周知の通り、エメリッヒといえば90年代後半以降の『インディペンデンス・デイ』(96)、『ゴジラ』(98)から近年の『2012』(09)にいたる作品群によって、派手な直球破壊描写を満載したハリウッド超大作の代名詞にもなったドイツ人監督である。ところがこの作品は、「ウィリアム・シェイクスピア別人説」を基にした、主に16世紀末のイギリスを舞台とするコスチュームプレイだという。
もちろん、ポップコーン・ムーヴィーの作り手として興収をたたき出すことはあっても、アーティストと見なされることのない作り手が、ようやく手に入れた影響力を最大限に活用することで、もともと持っていた個人的な趣味(“本来の自分”!)へと過剰に特化した作品を生み出してしまうという珍しい話ではない。パブリック・イメージを裏切る“高尚な芸術作品”を撮り上げて見せ、世間に見直させたい、という欲望に駆られて。では、本作がその類のものなのかどうかといえば、おそらく違うのだ。
それから、劇中上演される「シェイクスピア作品」が、ひたすら大衆の心を煽り立てる強烈な力を持った大スペクタクルとして演出されていること。観客席から矢が放たれ、水が降り注ぎ、炎が燃え上がる。エメリッヒ印の映画を16世紀末に移植すればこういう風になるのだとばかりに意気揚々を見せつけるのである。
また、現代のNYで幕を開け、それが16世紀末から17世紀の始めの英国という時空に跳び、さらにはその中でだいたい数十年の幅で時制が行き来するという一見複雑な構成を持つうえ、同一人物の過去と現在をはじめとして、親と子、主従、友人、敵味方、といういくつものかたちの鏡像関係を登場人物たちが持つことによって物語が進行していくため、ややもすると誰が誰なのかと混乱させられてしまうのだが、物語そのものは、ひと言でいって宮中の愛憎と権力を巡るメロドラマにすぎないということ。たしかに、「宇宙人の侵略と戦う」、「巨大な爬虫類がNYで大暴れ」、「地球に天変地異が起こる」というものに比べれば多少複雑ではあるものの、一筆書き可能なあらすじであることに変わりはない。
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12月22日(土)より、TOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館他全国ロードショー
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初出
2012.12.20 10:00 | FILMS