Argo

ベン・アフレック監督
『アルゴ』

サスペンスと笑い

文=

updated 10.26.2012

ベン・アフレックの監督第二作目にあたる前作『ザ・タウン』は、決して力量がないわけではなく、むしろきちんと勉強をしてきた努力家としての基礎体力が感じられるのにもかかわらず、まだまだ映画的勘所のおさえ方が甘く、全体として生真面目なだけで特に終盤はグズグズ、結果的に必然性すらボケボケになった作品という印象に終わっていた。要するに、惜しかったということなのだが、本作ではどうなのか。結論から言えば、前作での反省があったのかどうか、明確に一皮むけていて、上質な娯楽映画に仕上がっていた。

そもそも、前作のような「悪の道から逃れられない男」という辛気くさい文学的なネタではなく、「映画製作者のふりをして囚われの身にあるアメリカ大使館員を脱出させるCIA局員」という、底の抜けた実話ベースのネタを選択したところが、まず成功の第一要因だろう。もちろん主人公のCIA局員を演じるのはベン・アフレック自身であり、私生活でも仕事でもパッとしない男という自己憐憫系キャラであることには変わりない。

だが映画の興味がそこにはないことを正確に理解し、とにかくヒッチコック的にドベタな手法からなにからありとあらゆる手管を恥ずかしげもなく用いてサスペンスを盛り上げるという姿勢に徹底することに成功しているのだ。冒頭のドキュメンタリー・スタイルで撮影された米国大使館前でのモブシーンだけを見てしまうと、これはこれでうまくいっているのだが、最後までこれで突き通しそれでも娯楽としてまとめ上げるほどの腕力の持ち主だっただろうかと心配になるのだが、それも杞憂に終わる。スタイルの徹底という映画的自意識に傾かず、物語の方に映画を奉仕させることができていた。

 

物語自体はテヘラン(イラン)のカナダ大使公邸に潜んでいるアメリカ大使館員グループのパートと、それを脱出させる作戦の一部として、ハリウッドにおいて大々的に映画製作を開始してみせるというパートが、対照的に交錯しながら進行する。一方では逃亡者たちはいつまで大使公邸に潜んでいられるのかという命のかかったサスペンスが高まり、一方では最初からウソだらけの業界の中でウソの映画作りに着手するという業界コメディーが展開される。そしてもちろん、今回ばかりはそのウソも命を救うために積み重ねられているという皮肉が映画全体のトーンを規定しているために、局の命令と人間としての信念との間で揺れ動くという、後半における青臭くなり得た展開もまた、一歯車としての機能を全うすることに終始し得たのである。

 

かくて、「事実は映画よりも奇なり」という命題を事実そのものとして語るために、サスペンスと笑いが極めて良いバランスで交合されたという、誰もが楽しめる娯楽映画が出来上がったのである。クレア・デュバルその他による大使館員側のリアルな顔ぶれと、アラン・アーキン&ジョン・グッドマンをはじめとするハリウッド側のウソくささ満開なジジイどもというキャスティングの対比もまた楽しい。

次回作でも余計な自意識に絡め取られることなく、突き進んでもらいたいものだ。

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初出

2012.10.26 10:00 | FILMS