日常の時間の中から引きずり出されてみたいという気持ちもあるだろう。


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『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』 2月28日よりTOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館他全国ロードショー オフィシャルサイト http://nebraska-movie.jp (c)2013 Paramount Pictures. All Rights Reserved. |
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初出
2014.02.25 16:30 | FILMS