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石岡正人監督

『Yoyochu SEXと代々木忠の世界』

機能とコンセプト

文=

updated 01.27.2011

ドキュメンタリー映画としての作り云々ということを遙かに超えて、被写体である代々木忠という人間が圧倒的に面白いが故に、面白くならないわけがないのがこの作品である。という感想を抱かせるということはとりもなおさず、被写体の魅力をダイレクトに捉えることに成功しているわけで、ドキュメンタリーとして成功しているということでもあるのだ。

なにしろヨヨチュウ作品のフッテージも驚くほどの本数が引用されているし、出演女優たちの顔にもぼかしは入っていない。しかも、冷めた距離を持って眺める対象として過去作品が入り込んでくるわけではない。どれもこれも抜群に面白いし、ただ面白いだけではなくAVとしての魅力も十分にというか強烈に感じられる。キッチュな時代風俗を振り返ることで笑いを誘われる、ということではないのだ。ひとことで言えばむちゃくちゃエロい。

「女の股ぐらでメシを食っているという負い目から、せめて出演する女性たちには悦びを与えたいと考え続けてきた」という意味の言葉が語られる。そこからセックス・セラピーとでも呼ぶべき手法が鍛え上げられていったわけだが、それはすなわち対象に対する最大限のコミットメントをも意味することになる。事実、ある事情から精神を病んだ女性20人ばかりを引きうけたことによって、自身も鬱病に罹患することになってしまったという体験が、乾いた笑いと共に語られもする。

そうした生真面目あるいは一本気と呼ぶほかない筋の通し方が、極道時代(いまだにその内容の多くを語ることができないという)から現在(月一本のペースで新作を制作中)に至るまでの代々木忠という人間を貫いているが故に、本来であれば生産的な議論の土台を提供するはずのその作品が、生中なフェミニストの激昂を買うのだろう。

とにかく、興業という剥き出しの商業性を確保する作品の内容=機能と、機能との間に齟齬をきたすことのない強固なコンセプトとを、奇跡的な高さでシンクロさせることに成功したひとりの作り手として、代々木忠に比肩しうる映像作家は少ないのではないか。

『Yoyochu SEXと代々木忠の世界』
銀座シネパトス、渋谷アップリンクXほか全国ロードショー公開中


『Yoyochu』オフィシャルサイト
http://www.yoyochu.com/

公開情報

(C) 2010 ゴールド・ビュー/スターサンズ/石岡正人



初出

2011.01.27 08:00 | FILMS