何年か前、セイラムに足を踏み入れたことがある。ニューイングランド地方各地に点在するラヴクラフト作品の舞台を訪れるというのが目的だったのだが、南西部の砂漠を縦断する旅にばかり慣れてしまっていて、ハロウィーン直前の時期の東海岸がどれほど観光客でごった返すのかに気づいていなかった。
そのせいで、マサチューセッツ州を彷徨い出て、ニューハンプシャーからメイン州の方に向けて、投宿先を求めて深夜の真っ暗な道をひた走るはめになったりしたのだが、なぜかセイラムにだけはすんなり泊まれたのだった。
そこはハロウィーンの飾り付け一色で、魔女裁判関連の歴史的建造物までもがファミリー向けテーマパークそのものの様相を呈していた。そもそもニューイングランド地方の田舎町とはいってもそこはやはり新大陸のこと、道は意外と広く、建物は十分にゴシック・ホラーな貫禄を見せているものの思った以上に間隔を開けて建っていて、本国イギリスの田舎町を横方向に弛緩させたというような、想像よりも間の抜けた面持ちだった。
狭い路地の間から不吉なものがわき出してくるという雰囲気はなく、だがそれ故にむしろ、過去の凶事が320年以上の時を経てなお、ぺらぺらな祝祭の一部と化して生き延びている様からは、暗黒の歴史や、その空気の中で生成されたクトゥルー神話をはじめとする数々の仄暗い物語の香りが匂い立つようでもあった。
そしてこの作品、『ロード・オブ・セイラム』もまた、その印象が間違っていなかったことを最終的に示すことになる。
しかしながら、ジョン・カーペンターの『ザ・フォッグ』(80)を彷彿させる正統派ゴシック・ホラーな幕開けに、その懸念も不要なものであったことを知らされる。
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初出
2013.09.30 09:00 | FILMS