アンドリュー・スタントン監督
『ジョン・カーター』

娯楽映画の良い仕事

文=

updated 04.18.2012

エドガー・ライス・バローズが1910年代に発表し始めた『火星』シリーズを原作に、アンドリュー・スタントンが監督したのが、この作品である。スタントンと言えば、ピクサー中心メンバーのひとりであり、『トイ・ストーリー』シリーズでは共同脚本を、『ファインディング・ニモ』や『ウォーリー』では監督を務めている。90年代半ば以降、アメリカ映画の最良の部分を担ってきた男とも言えるわけで、そういう人間の仕事であるからにはそれほどハズしているはずがないとは思いつつ、古色蒼然とした物語を、映画はどうすればよいのか、と一抹の不安も覚えたわけだが、果たして、映像としても物語としても非常に楽しいという、極めてそつのない、安心して見られる上質な娯楽作品に仕上がっていた。

巨大建造物から飛行マシン、そしてクリーチャーたちなどなどの造形は、近年のスチーム・パンク好きの感覚にも応えながら、それでもレトロフューチャーに寄せすぎることなく、『スター・ウォーズ』や『アバター』を拾い見しているだけの一般層にもおそらく十分にアピールするであろう領域に収められている。

物語もまた、原作に驚くほど忠実でありながら、それを巧みに換骨奪胎し、「味」として看過する部分と、同時代の観客にとっての最低限のSF的お約束ごとはおさえる部分とを明確に弁別する手際の良さを見せる。まあいずれにせよ、ジャンルの原形とも言える古典なのであるから、その骨格は強固だったということなのかもしれないが、そうであったとしても、スタントンらは良い仕事をしているとしか言いようがないだろう。

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『ジョン・カーター』
3D ・2Dロードショー中!
©2011 Disney. JOHN CARTER™ ERB, Inc.

□ オフィシャルサイト
http://www.disney.co.jp/johncarter/

初出

2012.04.18 10:00 | FILMS