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ジェームズ・ワン監督
『インシディアス』

けっこう怖い

文=

updated 08.29.2011

要するに『パラノーマル・アクティビティ』を劇映画にしたというだけのことなのだが、『パラノーマル〜』そのものが幽霊屋敷ものという劇映画の伝統的な一ジャンルをフェイクドキュメンタリーという手法に翻訳したものだったわけで、本作はそれをさらに劇映画へと、言わば重訳したものということになる。その意味できわめて今日的な成り立ちの作品であるということが、まず言えるだろう。

それは手法だけの話はない。『パラノーマル〜』の持っていた、娯楽性に対するあっけらかんとした姿勢、つまりは、「低予算&ホラー→フェイク&限定されたロケーション→幽霊屋敷もの」という、企画のストレートな筋道の中になんの衒いも混入させないという態度にも通底している。結果この『インシディアス』は、『回転』からJホラーを経由して『パラノーマル〜』に至るまで古今東西の幽霊表現から使えるモノはすべて使いながら、教養主義からはほど遠い映画となっている。

言い換えると、オリジナリティの欠片も追求されていないということにもなるのだが、ここではそんなことはどうでもいいのだ。なにしろ驚いた事に、結構上手なのだから。たぶん、ジェームズ・ワン監督作の中ではいちばんうまく機能している作品なのではないだろうか。すべてが、怖がらせることにきちんと奉仕している。

繰り返しになるが、新しいものはひとつもない。ホラー映画の先端部分を見ようなどという目的でこの映画に接してはいけない。あくまで、何が起こるのかすべてわかっているのにギャッと声を上げてしまうお化け屋敷として見るべきなのだ。娯楽映画以上でも以下でもないのだから。

本作を見た後、見逃していた前作『狼の死刑宣告』を見たら、これもまたけっこうちゃんとしていた。ジェームズ・ワンは、小〜中規模な娯楽映画の良い職人監督へと育ちつつあるのかも知れない。

『インシディアス』
シネマサンシャイン池袋、TOHOシネマズ六本木ヒルズにて公開中
配給:ショウゲート

□ オフィシャルサイト
http://www.insidious.jp/

公開情報

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初出

2011.08.29 11:00 | FILMS