Jack The Giant Killer

ブライアン・シンガー監督
『ジャックと天空の巨人』

リアルっぽさのわけ

文=

updated 03.22.2013

『ジャックと豆の木』と言えば、ディズニーのアニメ映画を絵本化したものがまず記憶に浮上する。小さな小屋の床板に開いた穴に転がり落ちる豆。夜の内にニョキニョキ伸び上がり、雲の上に到達するツタ。デカイお城に巨人。そこに囚われているハープ娘。ぷるんぷるん波打つ巨大なゼリー。チーズの穴の中に隠れて危機一髪。そういえば、自分のサイズが小さくなり、日常生活空間の隅っこに身を隠すというシチュエーションが興奮させたっけ。で、最後は娘を助け出して、巨人が降りてくる前にツタを切り倒してめでたしめでたしだっただろうか。

と思い出しながらこの映画を見ると、まあほぼそんなかんじの物語が、近年流行のリアル化された世界観の中で展開される。つまり王宮の様子、街の雰囲気、巨人の造形なんかが、おとぎ話の記号性ではなく、“リアルっぽさ”の記号を体現するかたちで映像化されている。巨人であるが故に頻繁にデッカク映し出される鼻の穴とか口の中とか目玉といった細部が、とにかく“ありそう”の圏内で生き物っぽく作られている。

そういうわけで、もっとおとぎ話的なルックにしてもよかったのではないかなあとぼんやり考えながら見ていると、ツタを上っていくその過程がヤバかった。「なるほどこれを3D映画企画として通したのはこのためだったのか!」と理解させる超高度感……。チンさむどころではない。高所恐怖症の人間は3Dメガネを直ちにはずしてしまうだろう。たしかに、ここをリアルっぽくするためということなら理解できる。

 

それにしても、「閉所恐怖症感」を煽る企画や惹句はいくらでも見てきたし、高高度の場所でアクションを展開する映画もひとつのジャンルを形成しているが、高所恐怖症の症状を実際に起動させてしまうものは、ありそうでなかったのではないだろうか。これを見てしまうと、モノがこちらに突き出るとか、細かな破片が目に飛びこんでくるとかいった驚かしの定番とそのヴァリエーション以外にも、まだ探求すべき3Dの使い方があるのではないかという気もしてくる。もちろんそれでも結局のところ、いかにしてリアルな“恐怖”を体験させるのかということに収斂するということは変わりないわけだが。

 

しかしながら、であるとすれば、それとは真逆の方向をまさぐってみることもまた無価値ではないということにもなる。圧倒的な強度を持った感情体験は、2D映画で十分に実現されてきたわけだが、そこにもう一次元を加えることでなにが可能になるのか。

なんていうことはこの映画とはあまり関係がないようでいて、ひとつの物語が神話となり、現在につながるというラストの処理を見ていると、紋切り型を召喚しているようでいて、どこか過剰な試みの残滓も感じられたりするわけで、もしかしたら単なる“お仕事”である以上に、裏側でなにかの実験が行われていたのではないかという妄想にも捕らわれる。

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『ジャックと天空の巨人』
3月22日(金)、丸の内ルーブルほか全国ロードショー 3D/2D 吹替え版同時公開
ワーナー・ブラザース映画配給
(C)2013 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND LEGENDARY PICTURES FUNDING, LLC
公式サイト http://www.jack-kyojin.jp
公式facebook https://www.facebook.com/jackthegiantslayerjp

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初出

2013.03.22 09:30 | FILMS