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オリヴァー・ストーン監督
『野蛮なやつら/SAVAGES』

曇りのない世界

文=

updated 03.07.2013

閃きに充ちた聡明な植物学者と、暴力を知り尽くした元傭兵。上質なマリファナを生産する知識と、取引につきまとう暴力の行使。ふたつの資質の完璧なコンビネーションにより、事業は極めて順調。ふたりは親友で、ひとりの女性を共に愛し、彼女もまたふたりを愛している。三人の世界に曇りはない。

だが、事業を行っている以上、世界は彼らだけのものではない。国境の南、メキシコに根を張る麻薬カルテルから使者が訪れ、ビジネス提携を提案する。もちろん、傘下に入らなければ事業を続けることはできないというゆすり以外のなにものでもない。まともな理性の持ち主であれば互いの力を天秤にかけ、勝機の一筋もない戦いは避け、「提携」という用語によってプライドだけは守りながら事業を継続するところだろう。

すでにして、極めてオリヴァー・ストーン的な状況が現出していることがわかるだろう。理不尽な衝動に駆られて、誰から見ても無謀な賭けに身を投じ、一路敗北へと突き進んでいくというのが、ストーン作品でお馴染みの人物像である。

ところが、断片をたたみかけることで物語を強力に押し進めるという点では、映画のスタイルそのものもストーン的ではあるのだが、どこか肩の力が抜けているように感じられる。風通しが良い。暴力的な不穏さはあるが、これまでのストーン作品に充ちていた破滅的な切迫感が少ない。そういえば『ウォール・ストリート』からもそういうものが脱色されていなかっただろうか。結果は、作り手の気持ちはわかるけど、単にゆるゆるにしか見えないという残念なシロモノだった。

 

そんなことを考えているうちに、ストーン映画であることすらいつのまにか忘れ、腕力のある新人による第二作を見ているような気分にすらなってゆく。要するに、普通の娯楽映画としてとてもよく機能している。自意識が前景化することによる濁りはない。そしてそれは、映画の最後まで変わることがなかった。

ひとことで言えば、オリヴァー・ストーンはようやく敗北のオブセッションから抜け出し、つまりはオリヴァー・ストーンという己自身の限界点から脱し、ようやく普通の娯楽映画を撮り始めることができたということなのではないか。ドン・ウィンズロウによる原作の中に極めてストーン的なものを嗅ぎ取り、近づいたものの、それを組み伏せるようにして撮り上げるのではなく、語られている物語に奉仕したということなのだろう。丁寧に、と言っても良いだろう。言うまでもなく、それは我々にとってこの上なく喜ばしいことに他ならないのである。

☆ ☆ ☆


『野蛮なやつら/SAVAGES』
3月8日(金)TOHOシネマズ みゆき座他ロードショー
R15+
(C)Universal Pictures
公式サイト http://yabanna-yatsura.jp/

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初出

2013.03.07 10:00 | FILMS