11月20日発売スタジオ・ボイス特別号 「MUSIC in CAR」より
追悼・若松孝二監督
真摯な「バカヤロー!」
帰国した足立正生が若松孝二の事務所にいるらしいと耳にして、ファックスを送ったことがある。すぐに電話がかかってきて、第一声は「バカヤロー!」だった。若松監督の声だった。
「なんでこんなの送ってくるんだ!」と問われ「○○さんからうかがいまして……」と口ごもると、「あいつはなんでそんなこと言うんだバカヤロー!」と二人分怒鳴られ、反射的に謝った。だがなぜか切り際のその声には微笑みと感じられる綻びを感じ、イヤな気分ではなかった。
『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』の音楽を担当したジム・オルーク氏は、「とうとう自分がバカヤロー! って言われる側に回っちゃった」と微笑んでいた。オルーク氏への「バカヤロー!」とは文脈も強度もまったく違うので並べて語るのはおこがましい限りだが、それでも若松監督の「バカヤロー!」を、一生に一度でも身に浴びたのは名誉なことだったのだと理解した。
同じ話をフランスの映画監督ギャスパー・ノエにしたところ、ゲラゲラ笑いながら「あんなに真摯なひとはいない」とだけ応えた。こうしてだれもがその強烈な引力圏内に飛び込んでゆき、あの巨大な作品群に参画していったのだろう。
参画には当然ながら見るという行為が含まれる。だが特に若松作品は、見るだけでは済まない。それはいつでも我々への真摯な「バカヤロー!」なのだ。だから、喪失感に身を委ねている場合ではない。我々にはしなければならないことが山ほどある。
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□「追悼を超えて 若松孝二in新宿」 開催日時:11月23日(金) 劇場:テアトル新宿 開場22:15 開演22:30(5:00終了予定) 『死にたい女』(1970) 上映 トークpart1「映画監督・若松孝二を語る」 ゲスト:足立正生、平沢剛(聞き手)、他(予定) メイキング上映 トークpart2「現在進行形の若松孝二」 ゲスト:井浦新、満島真之介、大西信満、地曵豪、渋川清彦、岡部尚、辻智彦(予定) 『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(2012)上映 (問)テアトル新宿 TEL:03.3352.1846 (C)若松プロダクション『千年の愉楽』 □『千年の愉楽』 |
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スタジオ・ボイスがお届けする3年ぶりの雑誌バージョン、特集「MUSIC in CAR」。
来週11月20日(火)に発売となります。
本日ご紹介したのは特集中、「追悼・若松孝二監督」です。
パトカーの前でおどける若松監督。「こんなおちゃめな監督の写真が・・・」(関係者)という貴重な一枚です。
特集では、著名人のインタビューやクリエイターが選ぶ「ドライビング・ミュージック」のほかに、カルチャー記事(ロードムービーの変遷や、写真集紹介、文学、ファッションetc…)やイベントレポートなど、様々なジャンルから「音楽とクルマ」をカットアップしていきます。
特設ウェブサイトでは、特別号に収録予定の記事や取材レポート、「音楽とクルマ」にまつわるコラムなど、様々なコンテンツを発信しています。
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初出
2012.11.15 11:00 | PICKUP