ONE SHOT

クリストファー・マッカリー監督
『アウトロー』

「アクション」に飽き飽きしてるなら

文=

updated 01.31.2013

この映画を監督し脚本も書いたクリストファー・マッカリーとは、一般的には『ユージュアル・サスペクツ』(95)の脚本を書いた男ということでしかないのだろうが、ほぼ無視されたと言っても良い初監督作『誘拐犯』(00)を忘れてはならない。

おそらくはホモセクシュアルな関係にあるちんけだがプロの犯罪者ふたり組(ベニシオ・デル・トロ&ライアン・フィリップ)が、ふと耳にした情報から金持ち夫妻の代理母を務める娘(ジュリエット・ルイス)の誘拐を企て、実行するという具合に物語は始まる。ところが、身代金を目的としたそのシンプルな犯罪行為が、実はマフィア的な組織の頭領たる金持ち本人とその警備担当者のみならず、若い妻やボディーガードたち、そして娘を診る婦人科医といった、周囲の人びとの抱える複雑な思惑と陰謀の巣を突くことになってしまう。こうして、追跡劇という本来単純な物語の背後でうねりまくる豊かなバックストーリーの上で、『The Way of the Gun(=銃の道)』という武士道を想起させる原題に象徴されるとおり、銃の道に生きるプロフェッショナルたちのハードボイルドな姿が極めて映画的な興奮を生成してゆく。

サム・ペキンパー、ジャン=ピエール・メルヴィル、ドン・シーゲル、サミュエル・フラーといった人びとの映画が持っていた硬質な手触りが、次々と喚起されることだろう。しかも、謎解きやサスペンスというジャンルの約束事とはまったく異なる次元で、ひとつのシーンのあとにどんなシーンがやって来るのかもわからなければ、ひとつの顔を持つ登場人物が次の瞬間にどれほど異なった顔を見せることになるのかもわからないという、危険な映画だった。言葉の真の意味でのスリリングな作品だったのだ。そのスリルに耐えられない者は、「詰め込みすぎの失敗作」という烙印を押すか、はじめから無かったことにすべく無視を決め込むことになったのだろう。

 

ところで、『誘拐犯』には、特徴的なアクション・シーンがふたつあった。ひとつ目は、高速と停止ギリギリの微速の間を激しく振幅するという、スピードと破壊一辺倒の退屈さからはほど遠いカー・チェイスであった。そこでは、路地に走り込んだ逃亡者が速度を極限まで落としながら扉を開き、車だけはじりじり前進させた状態で飛び降り、付近の建物に吸い込まれた後思わぬ角度から追っ手に銃撃を加え、再び飛び乗って急加速したりするという、それまで見たことのないものだった(ニコラス・ウィンディング・レフン監督、ライアン・ゴスリング主演『ドライヴ』の冒頭シーンは、明らかにそのリズムを参照していた)。

もうひとつは長距離狙撃を中心に据えたガン・アクション。音よりも先に空気を切り裂いて弾丸がやって来るということと視界のすべてが射程圏内にあるという緊張、そしてそうしたことをすべて計算に入れて狙撃手が配置され、反撃が行われるという知的ゲームの精密さによって、単純な撃ち合いとは比べものにならない強度を獲得していた。

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初出

2013.01.31 10:00 | FILMS