ベン・アフレックの監督第二作目にあたる前作『ザ・タウン』は、決して力量がないわけではなく、むしろきちんと勉強をしてきた努力家としての基礎体力が感じられるのにもかかわらず、まだまだ映画的勘所のおさえ方が甘く、全体として生真面目なだけで特に終盤はグズグズ、結果的に必然性すらボケボケになった作品という印象に終わっていた。要するに、惜しかったということなのだが、本作ではどうなのか。結論から言えば、前作での反省があったのかどうか、明確に一皮むけていて、上質な娯楽映画に仕上がっていた。
そもそも、前作のような「悪の道から逃れられない男」という辛気くさい文学的なネタではなく、「映画製作者のふりをして囚われの身にあるアメリカ大使館員を脱出させるCIA局員」という、底の抜けた実話ベースのネタを選択したところが、まず成功の第一要因だろう。もちろん主人公のCIA局員を演じるのはベン・アフレック自身であり、私生活でも仕事でもパッとしない男という自己憐憫系キャラであることには変わりない。
だが映画の興味がそこにはないことを正確に理解し、とにかくヒッチコック的にドベタな手法からなにからありとあらゆる手管を恥ずかしげもなく用いてサスペンスを盛り上げるという姿勢に徹底することに成功しているのだ。冒頭のドキュメンタリー・スタイルで撮影された米国大使館前でのモブシーンだけを見てしまうと、これはこれでうまくいっているのだが、最後までこれで突き通しそれでも娯楽としてまとめ上げるほどの腕力の持ち主だっただろうかと心配になるのだが、それも杞憂に終わる。スタイルの徹底という映画的自意識に傾かず、物語の方に映画を奉仕させることができていた。
次回作でも余計な自意識に絡め取られることなく、突き進んでもらいたいものだ。
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今日の連載コラム/写真集は、路上の駐車スペースを切り撮ったマーティン・パー『Parking Spaces』です!
初出
2012.10.26 10:00 | FILMS